第177話 西部連合結成(前編)

ガルシアの首脳との協議で、ガルシアとしてはラディアスを降伏させたいとのことでした。ただそうなると戦闘は避けられませんよね。ヘンネルベリとしてはガルシアの防衛に力を貸すことに問題はないとの考えですが、ガルシアの侵攻作戦にヘンネルベリが共闘することは出来ないと伝えたところ、渋い顔をされました。

「なら、ヘンネルベリはガルシアがやられているのを放っておくというのですか」

「そうではありませんよ。実際私たちはあなた方の要請に応じてこうやって防衛の任に当たっています。ガルシアが討って出るということにヘンネルベリとしては協力をいたしかねると、そう言っているのです。別にガルシアが討って出ることを否定することではありません」

「だがそれではわが軍の損耗が大きすぎる。せめてラディアスの飛行機だけでも対処してはもらえないだろうか。金なら出す」

「ヘンネルベリに傭兵になれとでも仰るのですか。ヘンネルベリはこの地の平和と安定を望んでいるのですよ。それにラディアスを降伏させた後はどうするおつもりなんですか」

「当然支配地域とするが」

「ラディアスに侵略された国々もですか。国の中枢が破壊され戦禍で荒れ果てた国土をどうやって統治するのです。彼らからすれば支配者が変わるだけ、ラディアスに向けられていた怒りの矛先がガルシアに向くだけですよ」

「ヘンネルベリはどうするつもりなんだ」

「ヘンネルベリとして動くことはないでしょう。共栄圏の総意としてラディアスの軍事政権を終わらせる。そのために共栄圏の連合軍としてラディアスに対して圧力をかける。そんなところですね」

「それではうちはやられ損ではないか」

「被害を被ったということは事実ですが、復興に関しては共栄圏全体で支援いたしますし、他の国々に対しては西部諸国の共栄圏の力を知らしめることができ干渉を受けることも少なくなるでしょう。いち早く復興したガルシアは周辺の国々の復興を支援することでガルシア優位の安定と地位が確保できる。ガルシアを中心とした共栄圏を作っていただいても結構ですよ。ヘンネルベリを中心とした西部共栄圏、ガルシアを中心とした共栄圏、その他の国を中心とした共栄圏、それぞれが連携をして地域の安定が図られる。ガルシアがその一つになれる可能性があるのですから悪い話ではないと思いますが」

「我々はどうすればいいというのだ」

「まずは守りを固めることですね。当面の脅威であるラディアスに対して東部の守りの強化、後はこの都の守りもですね。都と東部にヘンネルベリの航空部隊を2部隊ずつ配置します。あと情報の伝達はどうなっていますか」

「地方とこことの情報の伝達は早馬ですね。ヘンネルベリで購入した魔道具はここでしか使われていません」

「であれば通信の魔道具を300用意しましょう。流石に無償という訳にはいきませんが」

「そんなには……」

「情報の伝達の速さが明暗を分けるカギになるんですよ。魔道具を使えば距離の制約はなくなります。敵襲があったとしてもそれがすぐにここに伝わり、そしてすぐに軍が動ける。敵からの攻撃と言ってもそれなりに守りを固めていれば数日は堪えることもできるでしょう。その間に航空隊が敵の侵攻を止め、陸上部隊が到着し次第撤退に追い込む。これを早馬でやっていたら間に合いません。情報を征するものが勝てるのですよ」

「航空隊は協力していただけるのですか」

「ガルシアの防衛のためですからね。特に問題はありません」

「であればそうしよう。他にやるべきことはないか」

「あとは共栄圏としてどのようにするかと言う事ですが、これについては既にヘンネルベリの国王陛下が調整を始めています。近いうちに会合があると思いますので、お願いしたいです」

「うむ」


魔道具の配備、地上部隊の展開、航空隊の配置も順調に進み、防衛態勢は整いました。その間にも散発的に攻撃はありましたが、流石は我がヘンネルベリが誇る新型飛行機です。ラディアスの飛行機が国境を超える前に追い返し続けています。

そんなことが続いているので、次第にラディアスからの侵攻も収まってきました。



**********



「……と言うことで、我々共栄圏の安寧の為、ラディアスに対して圧力を加えて行こうと思う」

「それは軍事的にという事ですか」

「初めはそのようになるが、基本的には話し合いで進めたいと思う」

「ラディアスは軍政と聞くが、話し合いなどできるのでしょうか」

「難しそうであれば臨時政府を立ち上げてもらい、そこと交渉をする。臨時政府が実権を取れるように我々が支援を行う」

「支援と言っても、私の国から派兵を行うのはむずかしいです」

「そうだな。私の所も外国に派兵できるほどの余裕はないな」

「無理にとは言いません。出来る範囲での協力をお願いしたいのです。あとこれが共栄圏全体の総意であるということを確認したいのです」

「共栄圏の連合軍、と言う事ですか」

「そうです。特定の国が取った行動ではなく、国家の集まりが一致して行動を示すということを他の国に対しても見せるのです。トルディアのように勢力を広げることを国是としていることろもあります、今は大人しいようですけど。そういった大国に対しても我々は存在感を以って対峙する。そのためにも私たち14か国が一つになって動くことが大事なのです」

