第83話不穏な気配

 さて、いよいよ魔の森が近づいてきた。


 だが、辺りは暗くなり始めている。


 このまま入っては危険だな……エリカやアキトも、精神的にも肉体的にも限界だろう。


 どっかで休めるとは言わないが、まともな建物は残っていないだろうか?


 すると、微かに人影が見えてくる。


 さらには瓦礫の山のなかに、ポツンと一軒だけ建物が建っている。


「叔父上、あれは……?」


「ん?……ああ、残っていたのか。あれは、冒険者ギルドだ。この国は冒険者の国とも呼ばれるほど、盛んな国だったからな。特に、この魔の森付近は稼ぎも良いし、腕試しにはもってこいだからな。ここに建っていたはずだ」


「そういえば、叔父上は若い頃、ここで修行したっていってましたね」


「団長ー、あそこなら休めるんじゃありませんかー?」


「そうですわね……ワタクシも疲れましたわ」


「そうだな……エリカやアキトはもちろんのこと、ホムラもきつそうだしな。借りられるか聞いてみよう」


「ま、まだ大丈夫です!」


「わ、私も!」


「2人とも、それはよくない。疲れた時は、疲れたと言っていいんだよ。それに、休める時に休む。これも、戦いを生業にする者の必須スキルだ。わかったか?」


「……はい、すみません。疲れています……」


「私も……ごめんなさい」


「ククク、お前もそうだったな?まだ、やれます!が口癖だったな……」


「言われてみれば、この2人と同い年くらいの時でしたね。叔父上に弟子入りしたのは」


「……ああ、そうだったな。俺は、今でも覚えている。その時に何故か、昔にも同じようなことがあった気がしたのを……」


「既視感ってやつですか?俺も、最近ありましたよ。ゼノスとかいう奴でしてね。多分叔父上とも、気が合うのではないかと」


「ほう、そんな奴がいるのか。では、機会があれば会わせろ。どうせ、強いのだろう?」


「ええ。本人は隠していましたが、一級相当はあるとみています」


「お前と同じくらいはあるってことか。そいつはいい、楽しみだ」


「え!?俺一級相当あるんですか!?」


「……何を、今更なことを言っている?この俺と互角に渡り合えるんだぞ?それには、最低でも一級相当は必要だ。……まあ、仕方ない部分もあるか。お前は領主になり、冒険者活動が減っている。だから、ピンとこないのだろうな」


「団長は、既にグラント王とも互角に渡り合えると思いますよー?」


「ユウマは、強いですわ!歴戦の勇者であるお祖父様も言っていましたわ!」


「お兄ちゃんは、強いもん!それに、かっこよくて優しいもん!」


「師匠は俺の憧れです!さっきのとか、感動しました!」


「みんな……ありがとう。なんだか、照れるな……」


「言っておくが、満足するんじゃねえぞ?お前には、俺を超えてもらうからな。覚悟しておけよ?」


「はい!師匠!今後とも、よろしくお願いします!」


 そして俺達は、冒険者ギルドの近くまで歩いた。


 すると、俺達に気づいた冒険者と思わしき格好をした人が、話しかけてくる。


「おい!アンタら!どこからきた!?」


「驚かせて申し訳ない。私の名はユウマ-ミストル。今回は国王様の命により、魔の森の調査に来ました」


「あ、あんた、いや、貴方様が有名なユウマ様ですか!そういうことでしたら、ちょっとお待ちを!只今、ギルドマスターを呼んできますね!」


「いや、こちらから出向こう。世話になるかもしれないしね。エリカ、アキト、ホムラは休んでおけ。シノブ、悪いが見ててやってくれ」


「はいはーい!シノブちゃんにお任せをー」


「お前はいつでも元気なことで……」


「おい!ユウマ!行くぞ!」


「はいはい、行きますよ。こっちはせっかちだしな……」


 あれ?今、俺しか常識人がいない?……しっかりしなくてはな。


 そしてギルドの中に入ると、50歳ほどに見える男性が待っていた。


「なにやら騒がしいが、何かあったか?」


「いや、ギルドマスター。実は」


「おお!久々だな!ノアじゃねえか!」


「ん?この私に向かってノアだと?一体どこの……シグルドか!?」


「おお!そうだ!懐かしいな!お前、強かったのにギルドマスターなんてやってたのか!」


「当たり前だ!俺はもう50歳だぞ!?現役は引退している!まったく、お前は変わらんな。だが、礼を言おう。アースドラゴンの群れを倒したのだろう?」


「もう、そんな歳か。ああ、倒したぞ。なに、物のついでだ。大したことじゃない」


「お前、アースドラゴンの群れだぞ?……そういや、そういう奴だったな」


「俺は変わらんさ。だが、お前がいるなら話は早い。実はな、甥っ子が国王から調査を頼まれてな。だが、暗くなってきた。ここで、休んでもいいか?」


「初めまして、叔父上がお世話になったそうで。ユウマ-ミストルと申します。端の方でよいので、使ってもよろしいですか?仲間が疲れてしまいまして……」


「……あの新進気鋭の貴族にして、伯爵の?若くして冒険者ランク3級になった?……なるほど、シグルドが目をかけるわけだ。当時から言っていたもんな。いいぞ、好きなところを使ってくれ」


「ありがとうございます。では、呼んできますね」


「ユウマ、ちょっと待て。おい、ノア。何故ここは残ってる?そして、特級冒険者が2人いたはずだ。どうして、こうなった?」


「……ここが残っているのは、冒険者達と特級であるダイスのおかげだ。ダイスが出来るだけアースドラゴンを倒したから、民が逃げる時間を稼げたのだ。その代わりに、奴は死んでしまったがな……。他の冒険者も、その他の魔物を倒し、時間を稼いでくれた」


「……なるほど。だから、あれだけの人数が国境付近まで来られたのか。で、ゼトは?」


「……奴は元を断つ!と言い、魔の森へ入っていった……そして、そのまま帰ってはこなかった……おそらく、死んでいるだろう」


「ゼトの力はよく知っている。今の俺ほどではないが、中々の強さだったはず……。そいつがやられるほどの何かがいるってことか?……不謹慎だが、楽しみだ」


「たく、相変わらずの戦闘狂め。まあ、調査をしてくれるなら有難い。ついでに、こちらからも依頼扱いしておこう。なので、頼む」



「ええ、おまかせ。では、今度こそ呼んできますね」


 俺は食事をとり終わった後、先程の話を聞かせた。


「それは、気合いを入れないとですねー」


「ワタクシ、少し怖くなってきましたわ……」


「わ、私も」


「お、俺は……いや、俺もです」


「まあ、無理もない。特級クラスがやられる相手がいるかもしれないからな。だが、安心しろ。叔父上と俺が揃えば、敵などいない!」


「ユウマ!よく言った!というわけだ、お前らしっかり休んでおけよ?」


 それぞれ返事をし、寝る準備に取り掛かる。


 さて、みんなを鼓舞したものの、俺も不安がないわけではない。


 特級を殺すほどの魔物か……さて、俺も気合いを入れるとしよう。


 俺も、明日に備えて眠ることにする。


 今日は身体が熱いな……皆に褒められたからかな?


 こればっかりは、慣れないんだよな……。


 そんなことを考えながら、眠りに落ちていく……。







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