第7話 能力もデジタル化の時代
「ねえ、テレビに出ている人なんかもハッキングできたりするの」
いつものカフェで、のぞみは聞いてきた。
「テレビか~、それはまだやったことがないかも」
「なんで、そんなの聞くの」
「それは依頼ってことだよ」
今までは実際に見たことのある人がターゲットだった。
映像を通してみる人は、果たして成功するのだろうか。
国会議員の一人。
我々が住んでいるエリアから出馬している議員だ。
名前は見たことはあった。本人を直接見たことはないが、マダムからの支持層は厚いといってもいいほど甘いマスクをしていた。
ちょうど国会の参議院の中継が始まっていた。
我が物顔で家のソファーでゴロゴロしながらのぞみはテレビを見ていた。 テレビで見る人をハッキングする。何度かトライしてみたが、相手の目には届かない。
「ちょっと難しいかも」
「えー、あきらめちゃうの」
どうも、調子がくるってしまう。まるで俺ができない子のような扱いをしてくる。
「分かったよ、チャレンジしてみるよ」
こういう時は、一度基本に戻るのがいい。
「焦点をあてる、無になる、目をつぶる」
実際の人物とテレビ上の人物。
焦点のあてかたに問題があるのか。
もっともっと集中してみる。
自分の中にあるアンテナを駆使して、遠くにいる相手の情報を収集する。
目だけではなく、全身のあらゆる神経を駆使して読み込み、それを目に戻してみる。そして無になり、目をつぶる。
かすかにぼやけてみえる視野。机の上のものが見える。
だけどはっきりとは分からない。
「ごめん、やっぱり今日は難しい」
テレビ上の人物の情報が直接ではないんだろう。
テレビ画面では実際に見る情報よりも、粗い情報しか目の中に入ってきていないということか。それで粗い情報しか映し出すことはなきない。
それならばどうする。
相手を見に行くために国会の出待ちをするか。
それとも、何か手はないか。
夜も考えていた。
テレビを見る、電波を見る。少ない情報量。ハッキングできる部分が少ない。
なぜだ、それは直接見ていないからなのか。
アナログとデジタル。ゼロとイチの世界。
目の中をゼロとイチにする。ゼロとイチ。
俺の能力をデジタルにする。ゼロとイチ。
次の日はずっとテレビを見ていた。
そして考える。
自分の目、ゼロとイチ、ゼロとイチ。
目の前で見ているテレビ映像が、なぜかすべてゼロとイチに置き換わっていくような気がした。
”0101010101010101”
自分の能力がアップデートされていく。
大容量な情報が俺の目の前に。
ゼロとイチ。ゼロとイチ。
いったん見た情報をゼロとイチで取り込む。
そして目の中で整理する。その情報が大量に目の中に入り込む。
そして、
「パンッ」
大容量の情報が自分の目の中に入り続けた。そして、GPSのように遠くからの衛星でつながっているように、俺の目がテレビで映っている映像とつながっていた。GPS機能がまるで俺の目に追加されたかのように、はっきりとわかるようになった。
スマホでその喜びを伝えた。
「のぞみ、成功したぞ」
「まあ、ひろしならできると思った」
当り前じゃないか、とは言えなかった。
「さあ、ひろしくん、頼みますよ」
「まかせて、もうばっちりだから」
最近は、カフェではなく、俺の家で集まることが増えてきた。
その都度、俺の冷蔵庫から甘いものが消えていく。俺の家をカフェだと勘違いしてるんじゃないだろうか。そんな不安をよそにのぞみは言った。
「あの議員ね。お金もらってんだよ、きっと」
話はこうだ、のぞみの知り合いで商店街のショップの娘がいる。
どうやら大手ショッピングモールの計画が持ち上がっているんだそう。
それはその商店街をつぶして、その周辺の土地も加えて大きな商業施設の計画をしているんだとか。
その周辺の土地というのが、今回非常に怪しい。そこは表向きは堅気の会社が経営している会社のビルということになっているけど、裏社会とつながっているんじゃないかという噂が絶えない。
「だからね。その裏社会の人とあの議員がいるところを発見できれば、私の推測はただしかったってことなの」
「それでどうする」
「その買収計画を潰す。以上よ」
今回は非常に簡単だった。
定期的に議員を見張ること。そして夜に誰かに会ってないかを探る。
誰を見るのか。どんな奴が出てくるか。
俺は彼に集中した。
のぞみには事前情報として、主要な商店街のメンバーと周辺の土地を有するオーナーの顔写真等を入手してもらっていた。
誰が議員とつながっているか。オーナーだけなのか。
それとも。
そして、ただその結果を待った。
なるほど、そういうことだったのか。
事件は解決した。
オーナーと商店街の会長。現れたのは二人だった。
二人は、グルだった。うまく商店街の人々を誘導しながら、最終的にはショッピングモールの建設にもっていくようにみんなに仕向けていたのだ。
そして議員へ紙袋が渡されていた。
袋の中を覗き込む。そこには札束がずらり。
「あいつら真っ黒だよ」
そうつぶやいた。
「私に欲しいのは確信できる情報だけ。ただそれだけでいいの」
のぞみはいつも同じことをいう。
証拠を押さえるために撮影するわけでもなく、録音するわけでもない。
ただ、俺が見た情報をもとに彼女は判断をする。
その後は、彼女がどのように動いているのかはよくわからない。でも計画はなくなった。議員は体調を理由に議員をやめた。商店街の会長が交代した。
どのような手を使ったのかはわからない。
ただ、買収計画は潰れた、
そして俺の能力はアップした。事実はそれだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます