第70話外伝~サユリ~
私は籠の中の鳥。
自分では、ここから抜け出すことも出来ない。
たまに外に出られても、すぐに帰らなくてはならない。
でも一番嫌なのは、出て行く勇気がない自分。
その気になれば、家出するなりなんなりは出来ると思う。
でも結局そんな度胸もなく、お父様の言うことをきく毎日。
そんな私でも、唯一出来た抵抗がある。
でも、それもカロンが協力をしてくれなければ成り立たなかったこと。
結局、自分の力で何かを成したことはない。
「さて、サユリ。カロン様との仲はどうだ?」
「ええ、お父様。仲良くしています」
「そうか、ならいい。そろそろ、カロン様もお年頃だ。変な虫がつかないようにしておけ。ただでさえ、あの忌々しいミストル家の者と、親しくしているそうじゃないか」
「あれは、ただのお友達だと思います。それに、アキト君がお熱なだけです」
「そんなことはわかっておる!あの小僧は、シグルドやユウマ伯爵に憧れているからな……」
「もう伯爵ですから、家柄も釣り合いますしね」
「……忌々しいことだがな。運だけでのし上がりおって!国王も国王だ!あんな青二才に、伯爵の地位をあげおって!いいか、カロン様は優秀な方だ。長男は傲慢だし、次男は脳筋だ。国王は王太子を決めていない。だが、おそらくカロン様になるだろう。そうすれば、我が家の宿願が叶う!本来なら、祖父が王位を継いでいたのだ!それを曽祖父が、祖父ではなくその弟に継がせおった!」
それは、はたして本当かどうかはわからないのに……。
未だに、妄信的に信じていらっしゃるのね……可愛そうな人。
「だが、お前は先見の明があったな!当時は何を言い出すかと思ったが、まさかカロン様があんなに優秀になるとは……。うむ、このまま引き続き仲良くしとくのだぞ?」
「はい、お父様」
「よし、良い子だ。では、仕事に戻る」
お父様はそう言い、部屋を出て行った。
お父様は権力にしか興味がない……。
子供の頃は疑問に思ったけど、今はわかる。
お父様は、おそらく子供を作る能力がほとんどないのだわ。
だってあんなに愛人がいるのに、私一人っ子ですからね。
病気で死んだお母様も、私を産んだのは遅かったですし。
私は出かける準備をして馬車に乗り、カロンに会いにいくことにした。
そろそろ、本気で話し合わないとですからね……。
カロンも、気になる子ができたみたいだし……。
私も、いつまでも甘えてはいけないわ!
シグルド様に、好きだと伝えなくては!
実は、13歳の頃に告白したんですけどね……。
俺はロリコンじゃない!出直してきな!と言われてしまいました……。
でも私も17歳になり、身体つきも女性らしくなりました!
今なら、子供扱いされないはず!
……だと、いいな。
そんな考え事をしているうちに、カロンの家に到着した。
「やあ、サユリさん。いらっしゃい」
「ええ、カロン。こんにちは。アキトも元気そうね」
「はい、サユリ様もお元気そうでなによりです」
「ごめんなさいね、また貴方に迷惑をかけて……」
「ああ……俺がエリカ嬢に惚れているというやつですか。まあ、別にいいですよ。それでカロン様とサユリ様が、助かるのなら」
アキトは、エリカさんに惚れていることになっている。
そしてカロン様は、それを手伝っているという
私達は扉の前をアキトに任せ、
「さて、サユリさん。いよいよお互いに時間がなくなって来ましたね……」
「ええ、そうですわね。偽装婚約者も限界が近いですね……」
そう、私達は実は好き合っていないのです。
もちろん、人としては好き合っていますが、異性としては見ていません。
カロンは群がる女性にうんざりして、私と偽装婚約をした。
私はシグルド様が好きでしたので、他の有力者と結婚させられる前に、カロンと偽装婚約をしました。
正式には婚約者未満なので、解消しても問題はありません。
カロン様が15歳になったら、正式にする予定です。
つまり、あと1年もないのです。
それまでに、どうにかしなくては。
「それで、首尾はどうですか?」
「この間、住んでいるところを確認してきました。エリカさんに聞いたら、明日はいると。なので、告白してきます」
私は口に出して、覚悟を決めた。
シグルド様に、好きと伝えようと。
そして結果がどうであれ、家を捨てる覚悟をしようと。
「エリカさんも、まさか僕の婚約者とは思ってもいないだろうな……。後で、きちんと謝罪をしなくてはだね」
「ええ……私も謝罪します。あんなに良い子を、騙すみたいな形になってしまいました。それで、カロンはどうですか?」
「……エリカさんが、好きかな。可愛いし、明るくて一生懸命だし。何より、他の女性と違って迫ってこないのが心地いい」
「まあ……貴方は美少年ですからね。仕方ないかと」
「死んだ母上にそっくりらしいですね……。でも、そうか……サユリさんが覚悟を決めたなら、僕もデートくらいには誘ってみようかな」
