第8話 人は誰しも失敗する

ふと、最近はのぞみの依頼にばかり自分の能力を使っていたことを思い出した。

自分でも人のために役立つことに使ってみようかな。


困っている人はいないか、当たりを見回してみる。

寝ているもの、友達同士こそこそ話をしているもの、スマホを見ているもの、ちゃんと講義を聞いているもの、いろいろな人が大学では講義を受けていた。


ふと、一人の男性が目に入った。

何だか落ち着きがない感じだった。


スマホを目にしている、頭を抱えながら何か悩んでいる風に見えた。


俺は彼に照準をあてた。

「パンッ」


今日も仕事よろしくな。駅前のバス停で5番乗り場に鞄を持ったお婆さん現れるから受け取ったら、いつものロッカーに入れとくように。暗証番号もいつものでよろしく。逃げんなよ。



あいつ、受け子やってんのか。振り込め詐欺などの犯罪で、直接現金を受け取る役。その受け子は捕まり、指示する人間は逃げ回る。何だか理不尽な世の中だ。でも受け子もよくない事だ。あいつが自ら進んで受け子バイトをしているようには見えない。


どうする今回。

とりあえず、のぞみには言わずに一人でやってみるか。


今日はちょうどこの講義が終われば一日空いていた。

先回りして、駅前の5番乗り場付近で待機することにした。

鞄を持ったお婆さんが現れる、そしてあの大学生も現れた。

しばらく会話していた。

お婆さんが彼に頭を下げていた。

そして鞄が渡された。


犯罪成立だ。

でも、今回はここが俺の出番ではない。

犯人に詐欺をやめさせることだ。

彼は駅に入っていったおそらくロッカーにお金を入れるのだろう。


そこで、また彼に入った。

「パンッ」


キョロキョロ周りを見渡している。

そして一旦トイレの中に入った。鞄の中から札束をとっていた。

おそらく10万円程。

なるほど報酬は先にとって、残りのお金をロッカーに入れるのだろう。

おそらく犯人と大学生は顔を合わせず済むためなんだろう。

そしてロッカーのナンバーと暗証番号を見ていた。

ナンバーは33。そして暗証番号は5桁。19927。


サザンの涙のキッスの発売日、ってこれは偶然なのか、それとも。

数字ってなかなかおもしろいと一人で思っていた。


GPSをつける。

そして相手のアジトを探り当てること。


お金に関してはすぐに取り返してお婆さんに渡したいところだが、今それをするとあの大学生が怪しまれてしまう。

俺は警察でもないから、お金を取り返すということが目的でもないのでしょうがない。これは、もしうまくいったら取り返そう。

俺が今やることはあの大学生を救うことだ。


自分もそこまで暇ではない。駅前をはっておけばすむ話だが、あいにく今は大学のレポート提出があっていろいろ忙しい。

だいたい、いつ頃現れるかって言い当てるのはのぞみの仕事だが、今回は彼女はこの件に絡んでいないので、俺では見当もつかなかった。


スマホを見る、また動きはなさそうだ。


久しぶりにのぞみを見かけた。

「久しぶり、最近は平和だね」

「そういえば最近、ひろしのカフェにも行ってないよね」

おいおい俺の家はカフェじゃないっつうの。


「忙しかったの」

「そうなの、心理学のレポート提出で、昨日なんてずっと図書館にいたんだから」

「この時期はみんな一緒だよ。俺もバタバタしてるし」

「そうだよね、また落ち着いたらよろしくね」

そういって別れた。


あの大学生の件について相談したかったけど、忙しそうだったのでやめた。


夜、動き出した。お金の入ったバック。誰かが持ち運んだのだ。

俺は急いで着替えて、進んでいる方向へと向かっていった。

どうやら歩いて移動しているようだった。

雑居ビルでとまった。

どうやら雑居ビルをアジトにしているのかもしれない。


通りの向かいのビルから、ターゲットとなる雑居ビルを見回した。

どこだ、灯りのついているところ、そして怪しそうなところ。

あった、かすかに窓があいている。人が見える。


