第8話 青天の霹靂
法律を決めるのは政府、舞台の演出を決めるのは脚本家、料理の味を決めるのは料理人、物語の内容を決めるのは書き手。
では、「常識」を決めるのは?
正解は、「普通」な人間たちです♪おかしいですよね、自分たちの決めた「
ま、成長したいがため、「
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
━━静寂が訪れる。期待以上の言葉を貰った
救われた。彼の━━
非才が天才を討つ方法。香織にとって、虚数の彼方にある可能性を、さも当たり前のように言い切って見せた。
そして、その少年━━光希は続けた。
「天才が負けない━━誰が決めた?閃きがない非才なやつらが、自分のプライドを守りたいがために言ったこと。天才と自分に明確な差をつけ、諦めるためのもの......」
自信を瞳に宿し、飲み込まれそうなほど真っ黒に━━だが、どこまでも深い所に熱意を感じる、そんな瞳をしていた。
「天才なんてもの、地に堕としてやる......非才の手が届くところにな」
光希は能力者じゃない、人間だ。なのに断言した。でも、冥帝や百聞は天才だ。だから聞きたい━━
「でも......私の知ってる天才は、きっと地に堕ちるような失敗はしない━━」
香織は知っていた。冥帝は光希の言う予想外を仕掛けることができる。だが、百聞はそれを読んで対応する。彼らに予想外が通じるのかどうか......
「ならこっちが跳んでやれば良い。その瞬間その場所は、非才の手が届くところだ」
「跳ぶ」......それは継続的ではなく、一時的に空を舞うということ。一瞬でも手が届けば、絶対的な差じゃないと?
香織は理想論だと思った、だがそんな発想が無かった。やっぱり光希は特別だ。だが、天才じゃない。
(私は光希みたいになりたかったのかな......)
特別で普通で、非凡で平凡で、天才で非才な彼のように。
香織は少しでも近づいて見せると、意思を固め━━
「お話は終わりですか?」
「!?光希、下がって!」
百聞が現れる。どこから来たのか、全く見当がつかない。
「良いお話を聞きましたよ。天才を地に堕とす?なかなか立派な思想じゃないですかぁ!」
香織は焦る。光希がいるところでは戦えない。それに、今の自分に守れるかどうか━━そう考えている後ろで、敵意全開の光希に気付かず、
(百聞!お前なんのつもりだ!)
(やだなぁ、良いお話を聞きにきたんですよ?)
目で会話をする二人。それを他所に氷の槍を編む香織。
「?......お話を聞いて自信でも、持ちましたか?」
光希は守ると言わんばかりの目つきで、香織は百聞を見る。
「自信を持つのは結構ですが、付け上がるのはどうでしょう?ここらの山より高いとこまで付け上がってませんかぁ?」
付け上がる?どうして?光希の言葉を聞いて香織は決めた。
「私はね、覚悟したの」
「へぇ、覚悟ですか」
何を覚悟したのか。次の言葉を待つ。
「私は正しくありたい......だから、冥帝の仲間になる」
「「......は?」」
光希━━もとい、冥帝は困惑する。こればっかりは百聞も予想外だったみたいだ。
(それは、困るな......)
(それは、困りましたねぇ......)
冥帝にとって、冥帝が光希とバレるのは困る。
百聞にとって、決意の手助けをしてしまい、冥帝に何か文句を言われるため困る。
「光希は許してくれなそうだけど......」
当たり前だ、なんなら冥帝本人が拒否してるからな。
「光希に友達をやめるって言われても仕方ないことかもしれないけど......」
そんなことは言わないけど......っと、どうすればいいか分からない光希。
「さっきね、間違ってたと思ってたのが正しさを求めていたって言ったでしょ?」
確かに言っていた。え、何?もしかして俺のことだったの?
「平和のために戦う......良いことだと思う」
「冥帝の平和のための道は、氷槍......あなたに合っている道なんですか?」
なんとか、意思を変えようとする百聞。
冥帝は自分の正しさを貫くために、その道に立ち塞がるものを力尽くで排除する。その道は香織に合っているのかどうか。
「分からない......それでも今の冥帝は人を助けようとしているんでしょ?なら━━」
「冥帝は倒しているんですよ?それが『救い』だと?」
香織の言葉を遮り、もはや説得に近い質問を投げ掛ける。
「そう、殺してないなら更生してやり直せるチャンスを与えているってことじゃない?」
百聞は笑顔のまま、香織に悟られないよう光希を見る。
(それでは、宜しくお願いします)
(お前まじ、覚えとけ)
百聞は仕方がないと、説得を断念する。
「......では、せいぜい冥帝の反感を買わないことですね」
そう言って、百聞は姿を消した。
━━沈黙。
香織から予想外なことを言われ対応に困る。
(確かに予想外なことをしてやれとは言ったが、予想外過ぎるだろ!)
