第178話 西部連合結成(後編)

西部連合が正式に結成されて半年、アズラートに各国の特使が集まってきました。私ですか?私が特使なんて引き受ける訳ないじゃないですか。外務局の中からそれなりの方が任命されたみたいです。

そういえば今まで外務局は殆ど仕事なんてしていませんでしたからねぇ。外国と言うと遠いし時間もかかります。今まではですけど。それにここ暫く戦争も起きていませんでしたから、和平や講和の交渉などもありませんでした。貿易も商務局が動くぐらいで、ほとんどが商業ギルドと国境の街が独自勝手にやってましたから。久しぶりの大型のお仕事ですね。でもこれからは大変ですよ。アズラートを舞台にして外交合戦が頻繁に行われるわけですから。

ラディアスはどうなったかって?内戦の真っただ中です。隠れていた反政府派が西部連合の支援を受けて蜂起して軍政府との戦いが始まったのです。始まった頃は優勢だったのですが、今は膠着状態が続いています。軍政府がトルディアの支援を受けたみたいなんです。あまり長引くと西部連合としても痛手なのですが、正面切って戦う訳にもいかないですからね。勝てない訳ではなさそうだし、現状負ける要因はあまりなさそうなので、後はタイミングですかね。しかしトルディアですか、厄介なものがまた出てきましたね。



**********



「ヘンネルベリからの提案がありましたので、協議に入りたいと思います」

西部連合の協議会、その協議の場に私たちは2つの提案を行いました。一つは西部連合軍の創設について、もう一つは人の交流についての協約について。

西部連合軍はガルシアのように他の国からの攻撃に対して迅速に対応できる部隊を予め作っておこうというものです。

「連合軍と言っても地上の部隊はそれぞれの国で何とかなるかも知れないが、航空隊、空の部隊だから空軍か、それと海軍、それらはどう足掻いたってヘンネルベリには太刀打ちできないぞ。全部やってくれるのか」

「流石に全部という訳にはいかないでしょう。今本国の方で調整を取っているところですが、希望があれば2編制40機程度の売却並びに訓練を引き受けられるようにしているところです。ただこれについても無償という訳にはいきません。かなりの額になるかと思いますが、出来るだけ抑えるということで本国で運用している機体の廉価版を開発しています。更に即応部隊として連合軍にヘンネルベリの航空隊から4編制程度供出するということも検討しています。海軍については各国の港に連合軍としてヘンネルベリの海軍を派遣するので、それを受け入れて頂くと言うので如何だろうか」

「ヘンネルベリがそういうのであれば構わないが、それでは負担が大き過ぎはしないか」

「相応のものは頂くので構わない。それに軍艦を揃えると言っても帆船ではしょうがあるまい」

「あの鉄の軍艦は売ってはくれないのか」

「本国の判断次第だが、飛行隊どころの騒ぎではないほどの費用が掛かると思われる。恐らくは難しいのではないかと」

「だがそれではヘンネルベリの力が強くなりすぎるのでは」

「現場の指揮は難しいかもしれないが司令部を各国の軍人で構成すれば、ウチが独自で動くことも無くなると思うが。海軍であれば副官として乗船することもできるだろう。まぁ信用してくれとしか言えないのだがな」

「結論を急ぐことではなかろう。連合軍の創設自体は同意しているのだから、細かいところは実務者で詰めて行こうではないか」

「そうだな。差し当たってのガルシアも今は動きがないみたいだからな。地上軍を含めて連合軍の運用については、連合軍司令部を作ってからでもよかろう」


「もう一つ提案が上がってますので、それについて引き続き協議をしていきたいと思います。人の交流についての協約、ヘンネルベリさん説明をお願いします」

「初めに皆さんが集まった時の飛行機、軍用機ではなく人が移動する時に使われるものですが、この飛行機の運用を国同士の間にも広げるということで各国で発着場の整備が進められていると思います。整備が終わりつつあるところもあり、そう遠くないうちに始まると思います。そうすると人の移動、交流が活発になってきます」

「そうだな。我々もそれを期待しているところもあるからな」

「その際、その人の身元について証明する必要があるかと思います。連合国とは言え外国ですから。その証明書について意見を聞きたい」

「今まではそんなもの無くても交流を行ってたではないか。今更そんなものが必要なのだろうか」

「確かに今まではありませんでした。でもそれは移動の手段が限られてたからであって、一部の冒険者又は商人ぐらいでした。でもこれからは変わってきます。一般の人が観光で出かけることもあるのです。しかも国境を接していない国にでも。商売の仕方も変わってくるでしょう。交流が活発になればトラブルも多くなります。その時にどこの誰と言うことは大切なことです」

「それについてはなんとなくだが理解した。だが冒険者はどうする。奴らの活動は平気で国を跨ぐぞ」

「冒険者としての活動は今まで通りでいいでしょう。ベースがどこであっても、どう移っても構いません。ただその人の国としての証明については必要ではないかと。冒険者を除くとなれば抜け道だらけになりますので。冒険者については、まぁ冒険者だけではありませんが生まれた国を登録国とすればいいのではないでしょうか」

「そうなると我々も必要と言うことになりますね」

「そうなりますね。一般用、我々のような外交を行う者用、王族や皇族などの特別な人用ぐらいでいいのではないでしょうか」

「細かいところは別途詰めればいいか。何か意見のある者はいるか」

「「「…………」」」

「特に無いようだな」

「これについては一応の了承を得たということで。交流についてのもう一つの提言、奴隷制度についてです。この奴隷制度を連合国に参加する各国に於いて廃止をお願いしたい」

「「「奴隷制度の廃止だと……」」」

「ここにいる皆さんの多くの国で奴隷制度があると思います。もちろんヘンネルベリにもあります。犯罪奴隷や借金奴隷などがありますが、もう一つ違法奴隷と言うのも存在します。もちろん違法ですからあってはならないのですが、何らかの理由を付けて売り買いされているのは確かです。つまり違法奴隷は人身売買の温床となっているのです。無実の罪を着せられて、いわれのない借金を負わされて外国で売り買いされれる人があってはならないのです。そのためには隠れ蓑となりうる犯罪奴隷や借金奴隷を含めて奴隷制度自体を撤廃する必要があるのです」

「犯罪を犯したものはどうすればいいのだ」

「犯罪の種類にもよると思います。軽微な犯罪、例えば物や金をを盗んだ、壊した、他人を騙した、怪我を負わせた、程度にもよりますが罰金や短期あるいは期限の付いた強制労働を科して償わせます。繰り返し行った場合には強い措置になりますが。それ以上のもの、襲って金品を奪う、他人を殺す、人を攫う、火を放つなど凶悪な犯罪を行ったものについては終身又は無期限の強制労働を科す、または死を以って償ってもらいます。借金奴隷については借金を返せばいいだけですからその制度を作ればいいのです。むしろ返せないほどの借金を無理やり負わせ、それをネタにゆすり、労働に対して適切な報酬を払わない者こそ取り締まりの対象とすべきなのです」

「言っていることは分かる。実際ヘンネルベリではどうなのだ」

「王都を始め多くの貴族領で奴隷制度は廃止されています。一部の貴族領ではまだ残ってはいますが、王国令も出ているのでなくなるでしょう。今残っているところも奴隷商と懇意にしている貴族ですから。奴隷商の反発も大きかったですけど、分からせましたよ」

「どうしても奴隷制度を撤廃しなければならないのか」

「奴隷制度が悪いというか、人身売買が悪いのです。人間の売り買いを伴わない奴隷制度であれば構いませんよ」

「人身売買か。確かに問題ではあったな」

「攫った人を外国に連れて行って、証明書を奪って身柄を売る。そんな犯罪が起きる前に対処しなければならない問題です」

「それぞれの国で協議することが多いだろう。ひとまず持ち帰って1か月後再びこの件について協議することとしよう」



紆余曲折があったものの、3か月後、人身売買禁止の協約が連合国間で締結されました。

一部奴隷制度を残すところもあるようですけど、奴隷の所有について厳しい制約が課せられるようなので、制度自体は残っても奴隷がいなくなるかもしれません。

隠れてコソコソとやる不届きものはいるのでしょうけど。見つかったら投獄ですから。




**********


えー、今回はミーアの活躍は全くありませんでした。出ても来ませんでしたからね。方針についてはミーアと陛下の意向がふんだんに盛り込まれていたのですけど。

次は多分ミーアの活躍があるんじゃないかな。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る