よし乗り込むぞ。

「パンッ」


あのカバンが見えた。

そして俺の乗り込んだ目の人間以外に男が二人見えた。


笑っている、人のお金を食い物にして。


何か仕掛けできるエサが転がってないか。

相手の目を使ってあたりをみようとした。

少ししか見えなかったが、いわゆる小さな事務所といった感じだった。

スマホを打っていた。

逃げずにごくろうさん。お金は確かに受け取った。


さあ、考えろ、どうしたらいい。

どうすればあいつらを陥れることができるか。


あの3人の顔は見た。

あいつらの目を乗っ取ることはできる。

それでどうすればいいか。

よし。一人一人つぶしていくか。


お金は大事に金庫にしまっていた。

まずは、あの金庫のお金を奪ってしまおう。

そして、3人それぞれ不信感を持たせるのだ。

二人がグルで一人を陥れる。

そう三人ともに思わせることが今回の目的だ。


粘り強く待っていれば個人情報も手に入るのだ。彼らの家、そしてLINE情報。

それぞれに俺はあるメッセージを送った。お前は二人に騙されている。お金はもうない。


ひとまず彼らは事務所に戻るだろう。

そしてお金のなくなった金庫を見る。

犯人探しが始まるのだ。



そこに盗聴器もしかけておいた。

俺に入ってくるのは映像だけだ。

音があることでさらに核心にせまることができるかもしれない。


一人入っていった。

「おいまじかよ。本当にないじゃん」

そしてまた一人入っていった。

「お前か、コノヤロー」

そうしてもう一人やってきた

「やっぱりお前らグルだったのか」


3人とも、俺の作戦に乗っかっていた。

さあ、誰が犯人なのか。


俺は3人にラインをおくった。


ようこそ、諸君。

君たちは罪を犯した。懺悔しなさい。

俺はお前たちを見張っている。犯人も知っている、お前たちの罪も知っている。家族も知っている。

警察に行きなさい。

行かなければお前たちのことをあの人に伝えるから。


そう、俺は隠し玉を持っていた。

あいつらは、あいつらにつながる反社グループの一人から雇われていた。

だけどあいつらは、そいつを騙していた。

1つの仕事に対して半額を納めることになっていた。

ただし、あいつらは、2件に1件は隠れて仕事をしていた。

こないだの仕事もその仕事だった。闇営業というやつだ。


あいつらは警察に行った。

だけどおれの誤算は、大学生も受け子として捕まってしまったことだった。

いくらあいつらよりも悪くないといっても犯罪は犯罪だ。

でも、俺は、あの大学生のために今回の仕事をしようとしたのに、結局は彼を助けることができなかった。


そんな時はのぞみは鼻がきくのだ。

どこからかにおいを嗅ぎつけたかのように俺のところにやってきた。


「ひろし、やっちゃったでしょ」

「な、なんのこと」

「しらばっくれてもダメだよ。お見通しだから。なんで相談しないのよ、 前回もチャンスをあげたのに、何にも話してくれないんだから」

「おいおいいつから知ってたんだよ」

「講義中にハッキングしてたでしょ、あれっ、誰だろうって思ってちょっと見てたの。 そうしたら、受け子の現場も見ちゃって」

「もう、ほとんど知ってるってことじゃないか、それなら助けてもらえばよかった」

「でも、悪者やっつけられたんだから結果はよしじゃない。どちらにしろ犯罪犯してたんだから、ひろしが苦しむことないんじゃない」

俺たちは警察ではない、だから犯人を逮捕してもらうことが目的ではない。

俺のまわりで助けを求めている人を助けたいだけなのだ。


「もうしょうがないな」

そう言って、後ろから肩をパチンと叩いてから

「行くよ、今日は飲んどこう、付き合ってあげるよ、もちろんひろしのおごりで」

「おいおい何でだよ」

でも、そんなサバサバしたのぞみに助けられた気がした。

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