第75話平穏な日々

 ガンドールに着いた俺達は、街の人から歓迎を受けた。


 ちなみにカロン様がきていることは、ごく一部の人間しか知らない。


 そして街に着き、早くも2週間が経った。


 お祭り騒ぎもようやく落ち着き、平穏な日々が続いている。


「なんか平和だなぁ……。あんなことがあったわりには……」


「ですねー。その後は攻めてこないし、静かですもんねー」


 そうなのだ。

 てっきりこの隙を突き、攻め込んでくると思われたのだが、そんなこともない。

 相変わらず、何がどうなっているんだか……。


「ここは、えーと?」


「エリカさん、ここはこうすれば良いのよ」


「あ!本当だ!ありがとう、サユリさん!」


 この2人、実は友達だったらしい。

 エリカは、カロン様の婚約者とは知らなかったみたいだかな。

 だが、知ってからも関係は変わらなかったようだ。

 今もエリカは、勉強を教わっている。

 しかもサユリさんは優秀で、俺の秘書までしてくれている。


「ホムラ姉さん、食べすぎじゃありませんか?」


「あら、カロンまでそんなことを……あの天使のようなカロンはもういないのね……ワタクシをお嫁さんにする!と言っていたカロンは……」


「ちょっと!?ホムラ姉さん!?そんな大昔のことを……あ、エリカさん!違うんです!昔の話です!」


 この2人を見ていると、兄弟のように見える。

 まあ、かたや一人っ子、かたや兄弟と仲悪かったようだからな……。

その兄弟も死んだことも含めて、俺と似ているかもな……。

 そしてカロン様も、こうして接してみると、まだまだ幼いなと思った。

 当たり前だよな……まだ14歳だ。

 俺らがしっかりと、支えてあげなくてはな。

 ちなみに、ホムラは何もしていない……いや、いいんだけどね……。


「なんというか、ちょっと前では考えられない光景ですね……」


「まあ、王太子に公爵令嬢が2人だからな……。おまけに、俺は伯爵だし。お前は、お姫様だし」


「団長!!それやめて下さい!ホントに恥ずかしいんですよ!?」


「ククク、良いじゃないか。お前が黙っていた所為で、俺は大変だったんだから」


「むー!それを言われると、弱いですねー……」


「そういや、会談の件はどうするんだろうな?あんなことがあったからこそ、必要な気はするが……」


「そうですねー。まあ、情勢が落ち着いてからですよね」


「一ヶ月後に、一度王都に来るように言われたし……それまでは、普通に過ごすか」


 ちなみに、必ず一人で行動しないことを約束している。

 あと学校にも身分を隠し、きちんと通っている。


 そして、今までが嘘のような平穏な日々が続く。






 そんなある日のことだ。

 アキトという少年に、頼まれたのは。

 俺はシノブに護衛を任せ、1人で会っている。



「ユウマさん!お願いします!稽古をつけてください!」


「ふむ……一応、理由を聞こう」


「俺は弱い!このままでは、カロン様は頼ってくださらない!カロン様が、俺にそんなことは求めていないことは分かっています!でもエリカ嬢に負けないくらい、俺だってカロン様を守りたいのです!」


 自分自身を責めているな……無理もないか。

 自分がいない時に、カロン様が襲われたのだから。


「わかった……だが、覚悟しろよ?叔父上流でいくからな?骨の一本や二本は覚悟しておけ」


「はい!ありがとうございます!」


「ああ、鍛えるに越したことはない。いずれ王になる方の、側近になるのだからな」


「え……?俺がですか?」


 どうやら、そこまでは頭が回っていないようだ。

 まあ、この子も14歳だしな。


「それはそうだ。カロン様が、最も信頼しているのが君だ」


「でもユウマさんや、シグルド様がいれば……」


「単純な強さなら、そうだろう。護衛としては、優秀だろう。だが側近とは、心が許せる相手でなくてはいけない。王とは孤独だ。国王様も宰相様という側近がいるから、耐えられているはずだ」


「……でも俺は、宰相様みたく頭も良くないし。ユウマさんみたいに、強くなれるかもわからないし……」


「もちろん、それに越したことはない。だが、一番大事なのはそこじゃない。一緒にいて心安らげるかが、大事だと俺は思う。俺にとってのシノブであり、ホムラのようにな」


「……分かりました。とりあえず、やれるだけやってみます!ご指導を、よろしくお願いします!」


「ああ、では早速やるか」


「え?いいのですか?……お願いします!」


 なんだか昔の自分を見ているようで、懐かしいな……。

 俺も叔父上に、頼み込んだな……。


「ところで、隠れてないで出てきなさい」


「えへへ、バレちゃった……」


「エリカ嬢!?聞いていたのか?」


「いや、シノブさんが隠密の練習になるからって……」


「なるほど、そういうことか。まあ、エリカはそっち向かもな。うん、中々良かったぞ?」


「え!ほんと!わーい!お兄ちゃんに、褒められたー!」


「う!確かに、俺は気づかなかった……」


「では、そっち方面はエリカに任せ、君は直接的な役割を担えばいいさ」


「……はい!わかりました!」


「わたしも、受けていい?」


「ああ、いいぞ。二人まとめて相手してやろう」


 そして以前叔父上と戦った、闘技場に向かう。

 3人共模擬剣を持ち、対峙する。



「さて、二人同時でいい。かかってこい」


「え?同時ですか?」


「アキト君! いくよ!本気でやらないと、一瞬で終わるよ!」


「……わかった!行きます!」


 エリカとアキトは、左右からかかってくる。

 エリカは、やはりスピードがあるな……。

 アキトも、遅くはないな。


「えいや!」


 エリカの打ち込みを、俺は半身をずらしながら、剣で受け流す。

 すると、エリカは前のめりで転びそうになる。


「隙だらけだ」


 俺は背中に、剣を打ち込む。


「イタッ!」


 エリカは、すっ転ぶ。

 すまんな、エリカ……心が痛むが、仕方あるまい。


 遅れてアキトが、剣を振りおろしてくる。

 俺は避けずに、そのまま受け止める。

 そして、鍔迫り合いの状態になる。


「なるほど、力は弱くないと……だが、技術がなっていないな!」


 俺はスッと力を抜き、横にずれる。

 すると、よほど力をこめていたのだろう。

 アキトも、前のめりの姿勢になる。


「はい、お前も隙あり」


 背中に剣を叩き込む。

 男子なら、これくらいは平気だろ。


「イテッ!」


 アキトも、すっ転ぶ。


「おいおい、二人とも。馬鹿正直に突っ込んでどうする?もっとフェイントかけるとか、二人で連携するとかあるだろう?はい、もう一度。舐めてると、次は本気で叩き込むからな?」


「「はい!!もう一度、お願いします!!」」


 あ、そこは息ピッタリなのね……。


 そして、30分程が過ぎた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


「ゼェ、ゼェ、ゼェ」


「まあ、こんなところかな」


 二人は汗びっしょりで、大の字で寝転がっている。

 もちろん、俺は汗一つかいていない。


「お前らには、実戦が足りないな……。何か、考えておこう。では、以上だ」


「「ありがとうございました!!」」


 さて、平穏なうちにどこまで鍛えられるかだな……。


 もちろん、俺自身も含めてだ。


 叔父上と稽古したいが、叔父上は今頃どうしているかな?






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