第9話 親はいつまでたっても親である
のぞみは小さい頃に父親と離れ離れになっていた。
両親が離婚していたのだ。
なぜ離婚したのか、そこまでは聞くことはできなかった。
だから、のぞみは母親が女手一つで育てられた子なのだ。
とにかく、のぞみが大きくなるまで、浮いた話もなくがむしゃらに仕事を頑張っていたイメージなんだそう。
お母さんとのぞみは、どちらかというと姉妹のような感覚。
親というよりも友達に近い存在。
だからこそ、ついつい心配になることも多いそうだ。
そんな母親に、最近男の影がでてきているのだそうだ。
心配性ののぞみ。
その男が信頼できる男なのかどうか、調べてほしいというのが今回の依頼だった。
「明日の夜、あけといてね」
おいおい、いつものぞみは急にスケジュールを入れてくる。
まあ、最近は暇で空いているから別にいいんだけど。
「いいけど、何するの」
「うちの家に遊びに来てよ。彼氏ってことでよろしくね」
「おいおい、どういうことだよ」
さっきの依頼と関係があるようだ。
それは母親との会話の流れで彼氏の話になったようで、のぞみが彼氏ができたから今度連れてきていいかどうか母親に言ったそうだ。
それは母親に男ができたかどうか確認するためだったらしい。
そして、もし男がいればどんな男か見たかったんだそう。
そして母親からの言葉というのが「じゃあ、今度のぞみに紹介しようかな」と。
それが明日だ。
それで、その男をハッキングして欲しいのだそう。
もちろん、のぞみはその男の人が良い人であることを願っているのだそうだが、母親のことが心配でしょうがないんだとか。
どっちが親なのかわからない。
「よし、じゃあ、明日はひろりんとのぞりんってことでラブラブな感じで行こうか」
「いや普通でいいよ、普通で」
あっけなく断られてしまった、まあそんなキャラでもないか。
のぞみの家はマンションだった。
とりあえず、母親は甘いもには目がないらしい。
のぞみのアドバイスもあってケーキを4人分買っていった。
もしかしたら、ケーキが食べたかったのはのぞみなのかもしれないけど。
「こんにちは、どうぞあがって」
初めてみる母親。落ち着いた感じだった。
確かにのぞみと比べても母親というよりは姉妹といった方がしっくりくる。
顔ものぞみに似ている。美人姉妹といったところだ。それでいて優しい感じがする。 とても好印象だった。
「これ、駅前でおいしそうなケーキあったのでどうぞ食べてください」
「あら気がきくわね。さすが、のぞみの目にかかっただけあるわね」
そう言って、ケーキを冷蔵庫に入れてくれた。
二人で住むには十分な広さだった。母親も随分仕事頑張っていたんだろうなと思う。
「ごめんね、ちょっとだけ遅くなるって連絡あったから先にはじめててだって」
今日はのぞみの希望でピザを頼むことにした。
それに合うサラダや肉料理はあらかじめ作ってくれていた。
ビールやワインも用意してあった。のぞみも母親もどうやらお酒は好きらしい。
彼氏もお酒は飲めるようだ。
「ピンポーン」
「やっぱり早いねピザって」
あつあつのピザが届けられた。
なんだか、こんな感じで食卓を囲むのは久しぶりだ。
「乾杯しましょ」
「じゃあ、ようこそ。のぞみをよろしくね、乾杯」
まずは彼氏が来る前にいろいろと情報収集をしよう。
「そうだ、お母さん、彼氏さんとの馴れ初め聞かせてくださいよ」
「やだ、はずかしい、もうちょっとお酒がはいってからね」
「それよりあなたたちふたりのお話聞かせて」
「同じ大学で、はじめて出会ったのは大学の構内だったんですけど、同じ小説が好きってことで意気投合しちゃって」
「まさかその小説って」
そう言って本棚から本を取り出してきた。
「これでしょう」
どうやら昔から読んでいるようだった。もともとはお母さんが好きだった小説。それをのぞみも好きになった。
「なんか、3人ともおんなじ小説が好きって、これ運命でしょ」
もういっぱいかんぱいしましょう。そういってまたみんなグラスを持ち上げた。
「かんぱーい」
「わたしたちも似たようなもんね」
そういってお母さんは語ってくれた。
「前の職場の店長さんでね。その時よくお世話になってたの」
