第99話公爵家当主は人外魔力持ちの聖女様

 今現在俺達は、国境付近へ急いで移動している。


 そんな時だった。


 ホムラがあることを言い出し、俺がそれに気づいたのは……。


「ユウマ……私、魔力ほとんど残っていませんわ……足手まといですわ」


 俺の後ろで、馬に乗っているホムラがそう言った。


「それは仕方ないだろ?お前は強力な魔法も使え、魔力総量も高い。だが、いかんせんお前の使う魔法は、どれもが消費量がハンパじゃないからな」


「……ぐうの音もでませんわね……。ワタクシは、どこかで待機していた方が良かったかしら……貴重な戦力であるイージスさんが勿体ないですわ」


「馬鹿言うな。大切な女性であるお前を置いていけるか。まだ、あっちこっちに敵が残っているんだぞ?安心しろ、誰もお前をそんな風に思っていない」


「ユウマ……」


 そう言って、俺の背中にぎゅっと抱きつく。

 ……いや、今それどころではないのはわかってるのだが……。

 ……めちゃくちゃ柔らかいモノが、さっきより背中にあたっています……。


「あー!ホムラ!ずるいですよ!団長とイチャイチャして!」


「い、いいじゃないですか!ワタクシは貴方と違って、慎ましやか女性なんですわ!たまにはいいじゃないですか!」


 慎ましやかってどういう意味だっけ?

 あれ?俺が間違えて覚えてる?


「むー!私だってそういう時ありますー。ねー?団長ー?」


「俺に振るな、俺に。……2人とも、俺には勿体ないくらい素敵な女性だよ」


「団長……えへへー」


「ユウマ……フフフ」


「ほら!アンタらイチャイチャしてないで行くよ!」


「アテナもいいんだぞ?別に、イージスとイチャイチャしても」


「……ほう?ヘタレ団長が言うじゃないか……!どうやら、新婚早々で死にたいらしい」


「アテナさん!落ち着いて!……でも、こういう感じも久しぶりですね。アロイスさんはいないですけど」


「そうだな、イージス。平和になったら、アロイスも連れて、また皆で冒険にでも行くか」


「チィ!仕方ないね……だが、アタイは賛成だ」


「オイラも!」


「ワタクシもですわ!」


「白き風再結成ですねー」


「よし!決まりだな!では、さっさと片付けるとするか!」


「「「「おー!!!!」」」」


 ……ホムラの魔力か……後で試してみるか。


 そう決めて、走ることに専念する。






 そして、国境付近に到着した。


 すると、こちらにグラント王がやってくる。


「ユウマ!来てくれたか!すまんな!」


「いえ、当然のことです。で、戦況は?」


「話が早くて助かる。突如現れたスケルトンの大群に、セントアレイの民が襲われていてな。そして後方から、狂信者共も押し寄せている。まずは怪我人を見てくれるか?」


「わかりました。では、一箇所に集めてください。今の俺なら、まとめていけます」


「わかった!では、少し待っておれ!」


 さて、次はアレを試すか。


「ホムラ、今のうちに試したいことがある。側に来てくれ」


「え?あ、はい」


 俺は、ホムラの手をぎゅっと握る。


「ユ、ユウマ?こんなところで恥ずかしいですわ……」


「……何を勘違いしているかは聞かないでおこう。今から、お前に魔力譲渡を試してみる」


「……そんなことできるのですか?聞いたこともないですわ……」


「いや、俺もわからん。だが、さっき気がついた。俺はミストルティンに魔力を渡す、つまりは譲渡して魔力の斬撃を放っている。ならば同じ要領で、人にもできるのではないかと思ってな」


