第4話:神嬢

「カトリーヌ、新たに手に入れたこの領地は、どう治めればいいと考えている?」


 祖父のマリガンが、借金のカタに他の貴族から手に入れた領地の話をしてくる。


「書類だけでは誤った答えになる可能性があります」


 私はいつも通り最初に予防線を張っておく。


「そのような事は分かっている、これは儂からお前への試験だ。

 実際に取り入れるかどうかは、現地を視察したうえで決めるから、余計な事を言わずに思った事を正直に話せ」


 ここまで言われては、正直に思った事を答えるしかない。

 できるだけ早く発言権を手に入れて、王太子との婚約を解消させようと考えたのが、愚かだったのかもしれん。

 前世で得ていた農業改革の知識を披露して以来、領地の事を質問されるようになってしまった。

 それだけならまだよかったのだが、俺の事を神から祝福された子、神童、いや神嬢と褒め称え、領地改革の成果を大々的に広めやがった。


「一番費用を抑えて利益を上げるのは、作物を全て酒に変える事です。

 穀物のままで売るのとでは数倍の利益差があります。

 今の耕作面積のままで生産力をあげるのなら、鶏と豚を飼って肥料の質をあげる事ですが、費用を使ってもいいのなら、魚肥を購入して畑にまくこともできます。

 ですがそれは、費用と収穫量の増大を比較検討してからです」


 女言葉、令嬢言葉を喋るのは虫唾が走るが、喋らなければ厳しい折檻をされるから、嫌々でも覚えるしかない。

 貴族令嬢がこんなに厳しく躾けられるとは思わなかった。

 プランケット伯爵家だけかもしれないが、令嬢の尻を鞭で叩くとは何事か!

 まあ、言葉ひとつ間違えてしまうだけで、不敬罪で処刑される可能性もあるのが社交界だと言われれば、覚えて使うしかないのだが。

 気持ち悪いモノは気持ち悪いんだ、覚えていろ糞神、この恨みは絶対に晴らす!


「ふむ、何故用水路や溜池を提案しない?」


 分かっていて質問しているのだから、祖父は性格が悪い。

 俺を試しているのだろうが、今更馬鹿を演じる訳にもいかない。

 三歳で前世の知識を披露してから四年、もう後戻りはできんのだ。

 それにしても、よくこれだけ毎回敵を作るものだ。

 まあ、敵を作ったら確実に潰して後難を避けるから、俺も安心しては居られるが。


「正面から敵対している相手だけでなく、我が家に隔意を抱いている貴族家は多いので、飛び地になるここで用水路を作っても、破壊されるのは目に見えています。

 この飛び地のためだけに守備隊を置くのは不経済ですから、ここは今ある耕作地を活用するだけで、経費の投入は避けるべきです」


 俺は自分の考えを隠すことなく披露した。

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