伯爵から公爵になる(予定)

第74話収束していく物語

そして、いよいよガンドールへ出発する前日を迎えた。


だが、事件が起きた。


「駄目だ、許さん」


俺はできるだけ、厳しい口調で告げた。


「なんで!?お兄ちゃん!?」


「只でさえ、守らなくてはいけない人が多いんだ。お前まで守り切れない」


「わたしだって強くなったもん!それに、宝剣カラドボルグだってもらったもん!」


エリカは王子を助けた褒美で、宝剣カラドボルグを授与されたのだ。

宝剣にも、認められたようだしな。

一体どういう基準で選ばれるのかは、相変わらず謎だがな。

効果は、身体能力上昇だ。

今のエリカになら、扱えるだろう。


「ほう、俺に勝てるくらいか?その武器は使いこなせるのか?」


「っ!……それは………」


「俺はお前が大事だ。もし、カロン様とエリカをどちらかしか救えないとなったら……この国の貴族としては失格だが、お前を選ぶだろう。その後、俺がどうなろうとも」


国王様には申し訳ないが、こればかりは譲れない。


「お兄ちゃん……でも……」


「ユウマ、連れて行ってあげなさい」


「母上!?何を言うのですか!?」


「貴方が言ったのよ?この子が、自分で決めたことを応援すると」


「確かに言いましたが……これは、さすがに……」


「それに、王都も安全とは言い切れないでしょう?ならば母としては、頼りになる息子が見てくれたら安心だわ」


「……ずるいですよ、母上。そんな言い方されたら、断れないじゃないですか……」


「それに私の息子は、エリカが1人が増えたくらいで、手に余る子だったかしら?」


「……わかりましたよ!連れて行きますよ!」


「ふふ。ありがとね、ユウマ。そして、ごめんなさい」


「もう、いいですよ。確かに、俺も言いましたし」


「じゃあ、いいの!?わたしついていっても!?」


「……仕方ない。ただ、俺の言うことは聞いてもらうぞ?そして、訓練も厳しくいくから、覚悟しておけ」


「はい!わたし頑張って強くなります!今度こそ、カロン様を守ってみせる!」


そうか……そんなことを考えていたのか。

自分が何も出来なかったことが、悔しいのだな……俺にもあったな。

仕方ない……俺も妹離れしなくてはいけないかもな。


その後エリカは、準備しなきゃ!と急いで出て行った。

母上もまだ万全の状態ではないので、セバスが連れて行った。


「はぁ……」


「団長、お疲れさまです」


「まあな……いつの間にか、大きくなったんだな」


「団長が守ってあげなきゃって気持ちもわかりますが、それでは成長を妨げてしまいますよ?」


「ああ、その通りだな……嬉しくもあり、悲しくもある不思議な気分だ……」






そして次の日、出発を迎えた。


主要メンバーは、護衛としてイージスにアテナ。

エリカとカロン様。

ホムラとサユリ様。

補佐として、アキトとノインさん。

そして、俺とシノブ。

合計10人になった。


「では、ユウマさん。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


「私まで面倒を見てもらい、ありがとうございます」


「いえいえ。カロン様とサユリ様、こちらこそ、色々とうちの身内がすみません。では、よろしくお願いします」


サユリさんの事情については、もう聞いた。

まさか、叔父上に惚れているとは……衝撃だったなぁ。

そして、これでエリカの障害は無くなった訳か……一応だが。

ティルフォング家当主が、このまま引き下がるわけないしな……、


「ユウマ!?ワタクシには何もないのですか!?」


「ほう、お前は俺に守られるような女だったのか?俺は、お前を頼りにしていたのだがな……」


「ユウマが、ワタクシを頼りに!?……どうしよう!?嬉しいわ!」


なんというチョロい奴……おっと、いけない。

こんなのでも、公爵令嬢だった。


「今、何か馬鹿にされたような……?」


「さて、俺は残る者に挨拶してくるな」


俺は逃げるように、ここに残る人達の元へ向かう。


「アロイス、家のことを頼んだぞ」


「へい!俺に任せてくだせい!エリスさんのことも!」


「ああ、すまないな。お前なら、安心して任せられる」


「ユウマ様、お気をつけて」


「ハルカさん、アロイスのこと頼みますね。いざとなったら、ケツを叩いてやってください」


「ふふ、ユウマ様ったら……。ええ、任せてください。ビシバシいきますから」


「二人とも……そりゃないですぜ……」


ハルカさんは、例のアロイスの恋人だ。

時間がとれ、ようやく会うことができた。

中々に優秀なようで、正直言って助かる。

俺はこの家には、中々来れなくなるからな……。





「ユウマ様、出来ればついていきたかったのですが……」


「いや、セバスはここにいてくれ。そうすれば、安心して行くことができる。アロイスと母上を、よろしく頼む」


「ユウマ様……ご立派になられて……。ええ、お任せを」


「ユウマ坊ちゃま、ご立派ですわ……」


「おいおい、クリス。坊っちゃまは勘弁してくれ。それと、泣かないでくれよ。皆のこと頼むよ?」


「ええ、ユウマ坊ちゃま。身体には気をつけてくださいね」


「いや、だから……もう、いいや。ああ、クリスもな」


そうして、皆との別れを終え、俺たちは王都を出発した。


俺に領主が務まるのかわからないが、やるしかないな。


俺は、最近起こる胸騒ぎを押し殺しつつ、意識を切り替えた。

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