第174話 ヘンネルベリ共栄圏

『アンタまた随分ブっ飛んだもの作ったわね』

『何のこと?』

『汽車よ』

『あ、あれね。ナビちゃんのおかげでできたわ。ありがとね』

『飛行機の時もそうだったけど、今回のも以前のとは全くの別物ね。性能から何から何まで違い過ぎる。同じ汽車って呼んじゃいけないぐらいにね。船の魔導エンジンの時もそうだったんだけど、どうするとあんなになるの?』

『んー、創造術かな。こうしたいとかああしたいとか思うと、どうすればいいかが閃くのよね。でも飛行機は別にして他のはナビちゃんが教えてくれたのが元になってるのよ』

『魔導エンジンの仕組みは異界の機械にあったものだけど、ちょっと見せただけよね。それがあんなになる訳』

『なったんだからいいじゃない。同じように作ったつもりだったけど汽車も昔のとは違うんだ』

『昔のは回転の魔道具で直接動かしてたからね。魔導エンジンに比べて力が弱いのよ。だからあまり重いものも運べなかったし、スピードも遅かったわ。ミーアの場合魔導エンジンが反則的なんだけどね』

スラ研スライム研究所の成果があったからね。確かにあれは便利よ。大きいのから小さいのまで何にだって使えるからね』

『他では作ってないみたいだけど』

『あれだけ作ったってしょうがないから。それに魔石の調達だって難しいし』



**********



鉱山に汽車を走らせる工事が始まりました。始まったって言ってももちろん全部私がやる訳じゃありませんよ。最初はやり方を教えるために一緒にやりましたけど、途中からは完全に任せちゃいました。多少時間がかかっても、多少お金が余計にかかっても、結果的にそっちの方がいいことを分かってくれたようです。安全第一と正確さの徹底は厳命しておいたからね。あとでミスが分かったらどうなるかって少し脅しもかけておいたし。


次は鉱山の入り口から港までの汽車ね。ここは最初に考えていたやつで作りましょう。こっちは造船の工房で作ってもらいます。船は1隻造るのに時間はかかるけど、数があまり出るものでもないからね。バイクとクルマの工房?バカ言っちゃいけませんよ、あそこはフル稼働中です。


これが出来れば鉱山での採掘は捗るわね。そして汽車を国中に走らせて、それだけじゃない、外国とも繋げられれば大きく変わるわよ。そしたらもっとほかの国とも交易が出来るかな。



**********



「陛下、王都の郊外に建設している飛行機の発着場がもうじき完成するようですけど」

「そうか。出来たらすぐに飛行機を運用してくれるのか?」

「すぐは無理ですね、試験とかがありますから」

「そうしたら運用の開始を2月後のこの日にしてはもらえないだろうか」

「構いませんけど、何故です?」

「近隣の国を招待して大々的に発表をするためだ。我が国の技術力を大々的にアピールできる絶好の機会だからな。今までは戦争による力の誇示でしかなかったが、これは違う。技術を平和利用するというヘンネルベリ王国の姿勢を見せる機会なのだ」

「アズラートにしてもサウ・スファルにしても武力は十分に見せましたからね。そういう意図なら構いませんよ」

「これを見せれば自分の所にも欲しくなるに違いない。その時はヘンネルベリ主導で進められる。発着場は向こうに造らせるとしても、指導や検査はウチでなければできない。飛行機の運用と管制はミーアの所でしかできない。それを許容できるのであればこの素晴らしい技術の恩恵を受けることが出来るのだ。他の国の連中だってみすみす見過ごすことなどできまいて」

「それはそうでしょうけど……。国内もまだ始まっていないのに、外国にまで手を広げるのですか?」

「攻めるときは一気に攻めるものだよ。戦争じゃないけど、これは戦いなんだよ」

「はぁ。でも『技術をよこせ』とか言われません?」

「言ってくるかもしれんが、言わせないようにするために先手を打つ。そのためにも国の代表を呼ぶのだよ」

「そこら辺はお任せしますよ。国内の選定もまだ終わってないんでしょ」

「ほぼの固まったがな。ニール、バオアクの近くとドルソール子爵の所、ドルア伯爵の所で調整している」

「北側に多いんですね」

「南側は街道の整備も進んでいるからな。それに対して北側は遅れている。経済的にも南側とはだいぶ様相が違う。クロラント、バオアク、ニール、フロンティーネ、みんな南側の街だ。国としては北側にテコ入れをしたいのだよ。飛行機が来るとなればそこを中心に新しい町づくりもできよう。北部の発展は王国の課題の一つだからな」

「お手伝いは出来ませんよ」



飛行機の運用の開始の日、各国の代表が集まりましたよ。その数13。ここの所仲良くしている4カ国の他にもたくさんの国の代表が来てくれました。陛下が言った2カ月と言うのはこれを読んだのでしょうか。

式典も無事終わり、いよいよ初飛行です。各国の代表を乗せる算段をしてたのですね。だから王都からフロンティーネの第1便と帰りを1機丸ごと押さえてたんですね。まぁウチは誰が乗っても同じなんですけど。貴族も平民も同じ値段ですから。

私ですか?えぇ、乗せられましたよ。しっかりと紹介までしていただきました。


これだけの人が集まっているのですから当然盛大な晩餐会が行われました。そこでの話題も当然飛行機。いち早く発着場の誘致を申し出る者、技術面での提携を探る者、飛行機の購入を申し出る者など皆さん必至です。

「本日は我がヘンネルベリ王国での飛行機の運行を始まった記念すべき日に皆様をお迎えすることができ、大変嬉しく思っています。この飛行機は我が国の王女、ミルランディアが開発したもので、移動、輸送の革命を起こすものであります。皆さまもお乗りになって驚かれたと思いますが、先ほど言ったフロンティーネという街は、この王都から馬車で7日、更に山を越えたところにあります。それを半時ほどで行くことが出来る。私も初めは非常に驚きました。と同時にこの飛行機の可能性を感じたのです。

……………」


まぁ長い事。日は暮れてるから夜が明けるんじゃないかって思ったわ。要約すると飛行機の技術は渡さないけど、経済圏を一緒に造るんなら就航はするよ。飛行機を友好国に対しては武力として使わないよ。クルマや魔道具は輸出してもいいよって事かな。

当然みんな食いついてきますよね。数日前から王都に滞在して、クルマやバイク、魔導バイクを見て、舗装された道路を見て、夜の灯りを見て。他の国から見たら別世界ですよ。それを手にすることが出来るとなれば、目の色も変わるってものです。

窓口は外務局と商務局がやってくれるようですから、頑張ってくださいね。私が外務大臣じゃないのかって?それはだいぶ前に降りてますから。


ヘンネルベリを中心とした一大経済圏と言うか一大共栄圏が出来つつあるこの地域に一つ、思いを異にする国が……



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