第69話子爵から伯爵になる
どうやら、俺も疲れていたようだ。
エリカの手を握ったまま、眠ってしまった。
目が覚めた俺は、起こさないように手を離し、部屋を出る。
部屋を出ると、まだ薄暗い。
夜明け前の様子だ。
俺はそのまま、母上の元へ向かう。
部屋に入ってみると、シノブだけがいた。
「あ、団長。やっぱり寝てしまいましたか」
「ああ、すまないな。母上を見ててくれたのか?」
「はい、私は寝なくても大丈夫なので。私にとっても大事なひとですし」
俺は母上の側に行き、手を握る。
「母上、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。俺は、無事に帰ってきました。母上も早く目を覚まして、元気な顔を見せてください」
俺とシノブは、部屋の端にあるソファーに並んで座る。
「……帰ってきたら、お前に言いたいことが沢山あったのだがな……」
「あ、ごめんなさい。私のこと、色々バレましたね?」
「まあ、色々大変だったよ。ゴラン殿とは決闘するし、お前の母親はおっかないし」
「えへへ、すみません。でも、平気でしたでしょ?」
「まあ、結果的にはな。ヤヨイさんからも、よろしく頼むと言われたよ。たく、仕方のない奴。まあ今回はよくやったし、許してやるけど」
「いやー……間一髪でしたけどねー。その護衛にバレぬように、離れていたのが良くありませんでした。もっと近づいていれば、未然に防げていたかもしれません。そしたらカロン王子も傷を負うこともなく、エリスさんも回復魔法を使うこともなかったのに……私が気づいていれば……」
俺は、シノブの手をぎゅっと握る。
「そんなことはない。お前は良くやってくれた。下手をしたら、エリカも殺されていただろう。それに、我が国唯一の王子まで亡くなっていただろう。俺個人としても、この国の貴族としても、感謝する。ありがとう、シノブ」
シノブの眼から、一筋の涙が溢れる。
「団長……」
俺は愛おしくなり、そのままキスをする。
その後、2人で顔を赤くし、黙ってしまう。
「あ、あれですね。そろそろみんな起きますかね?」
「そ、そうだな。いや、どうしよう」
「「ハハハ……」」
「いざされると、照れますね……」
「いざしてみると、照れるな……」
「「ハァ……」」
「………ククク、20歳にもなってなにをしてんだか……」
「へへ、ですよねー」
その後は何事もなかったように、会話をしていた。
「団長の回復魔法は、効かないんですよね?」
「ああ、時間が経ち過ぎなのもそうだが……母上の場合は、傷を負ったわけではない。体力低下と、魔力消費によるものだろう。回復魔法では、どうにもならない……母上に散々言われたことだ。回復魔法は、万能ではないと」
俺は再び母上の側に行き、手を握る。
すると、軽く握り返された気がした。
「母上?……ユウマです、わかりますか?」
母上の目が、ゆっくりと開く。
「………ユウマ?……何故泣いているの?またランドやバルスに嫌なことされたの?」
「母上……いつの話ですか。俺はもう大人ですよ」
「……私にとっては、いつまでも可愛いユウマですよ……」
母上は、再び眠りについた。
だが、これなら一先ず大丈夫そうだ。
今日明日辺りには、眼が覚めるかもしれない。
「団長、良かったですね」
「ああ。ていうか、お前も泣いてるのか」
「えへへ……なんか嬉しくなって」
母上が気がついたのは嬉しいが……どうしたものか。
その後場所を移し、起きてきた皆に知らせた。
「団長!良かったですぜ!」
「団長!オイラも嬉しいです!」
「へへ、良かったじゃねえか」
「ユウマ君、本当に良かったわ……」
「ユウマ様、大変喜ばしいことです……」
「あらあら、セバスったら。泣いて」
そして、最後にエリカが起きてきた。
「お兄ちゃん!?お母さんは!?」
「ああ、とりあえずは大丈夫だ。今日か、明日には目が覚めるだろう」
「……良かったーー!!」
「おいおい、急に抱きつくな。危ないだろうに」
「えへへ!だって嬉しいもん!」
そしてその日の午後に、母上は目を覚ました。
我が家はお祭り騒ぎだったのは、言うまでもない。
そしてその日の夜、母上に呼び出される。
俺は、シノブに誰も通すなと命令をし、母上の部屋に入る。
「ユウマ、心配をかけてごめんなさいね……。そして、よく無事に務めを果たしたきましたね。母として、嬉しく思います」
「……いえ、母上こそ無事で良かったです。これで、正式に伯爵になりました」
「……その表情は、わかっているのね?」
「……はい。命に別状はないとはいえ、母上の寿命が縮んだことは……」
「ふふ、そう暗い顔しないの。生きていただけ幸せだわ。それに、今すぐということではないわ」
「……はい、そうですね」
「……他に気づいた人は?」
「俺だけかと……何故なら、高位回復魔法を使えるのは俺だけですから。ただ、シノブにはその可能性は伝えました」
「そう、随分と信頼しているわね?」
「ええ、あちらのご両親にも……一応、挨拶出来ましたし」
「……今、なにか間がなかったかしら?」
「いえ、何も。それよりも、無茶をしましたね……。母上の状態で回復魔法を使うには、魔力の不足を命で補うしかない」
「ええ……私はエリカを産んだ際に、ほとんどの魔力がなくなっていますから。でも、良いのです。今となっては、この国唯一の王子を救えたのだから。それに、あの子が好きになった子ですし」
「そうですか……。なら、俺から言うことは一つだけです。もう無茶はしないでください。お願いですから……」
「ふふ、泣かないの。貴方は、伯爵様になるのよ?そしてこれから、この国にとって欠かせない人物になるでしょう。母のことは気にせずに、領主となり、街を治めなさい」
「母上……」
「もし貴方が、私に遠慮してここに残るようなら、母は貴方を許しません」
「……わかりました。勤めを果たしてみせます。その代わりに……」
「ええ、約束します。もう、無茶はしないと」
俺はその後、母上が眠りにつくのを待ち、部屋を出る。
「シノブ、ご苦労だった。ありがとな」
「……どうでしたか?」
「見抜かれたよ、俺が残ろうとしていることが。そして、叱られてしまった……」
「母は強しといったところですねー。私の母上もそうでした」
「ああ……お前のお母さん、強いよな。色んな意味で。旦那さんを蹴飛ばしてたぞ?」
「ああ、それなら日常茶飯事です。安心しました、皆元気そうですねー」
「えぇー……基準はそこなのか」
こうして一連の騒動は、一先ず終わりを迎えた。
しかし、まだまだ問題は山積みだ。
これから、一体どうなってしまうのか?
わからないが、とりあえずは俺にできることをやるしかないな。
俺は伯爵となり、領主になるのだから。
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