香織は氷の槍を消し、光希に向き直る。
「ごめんね......私、ずっと光希のことを守りたいから......」
......うーん、参ったなぁ。家族を失った以上、守りたい対象が俺に変わったか?だからと言って、冥帝に付いていかんとする理由が分からない。
「冥帝はね、何度も負けてる相手にも挑もうとするの」
遠回しに百聞に負け続けてると言われ、光希は顔が引き攣りそうになる。
「常に前を向いているの。家族を失って、下を向いてばっかの自分とは違う。だから、冥帝の近くにいれば分かることもあるかなって」
真正面から、光希の目を見て決断する。だが━━
「......やめた方がいい......危険すぎる」
冥帝と行動を共にすることは、同時に追われる立場になるということ。それに光希にとって香織は、何かあったとき、守らず見捨てるという選択が出来ない人。ましてや『AAC』委員で、クラスの、学年の、学校の代表とも言える期待の新人。
それが、過去この町を恐怖に陥れた冥帝とつるんでいたら?今後の......香織の境遇に関わる。
つまり、冥帝と関わること自体ではなく、その副産物━━世間の......「常識」を決める
「うん......光希の言うことは常に正しいよ......だけどね、頼ってばっかりなのも、どうなのかなって」
作ったような笑顔を浮かべ、香織は言う。
「だから、たとえ危険でも、その危険を跳ね返せるくらい強くなる。そしたら今度は、救ってもらえた分、光希も、光希の家族も助けられるでしょ?」
「『AAC』の活動はどうするつもりだよ?」
「ちょうど今、休み貰えてるから......」
そんなの、都合の悪いことを後回しにしているだけだ。
まだだ━━香織を止めなければ。そう思う光希はしかし、口が頑なに開いてくれようとしない。
言葉を詰まらせる光希に構わず、香織は光希と言葉を交わすのは、暫くないと決断し、別れの言葉を掛ける。
「じゃあね......また、今度......元気で......いてね」
そう言って、道の角を曲がって行く。
香織の姿が見えなくなってから、
「困りましたねぇ。やっぱり氷槍がいることで、悪い方に転んでいきますね」
路地裏から声を掛ける青年━━百聞だ。こいつには聞かなければいけないことがある。
「お前、香織に俺のこと話したのか?」
やけに冥帝の過去について詳しかった。『AAC』の資料には無い筈のことも。
「いいえ?僕は
冥帝と光希が繋がることは言ってないか。まぁ、知っていたらあんな俺の傷を抉るようなことは言わないか。
『光希も、光希の家族も守れるでしょ?』......か、いない人をどうやって守るつもりなのか。
「......冥帝、僕が思い付いたこと、言っていいですか?」
「あぁ」
自分のミスを帳消しにしたいかのように、提案する。
「彼女は『AAC』から派遣されたスパイ。冥帝に近づき、得た情報を『AAC』に流す、超高難易度ミッション。そんな、設定は如何でしょう?」
なるほど、冥帝といることを正当化しようってか。でも、今はそれしかないよな......
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「━━つーわけだ。出来るか?」
「問題ないな。だか、冥帝の元に行きたいと自ら言ったのか?」
「そうだよ。正直混乱してる」
面白いものを見たという風に、笑いを堪える
「冥帝が混乱してるか......大したもんだ。それで、八色 香織はお前に預けていいのか?」
「まぁ、そうだな」
てか、それ以外に方法を思い付かない。
「彼女は家族を亡くしているからな。今どれだけ辛いか......」
分かってやって欲しいと言いかけ、ふと思い出す。そうだ、こいつも、家族を亡くしていたと。
「......俺はもう行くぞ」
「あ、あぁ......気をつけて帰れな」
光希は羽を広げ、朧気に光る半月に照らされた町を飛ぶ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家から少し離れた空き地。誰もいない所へ、降り立つ。そこへ━━
「やっと会えたね......」
香織が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます