第182話 ミルランディア そして・・・

その後ミルランディア公国は正式に西部連合に加盟しました。ヘンネルベリ王国の影響力は以前に比べ低下し、加盟する各国は公国との関係を結ぼうとしてきます。ウチにはさばききれないほどの食糧がありますからね。ウチだけでヘンネルベリの食糧を賄ってなお余るだけの供給力がある訳です。食糧の安定を図るためにもウチと友好関係を築きたいという気持ちは分かります。公国としても繋がりが強固になることはいいことですから、積極的に友好関係を築いています。




「ミーア、あれでよかったのか。あそこはお前の国ではないのか」

「仕方ありませんよ。あの国王を止めなければ世界はまた混乱の渦に巻き込まれます。止められるのが私なら、私がやるしかないじゃないですか。それにヘンネルベリはもう私の知っている国ではありませんから」

「でも辛かったんじゃないの」

「辛くないと言ったらウソになりますね。思い出はたくさんありますから。でもこの命を貰った時に、これも私がやらなければならないことだと思ってましたから。本当になるとは思いたくありませんでしたけど」


龍神ドラーガ様と精霊神エリー様に呼ばれてお話し中です。この間のヘンネルベリとの戦争についてですけど。


「スティルガノ様がミーアのことを大変気に掛けていらっしゃる。一度話をしてみたいとおっしゃるぐらいだ」

「スティルガノ様って私の事を殺そうとした大神様ですよね。それがまたどうして」

「あの後ずっとお前のことを見ていたそうだ。ミーアのやる事、ミーアの苦しみ、全てをな。ミーアの事を見ているうちに気になったのだそうだ」

「へー、あのスティルガノ様がねぇ。どういった心境の変化何でしょうね」

「話をしてみてはどうだ。またとない機会だぞ」

「そうですね。これからの私の為にもいい機会だと思います」

「なら急げだ。早速行こうではないか」

「急すぎますよ。どこへ行くのですか」

「世界樹の所だ。スティルガノ様は世界樹の所にいらっしゃる」

「私行ったことがないですけど」

「大丈夫じゃ。私に乗ればすぐに着く」

「それじゃ行きましょ」


「大神様、スティルガノ様、ミルランディアを連れてきました」

「ご苦労。其方がミルランディアか。急に呼び出したりして悪かったのう」

「いえ。初めまして、ミルランディア・ヘンネルベリです。よろしくお願いします」

「其方が教会で私に祈りを捧げておるのは知っておる。数百年にわたって毎日ずっと祈りを捧げているのをな」

「きょ、恐縮です。大神様の事を龍神様から聞いた時、この世界を支えている神様がスティルガノ様であり、祈りを捧げる神様はスティルガノ様をおいて他にはないと思ったからです。女神サファールについても聞きましたから。でも女神サファールの事を広めても世界が混乱するだけです。教会と対立はしたくありませんでしたし、無用な混乱を引き起こすぐらいなら私だけでもお祈りができたらと思ったものですから」

「ドラーガがそこまで入れ込む娘だな。だが私が其方を消そうとしたことも知ったのだろう。それで尚私を信じたのか」

「確かに消そうとしたのでしょうけど、それって私のせいじゃないですよね。精霊たちの気持ちとエルフィの気持ちですよね。私自身がこの世の理に反する存在であって、それが元で目を付けられたのであれば違う結果だったかもしれません。ただ私の預かり知る所でない所のものですから、これはむしろ私に与えられた試練だと思ったのです。試練を課した大神様を恨むことなどありえません」

「なるほどな。精霊が好むわけだな。然るにミルランディアよ、其方はその命をどうするつもりなのだ」

「正直分かりません。2万年とも5万年とも言われています。ここまでの500年でいろいろなことがありました。最近では祖国とも戦うことになりました。これからもこういったことは起こり続けるでしょう。後悔はしないと割り切ってはいますがそれもいつまで続くか分かりません。見えない先を考えるのは辛いですね。今思えば、人間の寿命80年というのは一生懸命走り切るには丁度いい時間なのかもしれません」

「なら、私の所に来てみてはどうか」

「大神様の所ですか?」

「スティルガノ様、それは……」

「私の世界に来てみてはどうかと言うことだ。丁度席が一つ空いているみたいだしな」

「仰っている意味がよく分からないのですが」

「ミルランディアよ、神の一柱としてこの世界を導いてはどうか」

「私が神ですか?恐れ多くてそんな……」

「一つ空いているではないか。其方ら人間が作った女神サファールと言う席が。そこに就くがよい」

「まだ公国の仕事もあるのですが」

「それについては問題あるまい。神と言ってもやることなどほとんどない。ドラーガやエリーを見ていれば分かるだろうに。間違ったことを正すように導くだけだ。好きなようにすればよい」

