第81話叔父上の告白

 次の日、俺は朝から大忙しだった。


 まずは住民を集め、説明をした。


「住民の皆さん!朝早くから申し訳ない!昨日のうちに通達が行ったと思うが、今日から獣人族を受け入れることにした!勝手に決めて申し訳ない!だが、これは将来の布石になると思っている!できれば、協力してもらいたい!」


「どうする?」


「でも、ユウマ様が言うなら……」


「そうだよな、俺らを救ってくれたお礼もまだ出来てないもんな」


 俺は住民達の相談が終わるのを、じっと待つ。

 これは、俺が強制してはいけない。

 頼みはするが、決めるのは彼ら自身でないと、意味がない。


 そして、誰かが拍手をした。

 すると、それは伝染し、拍手の音が鳴り響く!


 こうして、なんとか第1段階をクリアした。

 別に領主権限で黙ってやっても問題はないのだが、それでは俺が嫌いな貴族と一緒になってしまうからな。


 次は、守備隊長のバラルさんに話をする。


「バラルさん、留守の間お願いします。もし、住民と獣人の間で問題が起きたら出来るだけ公平にお願いします。きちんと双方の主張を聞いてください。難しいようなら、とっておいてください。俺が、なんとかします」


「わかった。なあに、オルガ殿と話してみたが、問題なさそうだったぞ?だが、注意しておこう」


「ええ、お願いします」


 俺は次に、男爵のスレイさんを呼び出した。


「ユウマ様!お呼びでしょうか?」


「スレイさん、わざわざすみません。話はわかりますね?」


「ええ、獣人族の方々のことですよね?」


「そうです。貴方は住民に好かれている。そして、いい意味で話しかけやすい。バラルさんは良い方ですが、意見は言いずらいでしょう。なので、貴方には橋渡し役をお願いしたいのです。いいですか?」


「私にそのような大役を……!はい!その任務、精一杯やらせて頂きます!」


「ありがとうございます。では、留守の間頼みますよ」


 よし、これで準備できたな。


 俺は領主の館に戻る。


「ユウマ殿、色々と面倒をかけて申し訳ない」


「気にしないでください、オルガ殿。これも、領主の務めです」


「ふふ、ユウマ殿は王の素質もありそうだな。器が大きい」


「よしてくださいよ…….ただでさえ、公爵になりそうで荷が重いのに……」


「ガハハ!自分を過小評価しがちのようだな。まあ、まだ若いしな」


「これでも、大分マシにはなったんですけどね……」


 そして、全ての準備が整った。


「では、カロン様。行ってまいります。イージス、アテナ、頼んだぞ?」


「ユウマ殿、お気をつけて」


「団長!任せてください!」


「はいはい、仕方ないね」


「よし!では、行くぞ!」


 俺達6人は、都市を出発した。





 そして、なんとか夜に国境付近までたどり着くことができた。


 今日は野営をし、明日入国予定だ。


 アキトと、シノブとホムラは休んでいる。

 シノブは必要ないと言ったのだが、俺がエリカやアキトに経験をさせたいと言ったら、了承してくれた。

 というわけで、俺とエリカ、叔父上が見張り番だ。



「フゥ……なんとか間に合ったな」


「お兄ちゃん、お疲れ様」


「おう、エリカもな。遠出は初めてだろうから、しっかり休んでおけよ?」


「うん、わかった……なんだが、未だに信じられないね」


「うん?……まあ、そうだな。お互いに、状況の変化が激しかったからな……」


「お父さんと兄さんが死んで、お兄ちゃんは偉くなって、私はカロン様と会って……もし、2人が生きていたら、どうなっていたんだろうね?」


「俺もこの間、墓参りの時に同じことを思ったよ。だが、もう気にしないことにした。死んでも尚、あの2人に振り回されるのは勘弁だからな」


 ん……?そういえば、あの墓参りの日辺りからだな。

 急激な魔力の上昇と、剣技の上昇は……そして、変な夢もか。

 うーん、何か関係があるのか?


「……そうだね。ごめんね、変なこと聞いて……」


「いや、いいさ。お前が気になるのも無理はない。まだ、そんなにたっていないからな」


「よう、邪魔するぜ」


「あ、叔父さん!」


「叔父上?」


「すまんな、邪魔をする気はなかったんだが……」


「どうしたんです?叔父上らしくない。そんな遠慮して……」


「おいおい、酷い言い草だな。俺だって、そういう時もあるさ」


「えへへ。そういえば、この3人で一緒に行動するのは初めてだね」


「……そういえば、そうだな。で、叔父上、どうしたんです?」


「……いや、あー、うん」


 珍しいな……叔父上が何かを躊躇っている……?

 俺とエリカは何かを感じ、黙って待つ。


「……俺はな、亡き親父に一度だけ言われたことがあるんだ。兄貴に代わり、家を継ぐ気はあるかと」


「それは……」


 初めて聞く話だ……。


「まあ、理由は簡単だ。俺のが強いし、家臣達が俺のが良いと言い出したからだ。だが、俺は断った。兄貴と争うのは嫌だったしな。あんな兄貴でも、俺が小さい頃は可愛がってくれたしな」


「叔父上……」


「叔父さん……」


「でだ、さっきのお前らの話を聞いて思い出したわけだ。俺も兄貴とバルスが死んだ時、思ったわけだ。俺が継いでいたら、2人は死ななかったのかと。そもそも、お前たちが苦労することもなかったのかと」


 俺とエリカは黙って話を聞く。


「……俺はな、逃げたんだ。親父の期待、家臣の期待。兄貴と争うことからも。何がデュランダルの再来だ……!俺は、ただ何も考えたくなくて、剣を極めたにすぎん……!」


 そう言って、叔父上は立ち上がる。


「……すまんな、こんな話をされても困るわな。俺も、最近思うんだよ。俺のこの常人離れした力は、何のためにある?何が意味があるのか?……わからんよな」


 叔父上はそう言い、去っていった。


「お兄ちゃん……」


「叔父上に、そんなことがあったのか……」


 俺とエリカは、見張り番の交代が来るまで、2人で黙って火を見つめていた……。







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