第82話滅んだ国の跡地にて

一夜明けて、俺達はバルザールに入国した。


……いや、違うか。


最早、旧バルザールと言った方が正しいかもしれない。


何故なら、国を纏めるべき一族が滅んだり、逃げ出したりしたからだ。


更には、土地もアースドラゴンやその他の魔物に荒らされ、とても人が住めるような状態ではなかった。


逃げ延びた人々は、我が国が保護をし、各地の街に住まわせている。


その際に、逃げ出す人々や、民を守る勇敢な兵士を救ったのが叔父上だ。


一太刀でアースドラゴンを倒し、国境に逃げ込む人々を守った。


つまり、叔父上はバルザールの民にとって英雄なのである。


もちろん、叔父上にそのような認識はない。


その結果がこれである。


「ウオォォォ!!!」


「英雄シグルド様だぞーー!!」


「デュランダルに認められし、最強の男だーー!!」


……すごい熱気だな。

まあ、無理もないか。

目の前で、アースドラゴンを一刀両断したらしいからな。


「おい!?なんだ、これは!?」


「なんだって……叔父上の熱狂的ファンでは?」


「俺は何もしていないぞ!?」


「いや、叔父上……貴方、アースドラゴンを倒したでしょう?それですよ」


「ん?あのトカゲ共か?俺は目の前の雑魚を斬ったにすぎん」


「雑魚ってアンタね……あれは歩く災害ですよ?……まあ、叔父上ですし」


まあ、今の俺なら倒せるだろうし、叔父上ならそんなものか。


俺達は歓声に包まれながら、旧バルザックに入った。






そこは、地獄絵図だった。


血がこびり付いた瓦礫の山が散乱し、地面には人間と思わしき痕がある。


おそらく、アースドラゴンに潰されたのだろう……。


そこら中に、その痕がある。


流石に、死体などは回収したようだが、どのような状態だったのか容易に想像できる。


「これは……」


「オェ!!」


「ウッ!!」


エリカとアキトには、刺激が強かったか……。

だが、戦える者を目指す以上は、避けては通れないことだ。

慣れる必要はないが、耐性はつけないとな。


「団長ー」


「シノブ、2人を見てやってくれ」


「了解です」


「ユウマ……」


「わかっている。ちょっと待っててくれ」


俺は作業をしている責任者の方に、叔父上を伴い話しかける。


「ん?なんだ、アンタたちは?こっちは忙し……シグルド様!?」


「よう、ボルスだったか?邪魔して悪いな」


「いえいえ!とんでもございません!!英雄である貴方を邪魔など!!……して、どうなさったのですか?この辺りにはアースドラゴンもいませんが……」


「いや、用があるのはこいつだ。俺の甥っ子のユウマ-ミストルだ。一流の回復魔法使いでもある。浄化をしたいそうだ。このままだと、アンデットになる可能性があるしな」


「なんと……!かの新進気鋭の貴族である、ユウマ-ミストル様ですか!お噂は耳に入っております。平民にも分け隔てなく接し、回復魔法も無償でしてくださる方だと。まるで、聖女のようだと」


ん……?最後おかしくない?……もう、いいか。

ポジティブに考えれば、母上に似ているということだし。


「……ありがとうございます。では、通達をお願いします。一応、誰かがやったそうですが、まだまだ穢れた空気が残っていますね……」


俺は母上とは違い、回復魔法の一種である浄化や防御は得意ではなかったのだがな……。

俺は傷を癒すほうに、特化していた。

最近は、これも使いこなせるようになっていた。

異常な魔力上昇と共にな……。


「感謝いたします……!仲間達を、もう一度死なさずにすみます……!」


「いえ、これも回復魔法が行使できる者の義務ですから」


「なんと……!噂通りの方だ!流石は、シグルド様の甥っ子ですね!」


「まあな、自慢の甥っ子だ」


「……そんなこと、初めて言われたのですけど?」


「そうか?俺はいつも思っているさ。なんだ?言って欲しかったのか?可愛い奴め」


そう言って叔父上は、俺の頭をガシガシと撫でる。


「ちょっと!?本当に、どうしたんですか!?」


「なんだよ?昔はよくやってやっただろう?」


「たしかに、そうですけど……。まあ、褒められて悪い気はしないです」


これは嘘だ……本当は飛び跳ねたいほどに嬉しい……!