「いいですね。伯爵の妹さんなら、文句もでませんし」
「本当に、ユウマさんには感謝するしかないですね。お互いに」
「ええ、本当に……。シグルド様も、ユウマさんがいなければ、国を出ていたそうですから」
「あの2人がいないと考えると、ゾッとしますね。一部の貴族の人達は見下していますが、彼等のどこを見てそう思うのか、謎でしかたありません。ユウマさんみたいな方こそ、本来の貴族だというのに……」
「ええ……お父様も、見下していましたね。それで、カロンにお願いが……」
「ええ、分かっています。明日も来てください。そしたら、僕と一緒にシグルドに会いに行こう」
「ありがとう、カロン。ごめんなさいね……」
「仕方ないよ。ティルフォング公爵の目を欺くには、必要なことさ」
私達はその後アキトを加え、楽しく過ごした。
そして家に帰り、お父様に明日も行くことを告げたら、喜んでいた。
お父様、ごめんなさい。
お父様の人形では、もういられません……。
ここまで育ててくれて、ありがとうございます。
そして次の日、ミストル家に訪問した。
エリカさんは、学校でいない。
ユウマさんは、オーガ退治に向かっているのでいません。
今いるのは、エリスさんとシグルド様だけなはず。
「こ、これはカロン様。本日はどのようなご用件でしょうか?エリカ様もユウマ様もいませんが……」
「すまないね、セバスさん。シグルドはいるかな?」
「なるほど、シグルド様にご用でしたか。そちらのお嬢様はどなたでしょうか?」
「挨拶が遅れ、申し訳ありません。私の名は、サユリーティルフォングです。よろしくお願いします」
「……ティルフォング家のお嬢様でしたか。私の名前はセバスと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
「ええ。それで、私も入ってよろしいですか?」
「ええ、もちろんでございます。アロイスさん!イージスさん!」
「どうしやした?セバスさん」
「オイラを呼びましたか?」
「カロン様が大事なお話があるそうなので、家の周りに人が来ないようにお願いします」
「なに!?わかった。徹底しよう」
「オイラも了解です!」
そして、お2人は表に出て行きました。
あとで、お礼を言わなくてはいけませんね。
それにしても、流石はお父様が引き抜こうとした方。
この状況を見て、何かあると思い、指示を出したわ。
「では、こちらへ」
私達がついていくと、庭でシグルド様とエリスさんがお話をしていた。
とても、楽しそう……やはり噂は本当なのかしら?
初恋相手がエリスさんというのは……あんなに綺麗ですものね……。
いけない!今から告白するのに弱気では!
「ん?カロンか。どうした?……そこにいるのは?ははーん、さては彼女でも紹介しにきたか?こりゃエリカがいなくて良かったな」
「シグルド、貴方王子に向かって……はぁ、言っても無駄ね」
「シグルドさん、エリスさん、突然の訪問申し訳ない。実は、この女性がシグルドに用があるので連れてきたのです」
「ん?俺に用なのか?……どこかで見た覚えがあるな」
私は覚悟を決める。
「シグルド様、お久しぶりでございます。以前お会いした、サユリーティルフォング言います。覚えていらっしゃいますか?」
「サユリ……?その緑の髪と目……ああ!あのガキンチョか!髪の色と目の色ことで、泣いていたな。はぁー、大きくなったな。で、なんだ?」
「シグルド様、貴方が好きです!私と、お付き合いをしてください!」
私は言えた!と思い、シグルド様を見た。
すると、シグルド様は固まっていた。
「は?俺を好き?お前が?……まあ、待て。落ち着け、俺。えーと、どういう事だ?つまり、俺が好きで付き合いたいと……」
シグルド様は動揺している?
「そ、そうか。なるほど、そうくるか。……あー、俺用事思い出したから、またな!」
そう言うと、シグルド様は走り去ってしまった。
え?どういうこと?
「はぁ、サユリさん」
「はい、なんでしょう?」
「シグルドは、意外と耐性ないのよ。夜のお姉さん方にはモテるけど、そういう真っ直ぐな感じで来られたことはないと思うわ。だから、しばらく待ってあげてね。そのまま放置ということはないと、義姉として約束します」
なんということでしょう……。
これは、予想していませんでした……。
「ははは!シグルドのあんな顔、初めて見たよ!……はぁ、良いもの見れた。サユリさん、とりあえず帰ろうか」
「え、はい、そうですね。皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした。では、失礼します」
私は馬車に乗り、考えていた。
えーと、つまりどういうことなのかしら?
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