「分かった。ヘンネルベリの提案に賛成しよう」

「ところで、こういった会合の度に呼び出されるのは迷惑でもあるのだが」

「承知しています。今回は何分初めてで緊急性の高いことであったものですからこのような形を取らせていただきましたが、各国の特使を派遣し合っていつでも協議できる場を作りたいと思っているところです」

「ヘンネルベリで用意してくれるのか」

「確かに共栄圏の中心はヘンネルベリです。経済面においても軍事面においても技術面においてもです。そこで皆さんに提案なのですが、協議の場までヘンネルベリに置いたとすると不安を持つところもあると思うのです。そこで協議の場についてはヘンネルベリ以外の国に設置していただきたいと思うのです」

「そうだな。何もかもヘンネルベリでは我々の発言力も乏しくなるしな」

「そうは言ってもウチに誘致するのは難しいな」

「であればアズラートさんの所でお願いできないでしょうか」

「ウチですか。って言うか皆さんウチでいいんですか。ウチは皆さんもご存知の通りヘンネルベリとのつながりの深い国です」

「だがアズラートも一つの国であろう。ヘンネルベリの属国でないし国の政治体制も全く異なる。影響と言う事では我々共栄圏に参加したメンバーとて同じ事。アズラートさんで引き受けてくれるのであれば賛成するぞ」

「協議の場ができた折には、議長となる国を順送りで決めたいと思う。どこか一つの国が議長国を続けるというのであればバランスが崩れかねないのでな」

「それについては異論はない。我々14か国は対等であるということであるからな。提案はどこがしてもかまわないのだろう」

「それはもちろん。緊急性の高い低いにかかわらず。この地域のためであれば構いませんよ」

「であればここで1つ提案がある。この集まりはヘンネルベリの技術力を中心に集まった国々だ。共栄圏と言う言葉自体ヘンネルベリと共に栄えるという事であるが、それでは我々13カ国はヘンネルベリ傘下と言うことになり先ほどの台頭と言うのと異なる。であるから私はこの集まりを西部連合としたい。如何であろうか」

「いいんじゃないですか。ヘンネルベリとその仲間たちと言うよりは、その方が我々にとっても聞こえがいい。ヘンネルベリさんの発言力が大きいのは致し方ないが、我々とて国を背負ってきているのだ。私のところはその提案に乗るぞ」

「ヘンネルベリとしてもその提案には賛成だ。確かに共栄圏と言う構想では我がヘンネルベリの発展のためには周辺諸国の発展が欠かせないものであり、我々の発展のために周辺の国々に我々の技術を広げて行こうという意図があった。だがそれでは主と従と言う関係が構築され、いずれ頭打ちになる。主従ではなく対等に意見し合う関係が望ましいことは明らかだ」

「ほう、ヘンネルベリさんが賛成するとは思わなかったな。差し当たってはお宅は富を出す側、我々は受ける側と言う構図は変わるまい。その状況で自身の発言力を下げるとは何を考えているんだ」

「確かにそう思われるだろうな。軍事面では抜きに出てるものがあるし、農作物の生産、魔道具の普及など優位な面があることは確かだ。だからなのだよ。我々とてこの地域の一員。この地に他の追随を許さない強国があったとして周囲は安心できるのか。周辺国の不興を買うぐらいであれば歩を合わせた方が我々の利にに繋がる。ヘンネルベリが発言力を落とすのではない。其方らに上がってもらう。それだけのことだ」

「食えん奴だが間違っちゃいないな」

「ウチ等にも利があることだ。ヘンネルベリがいいというのであれば決まりでいいんじゃないか」

「決まりだな。細かい調整は後日、アズラートに連合の施設ができてからでいいか」

「ガルシアの件はガルシアとヘンネルベリで纏めてくれて、内容だけでも知らせてくれ。あまり悠長にしている暇もなさそうだからな。ヘンネルベリも無茶なことはしなさそうだからな。内容については後日代表団で話し合おう」

「ではこれで緊急の会合を終わるとしよう」

もちろんこの後豪勢な食事会が開かれたのは言うまでもありません。

そんなに急に集められたのはどうしてかって?そりゃね、皆さんを迎えに行ったみたいですよ、10人乗りの飛行機を使ってね。もちろん帰りもです。


ラディアスですか?大人しくしてますよ。何か企んでいるのかもしれませんけどね。



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