第6話 正義は相手のためにある 後編
教授をハッキングする。
すべてはスマホにあり。
のぞみはそう判断した。
のぞみが判断したことはまず間違いないだろう。
「パンッ」
スマホの画面が見えた。そしてパスワード。
彼はスマホを操作する。
写真、あの娘の写真、楽しそうにおじさんと会話する二人。
少々派手やかな印象の彼女。
そっか、あの写真でゆするつもりなんだろうか。
そして、その後他の娘の赤裸々な写真が続いていく。
見たことがある娘もいた。だけど、その娘はもう大学にはいない。
「あいつ、ほんとクズだよ」
のぞみは、苛立ちを見せる俺に聞いた。
「で、どうなの、何か掴めそう」
「通帳を見てる、そして何か月に1回振り込みされている。そして引き落としをしている。イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン、ジュウマン、ヒャクマン、センマン、イチオクだから、まじか、3億円」
俺の目の前にはのぞみが映っていた。
「あいつは、本当に悪党だよ、絶対横領しているよ」
助教授で毎晩のように遊び回っている彼に、そんな大金が残っているはずがない。それが二人が出した結論だった。
「それを暴くのがミッションだね」
「今度の決戦は明日から金曜までの6日間だね。ホテルの日まで残り1週間しかない。それまでに悪事を暴いて、あいつを阻止しよう」
空振りの日が続いた。
女の子の写真ばかりを見ている。
なかなか、パソコンの経理画面に行くことはない。
あと5日、あと4日、あと3日。
日がない。
俺たちはあの娘を助けることができるだろうか。
そしてあと2日、どうやら今日は教授はまだ構内にいるようだ。
「今日あたりが怪しいんじゃないかな」
それはのぞみの勘らしい。
何を証拠にと聞いても何となくとしか答えてくれない。
でも、その勘は大概当たるのだ。のぞみも何か能力もってるんじゃないか。
俺よりもすごい能力を、そう思えるほど、その勘は的中した。
経理画面を見ている。そして何やらゴソゴソと作業しているように見えた。
何をしているのか。どんな手口をしているのか。
経理の金額を少しずつ動かしている。
それも巧妙に。少しずつ。
「おいのぞみ、今からいう名前と金額をメモってくれ」
そこに見えている情報をのぞみに伝えた。
「よし、手紙を書こう。教授に。うーんそうだな。マアトよりとしよう」
「何、マアトって、聞いたことないんだけど」
「エジプト神話の神だよ、正義、秩序、真実といった、あるべき正しさをすべて包括する女神で、地上を照らす光、秩序の象徴である太陽の娘とされたんだよ」
「それにしても、ギリシャ神話なら知っている人も多いけど、エジプト神話って渋いね。まあ伝わる人には伝わるってこと」
「そうか、あの教授、エジプト文学に詳しいんだよな、だったら、ますます、身近な誰かが秘密を把握しているってことに気付くよな」
そうして彼に手紙を届けた。
彼の研究室、パソコンに挟んでおいた。
助教授へ
私は正義に基づき、あなたに啓示をささげる。
あなたのやっていること、それを今すぐやめなさい。
さもなければ、あなたの家族は崩壊、あなた大学の立場も失うでしょう。
女性の弱みにつけこむこと、不正のお金を着手すること。
これから手をひきなさい。
まず、今までの女性の写真をすべて消し、現在脅している女性から一切手を引き なさい。
別口座に入っている不正したお金を、この大学に寄付しなさい。
私は終わったことは罪には問わない、ただしこれから行うのであれば天罰を下すであろう。
マアトより
読んでいる手紙は震えていた。
一字一句手紙を読んでいた。
そして、最後のマアトというところで目がとまっていた。
彼には一番、その言葉がささったのかもしれない。
彼はすべてを無にするほど馬鹿ではないだろう。
すべての写真を消す。
そして不正して手に入れたお金を寄付する。
その2点だけ。我々が要求したこと。
それが守らなければ、我々はやつを更なるお仕置きをしなければならなかった。
「ねえ、ひろし、もしかしたら、あの教授、あの娘のこと疑っているかもしれないわね。明日なんか仕掛けてくるかもしれない、それまでに何とかあいつを止めないと」
あいつはスマホの写真を選択しパソコンを経由してSDカードに入れていた。
そして、やつは部屋の中にさらに1億円を隠し持っていた。
スマホ写真を消し、1億円を残して3億円の寄付の手続きをした。
「もしかしたら、様子を見るのかもしれない。きっとあいつ、あのホテルに現れるよ。彼女がくれば別の人間が犯人、彼女が来なければ彼女が犯人と思ってるんじゃないか」
よし、ラインを送ろう。
今すぐSDカードを消去しろ。そして、残りの1億円も忘れずに。そして、今だましている女性に謝罪しろ。いつもあなたを見張っています。
マアト
「あんだけ、見られているって思ったらさすがに悪いことできないでしょ、しかも念押ししたからね」
「でも、あの男を警察につきださなくてよかったのかな」
「世の中には事件を知られたくない人、そっとしてほしい人ってたくさんいるの。もう忘れたいって。私たちの正義感だけで、そんな人たちを気付つけたくないの」
そうか、被害者は救う、だけど、加害者のとどめはささない。
すべては被害者のために。
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