「私が神になったと知れば大騒ぎになるのではありませんか。特にサフィル聖教国では」

「あそこの教皇には神託を下ろそう。其方らが作り出した女神サファールにミルランディアが就いたと。無用な混乱を避けるためにも過度な接触の禁止と秘匿を命ずるとな。聖教国はサファールの呪縛から解かれる訳だからな。実在しない神に祈りを捧げ続けなければならないという呪縛からな」

「私は信仰の対象になるような人じゃありませんけど」

「其方は今まで通り、信念に従ってこの世界の理に反するものを正せばよいのだ。教会の力を使いたいときに神託として教皇に話せばよい。教皇にはサファールの真の姿については秘匿させるので問題はあるまい」

「自信はないですけど」

「気に掛けることなどあるまい。20年か30年、長くても50年も過ぎれば人間の世界では昔の出来事だ。失敗などはあり得ないのだ。世界を導くことに正解などないのだからな」

「そうよミーアちゃん、誰も正しい未来なんて知らないの。世界を壊すことが正解かも知れないし、何も起こさせないことが正解かも知れない。放っておくことが正解なのかもしれないのよ。結果が正解なのよ。今のミーアの生き方と一緒、後悔しないが正解なの。ドラーガを見ればわかるでしょ。何もしていなくたって神の一柱なんだから」

「そう言うエリーだって何もしていないではないか」

「あら、そんなことないわよ。私は精霊界をしっかり見てますから」

「どうだ。別に悪い話ではなかろう」

「まだ判断しかねます。もう少し考えてからでもいいですか」

「構わんとも。500年でも1000年でも考えればよい」

「そこまでのものじゃないとは思うんですけどね」


スティルガノ様のお話は、神様にならないかと言う誘いでした。面喰いましたよ、ホントに。

でもどういった形でもいいから答えは出さなきゃいけないですよね。いろいろ重いですけど。



今までの事を思い返してみました。

冒険者として『金色の月光』で活動していたこと。そして辞めさせられたこと。

私が王女だったこと。国内の問題に首を突っ込んでいろいろやったこと。

外国を訪問して大立ち回りをしたこと。ってなんか暴れてばっかよね。

領地を貰って新しいことに取り組んだこと。エルフィやウィンと出会ったこと。

戦争もした。事故にもあった。悲しい出来事も沢山あった。でも嬉しいことや楽しい事はもっと沢山あった。

いくつもの大きな事件が起きた。でもみんなと力を合わせて乗り越えることができた。

ジョブは【毒使い】だったわね。私を毒から守ってくれた。戦うときも便利に使えた。人を助けることも出来た。

よかったんだろうな。もし私が【剣士】とかだったら、とっくの昔に死んじゃってたかもしれないしね。



私は幸せだったのかな。いろんなことがあったけど、幸せだって言えるかもね。

寿命が5万年ぐらいだとすると私が過ごした時間はまだ100分の1程度。人間の寿命に置き換えるとまだ1歳の誕生日を迎えたぐらい。これからまだ長い時間が待っている。いろんなことを体験してきたけど、これからどんなことが起こるのだろう。ちょっと期待しちゃう。

でもそれって幸せなのだろうか。幸せって何なんだろう。よく分かんないや。

とりあえず『後悔しない』、この生き方だけは曲げないようにしよう。今までもそうだったからね。

と言うことは私の幸せって思いっきりやって後悔しないって事なのかな。それが私の生き方ならそれもいいかもね。


『後悔しない』か。スティルガノ様のお誘い、どうしようか。受けたら後悔する?自分で決めたことなんだから後悔しなきゃいいだけよね。受けて楽しむ、出来たら最高よね。

受けなかったら後悔する?これは分からない。自分で決めたこととはいえ、道を閉ざしたのだから、後悔しないとは限らない。

なら受ければいいじゃん。後悔しないって決めたんだから道は多い方がいいに決まってる。先は長いんだから楽しめる要素はたくさんあった方がいい。そうすれば私もいろんなことができるし、それが私の幸せだから。


こんな機会は2度とこない。なら後悔しないためにもやることは一つ。私の幸せの為、楽しまなきゃ。



「スティルガノ様、私、サファールになります」




《完》




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