第76話叔父上を捕まえろ!
さて、相変わらず平穏な日々が続いている。
俺が領主になり、2週間が過ぎた。
エリカとアキトの訓練も、順調に進んでいる。
やはり、明確な目標があるとないとでは、上達の具合がまるで違う。
さらに、ライバル意識もあるので相乗効果が期待できる。
もっと言えば、俺も触発されてウズウズしてきたところだ。
そして、そんなある日のこと……。
俺は執務室で、サユリさんと二人きりだった。
といっても、そういうアレではない。
今は、エリカ達の護衛はシノブに任せている。
サユリさんは、秘書として優秀だ。
俺は、非常に助かっている。
そして俺は、サユリさんの護衛をしている。
つまり、持ちつ持たれつということだ。
「いや、本当に優秀だな。計算間違えもないし、字も綺麗だ」
「ふふ、ありがとうございます。……まあ、父が厳しかったので」
「そうか……すまない、嫌なことを思いださしてしまった」
「いえ!ユウマさんが、謝ることではありません!寧ろ、嬉しいです。こうして、私でもお役に立てて。ホムラさんは魔法使いとして優秀ですし、私だけ何も出来ないのは嫌でしたし」
「まあ、ホムラが例外でしょうけどね。まさか公爵令嬢とは、思っていなかったからなぁ……」
そうなんだよな……たまに忘れるが、アイツ公爵令嬢なんだよな。
普段は、ポンコツだからな。
まあ、それが可愛いところでもあるのだが。
「ふふ。でも、そんなところがお好きなんですよね?」
「……まあ、否定はしないかな。そちらこそ、叔父上のどこがいいんです?」
大体の経緯は聞いたが、それでも疑問である。
とてもじゃないが、ご令嬢が惚れるような人柄ではないのだが……。
「あの何物にも縛られない感じに、憧れています。国王様の誘いを断り、上級貴族の誘いも断り、孤高を貫いています。私は、お父様のいう事を聞くだけの人形でしたから……」
いや……叔父上の場合、孤高というか……単に面倒なだけだったと思うのだが……言わぬが花か。
本人がそう思うなら、それがその人にとっての真実だしな。
「まあ、叔父上は自由人ですからね。俺は、よく振り回されましたよ……。おかげで、タフにはなりましたけど」
「では、色々聞かせてもらえますか?シグルド様のお話を」
「ええ、良いですよ。こんなこともありまして……」
その後休憩も兼ねて、お茶の時間となった。
そろそろ切りが良いので、仕事に戻ろうとした時、その人はやってきた。
「おう!ユウマ!久しぶりだな!お互いに色々大変だっ………あ、あんたは!!」
「叔父上!お久しぶりです!お元気そうで、良かったです!」
「シグルド様!お会いしたかったです!ご無事でなによりです!」
「あ、ああ。おう、俺用事あるから……ま、またな!」
俺は全魔力を一瞬で溜め、叔父上を捕まえる!
「なに!?この俺が捕まるだと!?……どうやら、完全にものにしたようだな。だが、甘い!!」
叔父上は俺の手を振り払い、逃走する!
「待てや!コラァー!往生際が、悪いのではないですか!叔父上!!」
「ウルセェー!ちょっと自分がヘタレ卒業したからって、偉そうに言うんじゃねぇ!」
「テメー!今なんて言った!?上等だ!捕まえてボコボコにしてやる!」
「ハハハ!やれるものならやってみろ!10年早いことを教えてやろう!」
「だったら、逃げるんじゃねぇ!」
「く!さすがに速さでは、分が悪いか!」
「よし!追いつくぞ!」
「こうなれば……ハァァ!フン!!」
叔父上は振り向き、拳による風圧を放った!
「ッ!クソ!押し戻された!」
「ハハハ!まだまだだな!さらばだ、ユウマ!」
叔父上は階段を、駆け下りていく。
「いや……まだ、間に合う!」
俺は急いで、追いかける!
玄関を出たところで、見失いそうになる!
ん?あれは……よし!いいタイミングだ!
「シノブ!叔父上を止めろ!ホムラ!死なない程度に魔法を放て!」
「はい?……了解です!」
「オホホ!ワタクシに任せてください!」
「うお!お前ら!ズルいぞ!!く!魔法は苦手だ!」
叔父上はシノブの攻撃と、ホムラの魔法を凌いでいる!
うーん、相変わらず凄い力量だ。
おっと、感心している場合じゃないな。
「叔父上!覚悟!!魔斬剣!!」
「しまっ!ぐぉぉぉ!!!」
叔父上は背中から斬撃をくらい、吹っ飛んだ。
あ、やりすぎたかも知れん……生きてるかな?
俺らは叔父上を縛り上げ、連行した。
「はい、サユリさん。告白から逃げ出すような男は、煮るなり焼くなり、ご自由にどうぞ」
「え?え?どうして縛られてますの?」
「そうだ!そうだ!不当な扱いに抗議する!」
「叔父上は、黙っていてください。敗者なのですから」
「……仕方ない。サユリ、悪かったな。逃げたりして。しかし俺は今、誰とも付き合う気は無いんだ」
「……そうなのですね。ん?誰ともということは?好きな方がいるわけではないのですね?」
「ん?あ、ああ。まあ、そういうことになるな」
「では、私が好きでいるぶんには問題ありませんね!」
「……お、おう」
おお、叔父上が押されとる!
意外と、どストレートに弱いかもしれんな。
今までは、夜のお姉さんばかりだったからな。
「叔父上、何か言うことは?俺は、叔父上を見損ないたくないですよ?」
「……わーったよ!ユウマに言われてはな……。サユリ、一つだけ願いを言え。付き合うとかはなしだが」
「では、きちんとお話をしてください。それでも振り向かせられないなら、諦めますから」
「……わかった、約束しよう」
ふぅ、これにて一件落着かな?
やれやれ……世話の焼ける叔父上だ。
「よし、ユウマ。闘技場にいくか」
「はい?」
叔父上を見ると、闘気が溢れている!
そしていつのまにか、縄を千切っている!
「さっきのは、良かったぞ?良い一撃だった。今度は、本気でやろう」
あ、ヤバイ……これ火が付いちゃったやつだ。
「まあ、叔父上。とりあえず、お茶でも……」
「いいから、いくぞ!!」
「ちょ!?引っ張らないでください!」
その後闘技場に連行され、なんとか惨敗だけは避けられた。
だが、身体中ズタボロだ。
いや、望んでいたことだから良いんですけどね……。
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