第84話見覚えのある場所にて

 一夜明けて、いよいよ魔の森の調査を開始する。


「皆、準備はいいか?何も起こらないかもしれないし、何かが起きるかもしれない。どっちにしろ、適度な緊張感を常に持っていてくれ。エリカ、アキトわかったな?」


「はい!」


「わかった!」


 ……うん、疲れはなさそうだな。

 気力も十分だし、これなら平気そうだな。


「叔父上は先頭に立って、好きにしてください。次にホムラ。そのフォローをシノブ。エリカとアキトが続く。俺が一番後衛で、全体を見て尚且つ、必要なら回復をする」


 それぞれが頷くのを確認し、出発した。


 俺達は、黙って森の中を歩いていく。

 1時間程歩いても、何も出てこない……。

 おそらく、皆が思っただろうが、シノブが一番に言う。


「おかしいですねー。何も出てこないですねー?」


「ああ、そうだな……叔父上、この辺りはご存知で?」


「ああ、知っている。明らかにおかしい……もうこの辺りは、魔物がわんさかいるところなのだがな……。魔物どころか、生き物の気配を感じないな」


「……とりあえず、進んでみましょう。これなら、調査はしやすいですしね」


「俺はつまらんがな。……まあ、いいか。今回は、エリカやアキトがいるしな」


 そのまま歩いて行っても、一向に何も現れることなく進んでいく。


 すると、開けた場所に出る。


 その周辺だけ草木もなく、平らな地面になっていた。

 さらには、毒の瘴気が漂っていた。


「全員!俺の側に!毒が漂っている!」


 俺の言葉に皆が反応し、側にくる。


「聖なる光よ!我らを守りたまえ!ホーリーガード!!」


 光が俺らを包む。

 これで、毒などの有害な物が効き辛くなったはずだ。

 母上ならもっと範囲も広く、効果もあるのだが、俺にはこれが精一杯だ。


「フゥ……皆、大丈夫か?」


「おう!助かったぜ。流石の俺も、毒には勝てん」


「なんで、ここだけにあるんでしようねー?」


「ユウマがいてよかったですわ」


「す、凄い!回復魔法も一流……!」


「お兄ちゃん、お母さんみたい!」


「まあ、まだまだ母上には遠く及ばないさ。全盛期の母上なら、王都全体を覆うことすら可能だったからな」


「えー!嘘!?それは、言い過ぎじゃない?」


「ハハハ!ユウマの言う通りだぞ?それは、もう凄かったさ」


「へー……そうだったんだ」


「言っておくが、お前が気にすることではないからな?お前がいたおかげで、俺と母上がどれだけ救われたかわからん」


「お兄ちゃん……えへへ」


「そうだな、俺からも感謝する。俺は、エリス義姉さんには何もしてやれなかったからな」


「団長!お話中すみません!」


「どうした!?」


「あそこにあるの死体じゃないですか!?」


 シノブが指差す方を見ると、肉が剥がれ落ちた死体があった。


「キャア!!」


「うわっ!!」


「これは、酷いですわね……」


「お前らは、ここにいろ。ユウマ、行くぞ」


「はい、叔父上。あのままでは、特級クラスのアンデットになってしまいます」


「やはり、そう思うか」


 俺と叔父上は、その死体に近づき確認する。

 冒険者カードがある……ところどころが霞んでいるが、ゼトと書いてある。


「間違いないな、特級冒険者のゼトだ。ここで、やり合ったようだな……」


「この惨状から見て、相手は毒を使う魔物ということですね……」


「毒が使えて、特級を倒す魔物?……俺は知らんな」


「俺もですね。まあ、それは専門家に任せましょう。ん?これは……?」


「どうした?」


「いや、ここに魔法陣の痕がありますね……」


「ああ?……微かに痕があるか」


 やっぱり、この魔法陣見覚えがある気がするんだよな……。

 いよいよ、気のせいとかいう話ではなくなってきたぞ?

