第63話決闘

ヤヨイ殿が、俺達に声をかける。


「では、双方準備はいいかえ?」


「ええ、いつでも」


「右に同じく」


「……では、始めい!!」


俺は受けに回らず、攻めることにする。

合図と同時に駆け出し、顔面に向かって魔力を込めた拳を繰り出す!


ドゴン!という音と共に、ゴラン殿が吹き飛んだ。

え!?何故防御しない!?

俺は、一度下がり様子を見る。


すると、ゴラン殿が立ち上がる。

口の端から血が出ている。


「一体どうゆうつもりですか?」


「いや、一度拳を受けてみたくてね。そうすれば、大体はわかる。貴方がシノブ殿を愛しているかとか、どれほどの修羅場を潜り抜けてきたかとか、鍛錬を積んできたことなどがね」


いや、結構本気で殴ったんだが?

大したダメージは、なさそうだな……。


「……なるほど、そういう意図があったのですか。で、どうでした?」


「気持ちの込もった良い拳でした。何より威力、速さ共に申し分ない。これなら、私も本気を出しても死にはしないでしょう」


「はは、鬼人族の本気ですか。……それは、楽しみだ」


「ハハ!私の本気が楽しみとは!同族からも言われたことありませんね。では……行きますよ?」


ゴラン殿が駆け出す!

速い!シノブ並みかも知れん!


俺は避けに徹すれば、正直勝てないまでも、負けることはないと思っている。

だが、それでは意味がない。

ここは、正面から迎え撃つ!

これは、そうゆう闘いだ!


ゴラン殿が正面から、右の拳を繰り出す!

俺は魔力を、腕に集中!

拳を、左肘の上あたりで受け止める!


ゴラン殿は受け止められるとは思わなかったのか、驚いた表情。

俺は空いている右の拳で、ゴラン殿の腹を殴りつける!


「グハァ!!」


ゴラン殿が、後ろに下がる。

やるな……咄嗟に一歩下がり、ダメージを軽減したな。


「ふぅ、良い拳だ。しかも、受け止められるとは思わなかったよ。手加減なしなんだがね」


「そちらこそ。軽減したので、大したダメージではないでしょう?」


「まあな、では殴り合おうか!」


俺らは、近距離で拳を交える!

あっちが威力のある一撃を放てば、俺は素早く2回連打する!

俺は拳を食らう箇所に魔力を動かし、ダメージを軽減する。

だが、それでも身体のあちこちに、激痛が走る!

おそらく、魔力行使によるものだろう。

血が沸いているかのように、熱い!


俺らは、一度距離を取る。


「はぁ、はぁ、強い……!」


「ゼェ、ゼェ、こちらの台詞だ……!」


「では次で、終わりにしますかね」


「いいだろう。では、正真正銘の本気で行くぞ!」


ゴラン殿が再び、駆け出す!

そして、拳を大きく振りかぶり、打ち下ろしてくる!

受け止められるなら、やってみろ!って感じだ。


「ハァァ!!」


俺は残りの魔力を両手足に送り、腕を交差し、防御の構えをとる。

そして、ゴラン殿の拳を受け止める!


腕に、衝撃がはしる!!

腕が、メキメキと嫌な音を立てている。

だが、引かない!

ここで、引いたら男として負けだ!!



そして、なんとか耐えきった。

直接、受け止めた右腕は折れたな……。

さて、どうする?


