第62話シノブはお姫様?

俺は情報の多さに戸惑いつつも、なんとか言葉を発することが出来た。


「い、今なんと?王子?シノブの婚約者?シノブは姫?……もう、何が何だか……」


「ええ、そうでしょうね。とりあえずは、場所を変えましょう」


俺達は衝撃に包まれながらも、大人しくついて行く。


そして、一際立派な茅葺屋根の家に、たどり着いた。


「ここが、長の家です。行きましょう」


「お、お邪魔します」


いきなり、長の家?

姫……まさか、そういうことか?


そして渡り廊下を進んでいくと、門番?らしき人がいて、その横にふすまがある。


「これは、ゴラン殿。いらっしゃいませ。貴方が、人族の案内役とは……」


「ああ、ご無沙汰ですな。長に会いたいのだが、良いだろうか?」


「ええ、もちろんでございます。今その話で、もちきりですから」


「だろうな。シノブ殿が、惚れ込んだ男が来るのだからな」


「ええ、そうです。まあ、とりあえずどうぞ」


襖が、開けられる。

和室の大部屋のようだ。

そこには、黒装束の人達が沢山いる。

そして、何やら口論をしているようだ。


「どうする!?もう来るぞ!?」


「どうするもあるか!?姫をかどわかした人族だ!滅殺だ!」


「だが、姫様が自分より強いという人族だぞ!?勝てる奴はいるのか!?」


「いや、ここは我等の本拠地だ。長なら勝てる筈だ!」


あー……なんか、すごい事になっている。

滅殺に、拐かすって……物騒なことだ。

まあ、今の俺なら、叔父上クラス以外なら負ける気はしないが。


「静粛に!!お客様がいらっしゃいましたよ」


大部屋の奥の、一段高いところに座っている、着物の女性が言い放った。


俺達は、中央へ歩いて行く。


「どうも、ヤヨイ殿。お久しぶりです」


「ええ。ゴラン殿も、元気そうで何より」


そしてその女性は、俺達を鋭い目つきで見てくる。


「で、私の娘が選んだ男は、どの殿方かえ?」


やっぱり、そうか……。

長の娘で、姫ってことか。

それに、この女性……シノブにそっくりだ。

もちろん、漂う色気は桁違いだが。

シノブも、将来こうなるのか。

いかんいかん、今はそれどころではない。


「お初目にかかります。デュラン国で恐れ多くも、伯爵の地位を承っている、ユウマ-ミストルと申します。シノブには、よく助けられています」


「ほう?そなたが、そうかえ?……強いのう。わらわでも、勝てるかどうか……」


「な!?長でも勝てないと!?」


「そんな馬鹿な!?人族だぞ!?」


「だが、さすがは若手最強と言われた、姫が選んだ男か……」


「ええい!静かにせんか!話が進まんわ!」


ヤヨイ殿がそう言うと、静かになった。

うーん、女性が強いのは本当のようだ。


「すみませんが、シノブからは何も聞いていないのです。なので、せつめ」


「ユウマ、お話中申しわけありませんが、よろしいですか?」


「おいおい、ホムラ。今大事なところだぞ?」


「ええ、だからこそです。……もう、シノブったら……これのことだったのね。これ、シノブからですわ」


ホムラは、俺に紙を渡してきた。


「ん?シノブから?申しわけありませんが、少々お時間をいただきたいのですが……」


「ええ、構いません。読んでくださる?」


俺は黙って頷き、中身を読む。


「団長は、今頃どこですかね?わたしの里には着きましたか?えへへ、実はわたしは里の時期長候補だったのですが、家出をした娘なんです。婚約者がいたんですけど、なんかピンとこなくて。良い人なんですけどね。でも、無理矢理進めようとするので、里から飛び出したんです。今まで、黙っていてすみません。団長は、ただでさえ色々抱え込んでいたので、言えなかったんです。でも、今の団長なら大丈夫だと思います。とゆう訳で、喧嘩を売られたら、薙ぎ払っちゃえ!!以上、貴方の愛してやまないシノブより……テヘ、団長頑張って!」


なんじゃこりゃゃゃ!!!

この軽い文章は!?

いや、まあ、あいつらしいけど!!

色々と大事な部分が、欠けすぎじゃね!?

何が大丈夫で、薙ぎ払うの?どゆこと?

テヘってなに?丸投げなの?


「はぁ、あの子らしい手紙なこと」


「あ、やはり昔からですか」


「ええ。奔放で、自由で、わがままな子。でも優しく、明るくて、みんなを笑顔にしてくれる子」


「……ええ、よくわかります。俺は、それに何度助けられたか」


「そなたは、シノブと契りを結びましたかえ?」


「いえ、まだです。シノブは気にしないと言うのですが、私個人としてはそうはいきません。きちんと、ご両親に挨拶をしてからが筋だと思いましたので」


「そう……良い心がけなこと。では、決闘と参りましょう。ゴラン殿、よろしいかえ?」


「ええ、願っても無い。私も、きちんとしないと先に進めませんから」


「うむ。では、外にでましょう。ユウマとやらも、いいかえ?」


「ええ、望むところです。シノブは俺の女です。誰であろうとも、渡すわけにはいきません」


「……我が娘ながら、良い男を捕まえたわ。では、皆の者。行きましょう」


俺達は家を出て、集落の中央広場に着いた.


そこには、大勢のヴァンパイア族が待っていた。


「さて、皆の者!ここにおるのは、シノブが選んだ男!今から、ゴラン殿と決闘をする!決して、邪魔をしてはならぬ!いいかえ!?」


ヴァンパイア族達は、黙って頷いている。

うーん、種族性が出ているな。

獣人族とかだったら、ウオオ!とか叫ぶところだ。


「では、双方距離を取り対峙せよ」


俺とゴラン殿は、言われた通りにする。


「まさか、ゴラン殿と戦うことになるとは……」


「騙したみたいで、申し訳ない。シノブ殿が見込んだ人を、この目で確かめたかったのです」


そうか……ゴラン殿は、シノブのことを……。


「いえ、気にしないでください。で、どうでした?」


「……悔しいですが、尊敬に値する人物かと。部下にも慕われ、自身もその強さに驕ることなく礼儀正しい、頭の回転も速い。認めるしかありません。あとは、実際に拳を交えるだけです」


「はは、それなら良かったです。じゃあ、始めますか」


ちなみに、俺は武器を使わない。

ミストルティンは斬れ味が良すぎて、加減が出来ない。

それに、今回は勝つことが目的ではない。

あくまでも、俺がどのような人物かを、闘いを通して知ることだろう。


「ええ。ですが、肉弾戦ではすぐに終わってしまいそうですね?」


まあ、普通に考えたらそうだよな。

亜人最強と言われる、鬼人族と素手で戦うとか。

どんな無茶振りだよ!?って話だ。


「おや?あんまり舐めてもらっては困ります。まあ、見てて下さい」


俺の魔闘気は実戦を得て、ほぼ完成したと言っていいだろう。

今なら、魔力の移動もスムーズに行えるはず!

俺は静かに膨大な魔力を溜め、それを身体から解き放つ!


「ウラァァ!!」


「な、なんと……魔力を纏うだと?しかも、可視化かしか出来るほどの膨大な魔力……まるで、ヴァンパイア族の真祖化のようだ」


「さあ、これでどうです?勝負になりませんか?」


「ククク、ハハハ!!いいでしょう!では、手加減はしませんよ?」


「ええ、手加減したらミストルティンでぶった斬りますから」


さて、威勢良く言ったものの、剣なしの肉弾戦でどこまでやれるかね?

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