 俺はウィンドルと何か関係がある……?まさかな。

 だが、説明がつかないから気味が悪い……誰にも言えないしな。

 言ったところで、困らせるだけだ。


「どうした?ユウマ」


「いえ、なんでもありません……」


「いや……お前、顔真っ青だぞ?」


「すみません、今はこのままでお願いします……他の連中の気を引いてください……」


「……わかった、任せろ」


 叔父上は、皆に説明しに行った。


 俺はとりあえず、死体を手早く浄化し、土を掘り、死体を埋めた。


 そして、皆がこちらに来る。


「さて、どうする?ここにいた魔物はいないみたいだがな」


「……もう少し、奥に行きましょう。何かデカイ物が通った痕があります。ここから奥には、ほとんど誰も行ったことがないのですよね?」


「ああ、軽く100年はな。確かに今なら、他の魔物もいないしいけそうだな。最悪何が出てきても、俺とお前がいれば逃げることぐらいは容易いだろう」


「そうですね、一応相談しますか」


 その結果、続行ということになった。

 確かに、まだ調査が完璧とは言えないし、この機会を逃すのは得策ではないと判断した。


 そのまま、慎重に奥へと進んでいく。

 その何かが通った道は、毒の瘴気に包まれている。

 これは、常人では通れないな……。

 1時間程、歩いただろうか?

 未だに、魔物は一匹も出てこない……。

 まるで、何かを恐れているように……。


 そして、ある建物を見つけた。

 見た目は、教会の神殿のような佇まいの建物だ。

 辛うじて形が残っている。

 おそらく、100年じゃきかない時間が経っていると思われる。


「ユウマ、どうする?」


「とりあえず、入りましょう。シノブ、見張りを頼めるか?お前なら安心して任せられる」


「えへへー、シノブちゃんにお任せをー」


 中に入ると、お祈りを捧げる祭壇があり、椅子が置いてある。


「これは……まさしく神殿か?」


「そのようだな……なあ、変なこと言ってもいいか?」


「ええ、俺も良いですかね?」


「「この場所見覚えがあるのだが?」」


「………え?」


「………は?」


「叔父さんとお兄ちゃん、同じこと言ったよ?ここ知ってるの?」


「いや……知らないはずなんだけど」


「……俺もだな。だが、確かに見覚えがある気がする……」


「不思議なこともあるものですわね」


「2人の血の繋がりとかですか?」


「アキト君。それなら私も、見覚えないとおかしくない?」


「あ、それもそうか。忘れてたな」


「ちょっと??どういう意味?」


 その後、家捜しすると本がいくつか見つかった。


 これは、貴重なものだろうな。


 持ち帰って、調べる必要があるな。


 そして、最後に祭壇の目の前までやってくる。


 すると、頭の中に映像が流れ込んでくる……!


 なんだ!?これは!?意識が遠のいていく……!







「ウィンドル、もう一度だけ言おう。奴隷制は廃止にしろ。このままでは、獣人族や人族の恨みは積もり、いづれ爆発するだろう。俺の師匠にして義父、そしてお前の父は、それを望んでいた」


「嘘を言うな!!この裏切り者め!人族だがその才能を買われ、父の養子にしてもらい、弟子にしてもらったくせに!!お前なんか、もう義兄でもなんでもない!所詮は人族だったということか!」


「……そうか、なら最早言葉はいらないな。俺は、俺のやり方でやるとしよう。次会う時は、敵同士だ。……さらばだ、義弟よ……」





「兄貴、本当にデュランダル義兄と戦うのかい?」


「あいつが悪いのだ!奴隷制を廃止しろ、憎しみに任せて虐げるなと煩いから……!我ら魔族は優秀だ!魔法に長けた至高の種族だ!全てに劣る奴らを従わせて、一体何が悪いというのだ!」


「……ここで3人で誓った絆も、これでお終いか。寂しいね……」


「お前も奴についていくか?剣の師匠だしな」


「……いや、俺は兄貴の側にいるよ。兄貴はほっとけないしね。大体、俺がいなくて師匠に勝てるの?」


「……すまない、弟よ。感謝する……。お前には辛いことだろう。だが、俺はどうしても我慢ならんのだ……!奴らと和解し、仲良くすることだけは……!母を奪った奴らを!俺は生涯をかけて、奴らを根絶やしにしてやる……!」








「お兄ちゃん!お兄ちゃん!しっかりして!!」


「ん?エリカか……どうした?」


「どうしたは、こっちの台詞だよ!?急に倒れるんだもん!」


「なに……?何か映像が流れ込んできて……」


「それどころじゃないの!!魔物が一杯来てるの!」


「何!?……わかった!行くぞ!」


「だ、大丈夫!?起きたばかりだよ!?」


「平気だ!それどころか、魔力が溢れ出そうなくらいだ!」


 身体も軽い!何か鎖のようなものが取れたようだ!


 今なら、どんな相手だろうと負ける気がしない……!


 さあ、いくらでもかかってこい!!





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