「……まさか、受け止めるとは思わなんだ。今のは、オヤジ殿以外には受け止めきれない威力がある。それを、人族が……我等も人族を侮っていたようだな」


「はは、今のは受け止めないといけないと思いまして。でないと、ゴラン殿も未練を断ち切れないでしょう?」


「お気付きでしたか。ええ、私はシノブ殿を好いていました。あちらがなんとも思っていないのは、知っていましたがね。でも、私は嬉しかった」


「……俺から言えるのは、1つだけです。必ず、大切にします」


「ええ、お願いします。そして、ありがとうございます。これで、ようやく先に進めそうです」


すると、ヤヨイ殿が声を発する。


「うむ!双方見事であった!ゴラン殿が認めたのだ。妾達がいうことはない。ユウマ殿、あの馬鹿娘のことよろしく頼みも申す」


「ええ、お任せ下さい。そして、いつか二人でここに来ますね」


「うむ、楽しみにしておる」


ふぅ、どうやら認めてもらえたようだ。


「しかし、そなたの腕は大丈夫かえ?」


「ええ、ご心配なく。今治します」


俺は痛みに堪えながら、左手を右手に添える。


「ツゥ!……かの者の傷を癒したまえ、ヒーリング」


俺の、折れた箇所が治っていく。


「なんと!?そなたはヒーラーなのかえ!?その強さで!?」


「え?ああ、そうです。ソードマスターでプリーストのユウマです。冒険者ランクは3級です」


「……ククク、愉快愉快。シノブの奴、とんでもない男を捕まえたの。よし、では改めて歓迎しよう!ようこそ!ヴァンパイアの集落へ!」


パチパチパチパチと拍手が起きる。

ほかの人たちも、とりあえずは認めてくれたようだな。


仲間達が駆け寄ってくる。


皆が、俺の心配をしてくれているようだ。


そしてその輪を外れ、なにやら神妙な顔をしている奴がいる。


俺は、そいつに近づいていく。


「おい、どうした?ゼノス」


「うお!?びっくりした!な、なんだ?」


「いや、なんだはこっちの台詞だ。なんか神妙な顔をしていたが?」


「……まあな。ユウマ殿は、出会った時はまだ俺と互角だったが、今では勝てないと思ってな」


「そうか?ゼノスの本気は見たことないからな」


そもそも、よく考えたらゼノスのことほとんど知らないな。

なんというか、懐に入るのが上手いから、ずっと前から知っている気がするけど。

何度か依頼も受けたが、深い話はしたことがない。

うーん、良い機会だ。

今日あたりに、聞いてみるか。


「俺の本気か……まあ、そんな日がこないことを祈るさ。俺が本気を出すと、止まらなくなるからな」


「おいおい、どこの叔父上だよ。そういうのは、シグルド叔父上で十分だ」


「ああ、あれもな。実際に見たが……勝てるイメージがまったく湧かなかったのは、生まれて初めてだった……」


「まあ、あれは人外だからな。仕方ない。だが、いずれは越さなくてはいけない」


「なに!?あれを、超えるつもりか?」


「ああ。それが、叔父上の望みだからな。聞いたことないが、そんな気がする。それに、師匠を超えるのが、弟子の役目だろ?」


「……ククク、ハハハ!参った!器が大きい!よし、今日は女はなしで飲むか?」


「お、良いね。俺も、そう言おうと思っていたんだ」


「よし!決まりだ!じゃあ、後でな」


こうして、無事にいろいろなことが片付いたようだ。


てゆうか、シノブめ、帰ったら覚えてろよ!


まったく、酷い目に遭った……。


さて、何か忘れている気がする……なんだ?


すると、誰かがこちらにやってくる。


「俺の可愛いシノブを拐かしたのは、何処のどいつだ!?出てこい!俺が相手だ!」


ん?誰だ?また、シノブか?モテモテだな、あいつ。


「あー、俺です。何か問題が?」


「貴様か!?おのれ!切り捨ててくれ、グェ!」


あ、痛そう。

今、背中蹴られて、顔からいったぞ。


「馬鹿たれ!もう、その話は終わった!妾が認めたから、アンタの出る幕はないよ!」


「そ、そんな!?ヤヨイちゃん、そりゃないよー。俺の娘でもあるんだよ?」


あ、それだ。

父親の存在を忘れていた。

母親の印象が強すぎる。

いかんいかん、とりあえず挨拶をせねば。


「どうも、初めまして。シノブと正式に付き合いをしようと思っている、ユウマと申します」


「ぐ!このイケメンめ!その顔で、シノブを、グハッ!」


あ、また蹴られた。

あ、そして動かなくなった……大丈夫か、これ?


「あのー……これ、生きてます?」


「ええ、問題ありません。では、行きましょう」


ヤヨイ殿は、夫を放置して歩き出す。

仕方ないので、ついていく。


「では、ユウマ殿。同盟の件は賛成です。シノブが認めた貴方がいるなら、問題ありません」


「ありがとうございます。では、今後ともよろしくお願いします」


「ええ。孫を楽しみにして、待つことにします」


「ハハハ、まあ気長にお待ちください」


こうして、色々あったが、無事に解決した。


後は、グラント王に会うだけだ。


何事もなく……いく訳ないか。


まあ、やるしかないな。

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