第97話 その頃のロミィ
アルバートがソフィアの騎士として相応しくなろうと頑張っている頃、マリィのパートナーであるロミィは、ロミィなりの方法でマリィを支えようと頑張っていた。
一時はキャロラディッシュに戦うための力を与えてくれと要求していたロミィだったが、そういった方法は自分に合わないと考えを改め、自分らしくフクロウらしく……世話焼きロミィらしい方法を模索していたのだ。
マリィが薬草などを欲した時は、その翼でもって空を舞いその鋭い目でもって薬草を探し当て、凄まじい速度で屋敷に届けて、木の上に生えるヤドリギや、高山にのみ生える小さな花なんかも、驚く程の速さで取ってきて。
屋敷の中においても、高い本棚の天井や、カーテンレールの上などに溜まった埃を目ざとく見つけて拭き取ったり、屋根の上や煙突の上の、魔術を使わなければ中々掃除できない場所を掃除してみたり。
屋敷内で猫達が喧嘩したならその仲裁をし、何か悩んでいる猫達がいたなら相談に乗ってやって。
庭のミツバチの巣箱に良からぬ虫や、鳥が近づいたならそれを追い払って……場合によっては狩ることで、その安全を守って。
キャロラディッシュに届く手紙も逐一チェックして……明らかに返信が必要そうな手紙を破ろうとするキャロラディッシュを静止して、どうにか返信を書かせて。
……ビルのチェック漏れか何かで届いてしまったキャロラディッシュに見せるべきでない手紙を破り捨てたりもして。
マリィが成長の兆しを見せて、ある程度一人にしても大丈夫だとなってくると……世話焼きロミィの世話焼き心は段々と……自然とキャロラディッシュの方に向いてしまい、次第にキャロラディッシュの側にいることが多くなったりもして……そうして今日もロミィは、サンルームで論文を書く、キャロラディッシュのことを、サンルームの天井に吊るされたランプの傘に捕まりながら見つめていたのだった。
「……キャロット、アンタ結婚はしないのかい?」
時たまそんなことを言ってしまうのが玉に瑕であったが……それもまたロミィらしい世話焼きだと言えた。
「……結婚ってのは人間の社会ではつがい以上の意味があるんだろう?」
キャロラディッシュが無視を決め込む中、更にロミィがそう言って……キャロラディッシュはため息を吐き出しながら椅子を動かして振り返り、ロミィのことを見上げながら言葉を返してくる。
「そうだな、意味のあることだな。
そして重大な意味があるからこそ、こんな死にぞこないの爺は結婚をすべきではないのだ。
後数年でこの世を去るだろう爺と結婚したいなどという女性もおらんだろうし……何より儂自信もまた結婚をしたいなどとは露ほども思っておらん。
……この家と遺産を継ぐ役目は既にソフィアが担うことになっているのだから、そんなことをわざわざする必要は、全くといって良い程に無いだろう」
「そういうもんかねぇ?
マリィもその後を支えてくれる存在がいたら喜ぶんじゃないかい?」
「支えてくれる存在ならば、この屋敷にいる猫達やビル、ロビン……それとマリィとお前も居るだろう。
大陸に帰ったとしても、手紙などでやり取りは出来るだろうしな……あの二人の様子ならその縁は太く長く、いつまでも続くことだろう。
他にも以前の旅行で出会った各地の者たちや、ウィクル、マリィの祖母達などソフィアの味方となってくれるだろう人物は多く存在しているし……もしソフィアがそれ以上を望むのであれば、自ら選び取るという手もあるだろう。
……これ以上儂が余計な手を出さずとも、ソフィアであれば大丈夫だろうよ」
「そういうもんかねぇ?
もっと直接的に結婚して何個か卵作って、ソフィアに兄弟をプレゼントしてやればいいのに」
首をこてんと傾げながらそう言うロミィに……キャロラディッシュは大きなため息を吐き出し、それ以上言葉を返すことなく沈黙する。
キャロラディッシュの立場としてはしっかりと人と鳥の違いを……結婚と出産の方法や価値観、そこに年齢が深く関わることを説明すべきだったのだろうが、ロミィ相手にそうするのが面倒で……説明をしたらしたでまた変な世話を焼かれそうで、ただただ沈黙することを選ぶ。
それは悪気がある訳ではなく、本当にただのお節介で……基本的には皆のためになることを、皆に深く感謝されることばかりをするロミィであったが、時たまこういう暴走をすることがあり……そして何故だかその暴走の被害を受けるのは決まってキャロラディッシュだけだった。
以前のキャロラディッシュであれば、こういった話は真っ向から拒絶していて、話を振られるだけで怒りを顕にしていたのだが……ソフィアと出会えたことで両親のことが決着したことで、そうすることは無くなり、しっかりと受け止めて言葉を返すようになっていた。
そういったキャロラディッシュの態度が余計にロミィの世話焼き心をくすぐってしまうのか……ロミィはキャロラディッシュが無言になってしまっても、論文に集中するようになっても、気にすることなくランプの上に佇み続ける。
……そうして少しの時が流れた所で、キャロラディッシュが使っていたインク壺が空になってしまう。
折角ペンが走り始めた所なのに、これからという所なのに、ここでインクが空になるかと、キャロラディッシュはため息を吐き出そうとした時……コトンと新しいインク壺が机の上に置かれる。
そしてそれを持ってきたのはやはりロミィで……ロミィはそれが当たり前のことのように何も言わず、何も求めず、さっとインク壺を残して飛び上がり……すっかり慣れつつある定位置にその小さな体をすっと納める。
「……感謝する」
するとキャロラディッシュが、振り向くことなくそんなことを呟き……それを受けて満足そうに目を細めたロミィは、今度はどんな世話をしてやろうかと、そんな事を考えながらキャロラディッシュのことを見つめ続けるのだった。
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