五の宝〜天の巻

前話では大変でしたね。一条凛いちじょう りんさん。


「……はい……」


私も、飼い猫と神器を結び付ける設定には苦労しました。


「……はい……」


読者の方からも、なんでUSBだ、なんで猫なんだといったコメントも多くて。


「……はい……」


まあ、謎はラストまでに解かれていく予定なんですが。


「……はい……」


あの……聞いてます?


「……はい……」


もしもーし!


「……はい……」


今日で連載やめよっかなぁ。


「……はい……」


ダメだ、この人……人見知り設定にし過ぎた。


(すまねーな。勘弁してやってくれ、相棒)


おわっ、ビックリした!!


ミョウの喋り口調も設定ミスった……(筆者 汗)



学園はにぎわっていた。

今日から五日間、天津あまつ女学院は恒例の学園祭に突入する。

クラブによる模擬店、クラス別の催し物、イベント広場ではチアガールが踊り、校門前では合唱団が呼び込みをしている。

生徒だけでなく、その家族や近隣住民も見学に訪れ、校内は人であふれ返った。


「平和そのものね」

たけるが、気難きむずかな顔でつぶやく。

「私たちがどんな目にあったか知ったら、皆驚くでしょうね」


屋上での死闘から、数日が経っていた。

伊邪那美いざなみほのかは何事も無かったかのように、相変わらずの大奥生活を送っている。

黒装束も、あれから姿を見せていない。

この数日だけ見れば、いたって普通の高校生活と言える。


「それが気に食わないのよね。また何か企んでいるようで……そう思わない、時空とき

横を向くと、並んで歩いているはずの時空の姿が無かった。

「あれ?……時空……どこ行った?」

振り返ると、はるか後方の模擬店でたこ焼きを頬張る姿が見えた。

「あのバカ……」

そばまでとって返した尊は、時空の耳を引っ張った。

「おわっ、てて!?あにふんら!?」

たこ焼きの詰まった口でわめく時空。

「何すんだじゃないわよ!よくそんな呑気のんきでいられるわね。ついこの間、死にかけたっていうのに」

「仕方ないだろ。腹が減るのは生理現象だ」

頬張ったものを飲み込むと、時空は口をとがらせた。

「それに警戒するにしても、何に気を付けりゃいいかも分からないし……まあ、とりあえず今は学園祭を楽しむさ」

「そんな事言って……そのたこ焼きに毒が入ってたらどうするつもり?」

「ど、どっ?……ええっ!?」

両手に抱えたたこ焼きを見て、時空が驚く。

「冗談よ。その気があるならとっくにやってるわ。それは彼女のやり方じゃない」

そう言って、尊は肩をすくめた。


仄が八握剣やつかのつるぎ目当てに、時空を狙っているのは確かだ。


──


時空の聴いたこの言葉も、恐らくそれを意味しているのだろう。


だけど……


尊には、腑に落ちない点があった。


単に時空の命を奪うだけなら、日常生活の中でいくらでも機会はある。

八握剣にしても、御守袋ごと神鏡を盗んでしまえば済むはずだ。

あれだけの力を持つ仄なら、決して不可能な事ではない。 


だが、そうしないのは何故か……


これまで仄や黒装束が剣を奪おうとしたのは、

言い換えると、時空が神鏡を八握剣に変容させてから奪おうとしたわけだ。

となると相手は、神器を本来の姿に戻すすべを持っていない可能性がある。

あの仄でさえ、それだけは不可能なのかもしれない。

無闇に時空の命を奪おうとしないのは、そのためだ。


もしこの考えが正しければ、奴らはまた時空を闘いの場に引きずり出すに違いない。

時空が八握剣を使わざるを得ない状況を、作り出すはずだ。


それは、一体いつなのか……


どの様な策をろうしてくるのか……


残念ながら、今の段階でそれを知る事は不可能だ。


唯一分かっているのは、今時空を守れるのは同じ【十種神宝とくさのかんだから】を有する自分たちしかいないという事だけ。

もしかしたら、


勿論、全ては推測に過ぎないが……



「まあ、いいわ」

尊は、ため息まじりに呟いた。

「あなたの言うように、過度に神経質になるのも無駄な体力を使うだけだし……とりあえず、今は英気えいきを養っておく方がいいかもね」

「だろ!」

時空は満面の笑みを浮かべ、再びたこ焼きにかじりついた。

「……おっと、そうだ!柚羽ゆずはと約束してるんだった」

「約束って……!?」

時空の言葉に、尊の眉がピクリと動く。

「書道部の催し物に寄ってくれって頼まれてたんだ。あいつ部長してるらしい」

「あなた、書道に興味なんてあったの?」

「いや全くない。なんか、大事な話があるらしい」

「ふーん……」

「なんだ。何むくれてんだ?」

「別に……なんかまた、『これは運命だ』なんて言いそうな気がしたもんだから」

「まさか……いくらなんでもそりゃないだろ」 

時空は、からからと声を上げて笑った。



「これは運命です!」


時空と尊が固まった。


「どうしました?お二人とも、ポカンとして」

「……いや、いかにもお約束だなと思って……」

さすがに、尊も苦笑するしかなかった。

時空は気まずそうに、宙をにらんでいる。


「そんな事より、これを見てください!」

そう言って、柚羽は壁の展示物を指差した。

そこには様々な書体の文字が、額縁に入って飾られている。

「ほぉ、こりゃ大したもんだ」

「嘘つきなさい。書道なんか分からないって言ってたくせに」

わざとらしくめる時空に、すかさずツッコむ尊。

「い、いや、そんな事はない……よく見ると気品というか、深みというか、なんか伝わるものがある」

「そんなにお褒め頂いて……嬉しいですわ」

必死で弁明する時空の言葉に、柚羽が頬を赤らめる。

「……て、違います!私の作品の事ではありません。その端に貼ってある、あれです」

慌てて柚羽が指差す方に、二人は改めて目を向ける。

そこには、カラフルなポスターが貼られていた。


【D5単独コンサート開催!】


どうやら、軽音楽部の宣伝ポスターのようだ。


「デー……ファイブ?」

と読むらしいです。」

さりげなく修正を入れる柚羽。

「最近結成された二年生のグループで、明日体育館でコンサートをやるそうです。校内の催し会場に、ポスターの掲示をして回ってるみたいで……ここにも、今朝やって来ました」

「ふーん。音楽の事はよく分からんが、なんか大変だな」

時空が、感心したように鼻を鳴らす。


「それで、一体何が『運命』なわけ?」

尊が、怪訝そうに問いかける。

それにすぐには答えず、柚羽はポスターのそばに近づいた。

「もう一度、よく見てください。何か気付きませんか」

その言葉に、時空と尊もポスターに顔を近づけた。


タイトルの下に、五人が演奏しているスナップショットが映っている。

向かって右手にはボーカルとエレキギター、左手にはベースとキーボード、そして中央にドラムがいる。


ドラム……?


「あっ!?」


尊が驚きの声を上げる。


「……分かりましたか」


柚羽が、探るように声を掛ける。


「え、なんだ?何が分かったんだ」

頭を掻きながら尋ねる時空に、尊はポスターの一点を指差した。

それは、バスドラムのフロントヘッドだった。


白いヘッドに、何やら模様が描かれている。


一見すると、に似ていた。


「この模様って……まさか!?」 


驚く時空にうなずくと、尊は携帯を取り出した。

画面には、神宝図が映し出される。

その内の一つを拡大し、ドラムの写真と並べる。 


「……同じみたいね」


死返玉まかりがえしのたま……」


時空は、その神器の名を口にした。


「でも、何故……?」


「何故こんなところに、神器の文様があるのかは私にも分かりません。実際、これが神器と関係しているのかどうかも……でも、私にはどうしても偶然の事とは思えなくて……」

時空の問い掛けに、柚羽は申し訳無さそうに答えた。

「【十種神宝】の神宝図は知っておりましたので、このポスターを見た時すぐに気付きました。それで、とり急ぎ時空さんにお知らせしようと思いまして……」

柚羽の顔から笑みが消える。

神器に深く関わるこの三人でなければ、恐らくは見逃されていたであろう。


それにしても……


時空は首をかしげ黙考した。


尊のUSBといい、凛の飼い猫といい、【十種神宝】は何故こうもをしているんだ。

大体、神器のあった時代にUSBやドラムなどは無かったはずだ。

これらは一体、何を意味しているのだろう……


「いずれにしても……」


しばしの沈黙を尊が破る。


「このドラムが神器と関係しているかどうか、確認する必要があるわね」

その言葉に、時空と柚羽も頷き返す。

「このドラムの子、なんて名前なんだろ?」

時空が、スティックを手にした女子を指差す。

「ああ、それなら確認しました」

振り向いて即答する柚羽。

「二年Dクラスの……後醍醐ごだいごあきらさんです」

「ごだいご……あきら」

時空は呟くように、その名を復唱した。

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