第68話裏切り

俺は衝撃から、なんとか立ち直る。


「頭をあげてください。何があったのですか?」


「うむ……話はさかのぼる。あれは、お主らが旅立ってからのことだった……」


そうして、国王様は語りだす。


「まず、結論から言おう。シャロンーグラム伯爵が裏切りおった」


俺は話が進まなくなるので、努めて冷静を装う。


「……それって、国王様が目をかけていたという?」


「ああ、そうだ。順を追って説明をしよう。まずお主らがエデンに入り、数日後にウィンドルが攻めてきた」


「おそらく、俺らと同じタイミングですね」


「ああ、そうだと思う。さらにそのタイミングで、バルザックにアースドラゴンの群れが押し寄せたと情報が入ってきた。我々はウィンドルに手を焼き、救援する余裕がなかった。我らも、先の戦争で兵士が減ってしまったしの。そしてアースドラゴンの一部が、デュラン国に入り込んだと情報が入った。余はシグルドに頼んだ。奴には命令はできないので、ただの友としてな。シグルドは、二つ返事で了承してくれおった。そして、事件は起きた……」


「……一体何が?」


「シャロンとその子飼いの者により、王家の者を殺されたのだ」


「なっ!?……国王様は、生きているということは……」


「うむ……長男と次男と、その母親が殺されてしまった」


「……ということは、カロン様は?」


「それもついても、ユウマには感謝をしなくてはならない。お主の妹エリカ嬢と、シノブというお主の側近、何よりお主の母親がいなければカロンまでも死んでいただろう」


俺は怒鳴りたくなるのを、何とか耐える。


「どういう意味ですか?」


「よく、耐えてくれた。カロンは、普段護衛をしている近衛に襲われた。側には、エリカ嬢しかおらんかった。カロンが切られた時、シノブ殿が現れて近衛を始末したということだ。そして傷ついたカロンを、エリカ嬢がヒールをかけてくれた。だが傷は深く、このままでは死んでしまうと思ったのだろう。エリカ嬢は自宅に連れ帰り、母親に頼んだ。なにせ、優秀な回復魔法の使い手は戦争に行っていたからな」


「ちょっと、待ってください!!母上はもう……」


「ああ、エリカ嬢は知らなかったらしい。母親が、もう回復魔法をほとんど使えないことに」


それは、そうだ。

母上はエリカを産んだことで、回復魔法がほとんど使えなくなった。

そんなことを、エリカに言えるわけがない。


「それで、母上は!?」


「回復魔法を行使し、カロンを救ってくれた……。感謝しかない。死んでもおかしくなかったが、無事だ。だが、命に別状はないが、今も眠り続けている」


とりあえずは生きていると知り、安心した。


「はぁーー!良かった!そうですか……」


「すまなかった。余の配慮が足りないばかりに、お主の大切な人を危険な目に合わせてしまった……」


「……謝罪は、受け取ります。それで国王様はどうしてご無事だったのですか?」


「それはな、ある一部の人間しか知らないが、宰相は剣の達人なのだ」


「え!?あの、ガレス様が!?」


意外だ……どう見ても、文官にしか見えない。

いや……でも言われてみれば、体格も良い。


「ほほ、驚いただろ?シャロンはそれを知らずに、我らを亡き者にしようとした。だが、宰相も年には勝てん。傷を負ってしまってのう。今は療養しておる」


なるほど、だからここにいないのか。


「それで、シャロン伯……いや、シャロンはどうしたのですか?」


「やつは兵士を振り切り、逃げおおせた。奴に勝てるのはシグルドか、お主くらいしかおらん」


「ん?以前近衛を見ましたが、強い方がいたと思うのですが……」


「そいつが、カロンを殺そうとしたのだ。シノブ殿が、白髪になり撃退したと」


真祖化するほどの強さだったということか。


「なるほど……そもそもが疑問なんですが……」


「わかっておる。何故見抜けなかったということだな?」


「ええ。近衛ともなれば、身辺調査は徹底しているはず」


「もちろん、徹底した。親類縁者から、祖先にいたるまでな。だが、問題なかったはずなのだ……」


「一度に起きたということは、計画的犯行ですよね?」


「そうであろうな。下手人は、シャロン以外は始末できた。だが、その家族の家にいったところ、もぬけの殻だった。何日か前に旅行へ行くと言って、そのままいなくなりおった。つまり、逃していたということだ」