「なるほど、そういうことでしたか。ワタクシは、どうしたら?」


「そのまま、リラックスしてていい。そして、異常を感じたらすぐに言ってくれ」


「わかりましたわ」


 俺は意識を集中する。

 イメージしろ……魔力を流すことを……いつもと同じように……。

 そして少しずつだ……ホムラの魔力総量は高いとはいえ、俺以下だろう……俺の魔力に耐えられる程度に……。


「んっ!か、身体が熱い……!」


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですわ……」


「むー……なんだか、エロいですねー」


 ……人が思いつつも、黙っていたものを。


「え、エロい!?ワ、ワタクシが……?」


「おい、落ち着け。シノブも茶化すな。お互いに、割と神経を使うんだ」


「はーい」


 その後、皆が黙って見守る。




 よし……こんなものかな。

 俺は、手を離してみる。


「どうだ?」


「これは……凄いですわ。魔力が満タンになりましわ……ユウマ、貴方はどの程度、魔力を渡したのですか?」


「うーん……どうだろ?大体1割にも満たないくらいか?」


「なっ!?……ユウマ、今更ですが貴方の身体はどうなっていますの?」


「ん?ホムラ、どういう意味だ?」


「もし、ワタクシが貴方の魔力を持っていたら、身体が耐えきれずに破裂するでしょう。それこそ、風船のように……。それは、人が耐え切れる魔力ではないと思いますわ……」


「……なるほど、わかりやすい例えだ。いや、ちょっと前までの俺なら、そうなっていただろうな。だが、魔力が上がると同時に、身体も強くなってきた感じがする。しかし、人外扱いは酷くないか?」


「……もしかして、順序が逆なんじゃないんですかー?」


「逆?シノブ、どういうことだ?」


「えーと……耐え切れる身体が出来たから、それまで身体に負担をかけないように眠っていた魔力が目覚めたとか……」


「なるほど、そういう考えあるか……」


「別にいいんじゃないかい?要は、団長が強くなったってことだろ?」


「……まあ、それもそうですわね」


「ですねー」


「団長!すごいです!」


「そうだな……とりあえずは、それでいいか」


 すると、グラント王が戻って来た。


「ユウマ!準備が出来たぞ!」


「ありがとうございます。では、行きましょう」


 おれは、歩きながら考えていた。

 ……風船のように割れるか……まるで、さっき見た召喚士のようだな……。

 まさか、あれもそういうことなのか?

 だから、身体が残ることがないのか?


「おい、ユウマ!着いたぞ!」


「え?ああ、すみません」


 そこには、数百人の怪我人達がいた。

 そして縋るように、そして疑うように、俺に視線を向ける。


「皆さん!今から回復魔法をかけるので、じっとしててくださいね!」


「ほ、本当に無償なのか!?後で取り立てないのか!?」


「む、娘をよこせとか言わないか!?」


「ど、奴隷にしたりしないのか!?」


 ……これは……酷いな。

 普段、どういう扱いを受けているのかがわかる……。


「我が名は、ユウマ-バルムンク!デュラン王国の公爵家当主である!その名と地位に誓い、約束しよう!一切そのようなことはしないと!」


 それでも、皆戸惑っているな……。

 ここは、やって見せた方が早いか。

 この数でも、今の俺なら一度でいけるだろう。


「フゥ……ここにいる全ての者の傷を癒したまえ!エリアハイヒーリング!」


 光の輪が、人々を包む。


「おお……!」


「す、すごい!!」


「傷が!傷が消えるぞ!」


「こんなの見たことない!!」


「一体、どれだけの魔力を……?」


「お!俺!あの人知ってる!聖女様だ!デュラン国に嫁いだという、聖女様そっくりだ!」


「そ、そういえば……」


「昔、そんな方が……」


「まだ、今ほど酷くなかった時に……」





「聖女様ー!バンザーイ!」


「聖女様!ありがとうございます!」


「聖女様!お帰りなさーい!」


 ……いや、俺名乗ったよね?

 それ、母上だから!

 俺、男だから!


 仲間達を見ると、笑いを堪えている……。

 それどころか、グラント王は爆笑している……。


 人外魔力扱いからの聖女とは、これいかに……?

 ……もう、決めた。

 エリカには悪いが、髪切ろう……。

 この長い髪が原因に違いない。



 俺はそう心に誓った。


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