叔父上が、俺を褒めることなど滅多にないからな……。

一体、どういう風の吹きまわしなんだか……。

やはり、昨日の話が原因かな?


「仲がよろしくていいですね。こうして英雄と英雄の会話を聞けるとは……。帰ったら、嫁と子供に自慢しなくてはいけないですね!」


「そんな大袈裟な……」


「いえいえ、そんなことはありません。同盟を結ぶのを、立派に果たしたそうじゃないですか?これは快挙ですよ!もっと誇っていいですよ!」


「そうだ、もっと言ってやってくれ。こいつは育った環境の所為で、自分を過小評価しがちでな」


「ああ!もう!良いですから!はい!通達をお願いします!」


身体がむず痒くなってきた……!

嬉しいけれど、慣れてない……!


「ふふ、わかりました。では、行ってきます」


そして、準備が整った。

これから行使する魔法は、生者には毒でしかないからな。

そして皆が見守る中、俺は瓦礫の中で、1人佇む。


「ふぅ……迷える魂よ!安らかな眠りにつきたまえ!プリファケイション!!」


俺を中心にして、サークルができる。

そのサークルから光が溢れだし、白い靄のようなものが、空に舞い上がっていく。

あれが、魂と呼ばれるモノだ。

……うん、母上程じゃないが上手くできたな。

魔力もまだまだ余裕がある。


「ウオォォォ!!!」


「ありがとうございます!!」


「本当に感謝します!!」


「これで夫や子供も成仏できます!!」


人々から歓声と、感謝の言葉をいただく。

……嬉しいものだな……誰かの役に立てるというのは。


俺はその後、人々のお礼をしっかりと聞き、その場を離れた。


そして、いよいよ国の中枢に向けて出発した。


「エリカ、アキト、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です!」


「わ、私も!」


「そうなることは、恥ではない。俺も通った道だ。むしろ、慣れることに気を付けろ。上手く折り合いをつけるすべを自分で身に付けろ」


「は、はい!」


「わ、わかったよ!」


「ククク……懐かしいな。お前も、あんなだったな……」


「その節はお世話になりましたね……。ありがとうございました」


「なあに、いいさ。誰もが通る道だ」


そのまま、エリカとアキトを気遣いつつ、先に進む。

すると、斥候に出たシノブとホムラが戻ってきた。


「団長ー、いましたね」


「いましたわね」


「そうか、いたか」


「ほう、やはりまだいるか」


「え?え?なにがいたの?」


「なんですか?」


俺はエリカとアキトを手招きし、遠くが見える場所に移動する。


「す、凄い……!」


「で、でかいですね……!」


「俺も見るのは初めてだな……」


そこには、体長8メートルほどのアースドラゴンが一頭いた。


「団長ー、どうします?」


「ワタクシが、まずは撃ちますか?」


「いや、大丈夫だ。叔父上、俺がやってもいいですか?」


「ほう、珍しい。闘気が溢れているな。いいだろう、見ててやるから行ってこい!」


「はい!師匠!!」


俺は興奮を抑えつつも、軽快な走りで、アースドラゴンに接近する。


俺は魔力を貯めつつ、剣を構える。


「ゴアァァ!!」


アースドラゴンが俺に気づき、首を動かしつつ、足で俺を踏もうとする!


「動きが遅いんだよ!ミストルティン!奴を切り裂く魔力を持っていけ!!魔光剣!」


俺は真上から足が迫る状態から、剣を逆袈裟に振り抜く!


剣から光の刃が飛んでいき、奴の足へ吸い込まれる!


そして一瞬の静寂の後、奴の身体が真っ二つに割れる!


……出来たな、叔父上と同じことが。

はは、俺も現金なものだな。

叔父上に褒められたのが、自分が思うよりも嬉しかったようだ。

つい、気持ちが高ぶってしまった……。


「ユウマ!よくやった!それでこそ、俺の弟子だ!」


「はい!師匠!ありがとうございます!」



そして俺達は魔物を倒しつつ、魔の森付近まで到着する。


さあ、いよいよだ……よし!行こうか!










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る