「タイミングが良すぎますもんね……。この国最強の、叔父上が不在。この国で、おそらく最高の回復魔法使いの俺が不在ですから」


「ふむ……その通りだな。となると、ウィンドルの陰謀か?」


「シャロンは、何か言っていなかったのですか?」


「言っておった。一言だけ……俺らは、目が覚めたと」


「目が覚めたですか……抽象的すぎますね」


「ああ。だから、あまり気にしないことにした。そういう狙いかもしれんしな」


それまで黙っていたホムラが言う。


「叔父様、これからどうなるのですか?」


「……わからん。とりあえずは葬式をあげ、カロンを王太子にしなくてはな」


「カロンが王太子……ですが、あの子の婚約者の家は……」


「わかっておる。ティルフォング家が、代々王位を狙っていることは。それについては、考えがある」


「あのー……話が見えないのですが」


「すまんな、王家の一族の事情でな。まだ、話せないのだ。たが、いづれ話すと約束しよう。お主にも、無関係な話ではないからのう」


「……わかりました。今は、何も聞きません」


「そうしてくれると助かるのう。では、この辺で終わりとしよう。家に帰り、ゆっくりしてくれ。後日、改めて会うとしよう。ホムラは残りなさい」


「はい。では、失礼します。ホムラ、またな」


「ええ、ユウマ。おやすみなさい」


俺は城を出て、家に急ぐ。

生きているとはいえ、ずっと不安だった。


玄関には、シノブがいた。


「団長!」


シノブが、抱きついてくる。


「シノブ!よくエリカを守ってくれた!感謝する!」


「へへ、当然のことですよー。私の義妹になる人ですし、団長の大切な妹ですから」


「カロン様も守ってくれたそうだな?」


「あれは、ついでですよー。エリカちゃんも一緒に殺そうとしましたから。それより、団長こっちです」


「ああ、頼む」


俺はシノブについていき、ある部屋に入る。


そこには仲間達と、泣き腫らしたエリカ。

そしてベッドには、横たわる母上がいた。


「お兄ぢゃん!おがあさんが!わだしが悪いの!わだしがカロン様を助けてってお願いしだがら……わだし知らなくて……おがあさんがわだしを産んだせいで……」


俺は、エリカをギュッと抱きしめる。


「エリカ、お前は何も悪くない。母上はお前を産んだことで、後悔したことなどない。俺は、一度だけ聞いたことがある。だが、母上は言った。この子が無事に産まれてよかったと。そして、健康に育ってくれればそれだけで幸せだと」


「グスッ、お母さんが?」


「ああ、そうだ。ほら、可愛い顔が台無しだぞ?母上が目が覚めたとき、そんなんじゃ笑われてしまうぞ?」


「グスッ……うん!これでいい?」


「ああ、それでいい。お前が沈んでいたら、それこそ母上が悲しむ」


俺はエリカを抱き上げ、部屋を出る。


「お、お兄ちゃん!?」


「お前、全然寝てないだろ?目の下真っ黒だぞ?きちんと寝なさい。でないと、俺が母上に怒られてしまう」


「で!でも、お母さんが起きたら!」


「そしたら、起こしてやるから」


俺は、エリカの部屋に入る。

そして、ベッドに下ろす。


「……じゃあ、寝るまで手を握って!」


「はいはい、甘えん坊さんだな」


俺は布団に入った、エリカの手を握る。


「えへへ……昔は、よくこうして握ってもらったね」


「そうだな……親父や兄貴に、何か言われるたびにな」


「わたしは、それだけで安心できたんだよ?お兄ちゃん、大好きだもん」


「はいはい、そういうのは後で言いなさい。今は、寝なさい」


「はーい……………」


すると、すぐに寝息をたてた。

よほど、疲れていたのだろう。


俺はそのまま、しばらく眺めていた。


すると、意識が遠のいていった。

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