「でね、別の職場で働いた時にね、たまたまお客さんで現れたの。もうびっくり」
「それで、今度食事でも行きませんかって言われて、そこからかな」
「おう、彼氏さん積極的ですね」
「ピンポーン」
「あら、きたかしら」
そう言って玄関に急ぎ足で向かっていた。
「あらお疲れ様、もう二人来てるから紹介するわ」
そう言って彼は現れた。
きっともてるだろうな、だいたいこの人には好印象を持つ人が多いに違いない、それが第一印象だった。しっかりした身だしなみ、ほのかに香る香水。
「今日は呼んでくれてありがとう。あっ、はじめましてが先か」
そうして、再度乾杯をした。
「さっき、二人の馴れ初め聞いちゃいました」
「えっ、言ったの、何か照れちゃうな」
そんな気さくな感じだった。よく笑う人だった。
食事も一段落して、お母さんがケーキを出してくれた。
「おっ、甘いの好きなんだよね。いいね」
4人とも甘いものには目がないってことか。それにしても、甘いものっていうのは不思議なものだ。あんなにお腹がいっぱいになったのに、甘いものだけはお腹に入ってくる。別腹とはよくいったものだ。
「そろそろ帰ります」
「あっ、じゃあ俺も帰るよ」
「駅まで一緒にいきますか」
歩いている間はあまり会話がなかった。
何人かいると話せるけど、マンツーマンだと話せなくなる人がいる。
この人ともそんな感じだ。
ただ、黙々と駅まで歩いていた。
どんな人なんだろう。ちょっと気にもなっていた。
ホームは逆だった。
「また、お願いします」
そう言って別れた。
家に戻ってからハッキングしようと思い電車では少し寝ていた。
そして、彼をハッキングした。
目の前には女性がいた。
のぞみからのラインだった。
今日はとにかく寝ることにした。
男の性(サガ)と片付けていいのだろうか。
恋に国境はない。だけどルールもないのだろうか。
男女間のことはあまり分からない。
だから、昨日見たことを伝えるべきかどうか躊躇した。
お節介なのかもしれない。
知らなくてもいいことが世の中にはあるのかもしれない。
のぞみに言えば必ずあの彼と母親を別れさせるだろう。
それも仕方がないことなのだろうか。
初めてあったのぞみの母親だったけど、あんなにも幸せそうな顔を見るととてもうらやましく感じてしまう。
幸せなひと時とはこういうことを言うんだろうと思った。
朝起きるとLINEには何件もメッセージが入っていた。
<どうだった>
<おーい>
<おーい、既読スルーするなー>
<見たんでしょ、あれっ、ひょっとして言えないようなことが見えたの>
<白か黒だけでも送ってよ>
<もういい、寝る、明日絶対教えてよ>
<バーカ>
「ドンドン」
アパートのドアを叩く音が聞こえた。
のぞみに違いない。
「おーい、朝だよ、起きてるでしょ」
「おいおい、何時だよ、まだ7時だろ」
「早起きは三文の徳でしょ。早くどうだったの」
隠してもきっと顔に出るだろう。しょうがない、言うしかないか。
そんなことを思いながらのぞみに昨日見たことをそのまま伝えた。
「男ってほんと最悪」
「おいおい、男だからってみんな一緒にするなよ」
「あんたは甲斐性がないだけでしょ」
何も言い返せないのが何だか腹立たしい。
「きっと私が言ってもお母さんはあきらめない性格なの。でも、自分が目撃すると、もうきっぱりと結論出すのが早いの。母親はそういう性格。だから、私そのレストランに行ってみる。だから付き合ってね」
俺はのぞみに伝えた。もう一人付き合っている彼女がいること、そして今週末にはレストランで誕生日の祝いをすること。そこに俺たちも乗り込むことになった。
やっぱり巻き込まれるのか。行きたくない。でもしょうがない
のぞみの母親は格好いい。
最後まで堂々としていた。男を見た瞬間近づいたと思ったら「パーン」。
「さようなら」と言って会計をすまして出てきた。
「さあ、飲むわよ」
そう言って、お母さんの行きつけの居酒屋に連れてってもらった。
最後まで笑っていた。
きっと帰ってから泣くのだろう。
のぞみ、本当にこれでよかったのかな。
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