第171話 覚悟

『ミーア、少し話があるのだが』

『何ですか、龍王様』

『ちょっと私の所に顔を出してもらえんか。エリーもいるのでな』


大将からの呼び出しですね。ええ、分かっていましたとも。トルディアでの優秀な働きについての褒賞でも頂けるのでしょうか。


「異界の兵器の回収、ご苦労であった」

「ええ、ドラーガ様とエリーさんの頼みでしたから。犠牲を出すこともなく、平和裏に回収できました」

「平和裏、ねぇ…」

「ミーアちゃん、ホントはどう思ってるの?」

「やり終えた時はチョッとだけやり過ぎたかなって思ったりはしましたけど、今は思ってませんよ。あの国がやったこと、やろうとしていたことを考えればあれぐらいで丁度いいかなって」

「だがな、ミーア……」

「あの国はあの程度じゃ潰れませんよ。私が潰したのは侵略、侵攻するための力。あとは禁断の薬。自国の防衛程度なら問題はありませんし、施設を壊したと言っても侵攻軍の兵舎に例の兵器の研究施設、魔薬の関連の施設と港と造船工房。あの国の兵器工房や多くの基地はそのままですよ。皇帝にも言ったんですけど、『自分たちの力で開発されたものであったなら見逃してあげた』、例の兵器の件がなければあの国が何をしようと関係なかったわ。ヘンネルベリ王国は周りの国と協力して対抗できるようにするだけだったから」

「他の所でこのようなことが起きたら、またやるのか?」

「そうねぇ、ドラーガ様が止めなければいけないと思えばやると思うわ」

「それがお前の国であったとしてもか?」

「………、んー。今は難しい、って言うか無理ね。まだ知ってる人が沢山いるもの。でも時が過ぎれば、私が知ってる人が居なくなればやるかも知れない。それに今だったら国王陛下にだって言うし、いざとなれば陛下だって動かすわよ。使わせる前に取り上げちゃうわ」

「ミーアが生きている限り、知っている人が途切れることなどあるまいだろうが」

「私が普通に生きたとして、死ぬまでに知り合えた人と言う意味よ。従兄弟の子供たちの代かその次ぐらいまでかな」

「それがミーアの覚悟なのだな」

「そうね。寿命が他の人たちより長くなった分、どこかで区切りを付けなきゃって思ってるからね。私が100歳を迎えるころが一つの区切りじゃないかなって。

あと後悔はしないことにしたから。今から後悔してたら悔いだらけになっちゃうでしょ。みんな私の糧にすることにしたの。今回の事も全て糧、経験よ。悔いにならないようには気を付けるけどね」

「ミーアちゃん、辛くなったら言ってね」

「うん、その時になったらお願い。ところでエリーさん、長い間生きるコツってあるんですか?」

「コツねぇ。あんまり考えない。好きなことだけやる。飽きたら止める。基本的には何もしてないんだけどね」

「それは私も同じだな。なまじ何でもできてしまうからこそ自分からは何もしないようにしている」

「だから最近いろんなことを私に振るんですね」

「長い間生きるコツを教えてやろうと思ってな」

「絶対嘘ですよね」

「………うむ」



**********



「ふぅー、ただいまー。疲れたぁー」

「ミルランディア様、お帰りなさいませ。お疲れのところ申し訳ありませんが、宰相様より何度も連絡を頂いております」

「ありがとう、後で連絡しておくわ」


久しぶりに我が家でゆっくりしましたよ。ジャスティン一家を始めエレンやサフィアなんかともね。

彼らの近況ね。最近出番が少ないから、忘れちゃった人もいるんじゃないかな。

ジャスティンのところはマリアンナとの間に男の子が2人と女の子が1人いるのよ。みんなお屋敷で働いてもらっているんだけどね。ジャスティンも大分いい歳になってきててね、ダンディなおじさまって感じ。私のお父さん小さい時に死んじゃってるから、お父さんってこんな感じなのかなって思うのよね。『そろそろ後進に譲るの?』って聞いたら、『まだまだ』だって。少なくとも子供たちがどこへ出しても大丈夫になるぐらいまでは続けるみたい。でもジャスティンがOKを出すって凄い人が出来ちゃうんじゃないの。マリアンナは相変わらず綺麗ですよ。ちょっとふくよかになったかな、歳相応って感じに。最近は一線から退いているみたいですけど、その分余計に指導が厳しくなったみたい、娘さんも一生懸命やってるわよ。

エレンは相変わらずね。私の護衛って言ってもね、街中限定で着いてくるだけ。傍から見たら母娘に見えるのかな。

サフィアは私の側付きを続けてくれています。代わって欲しくないもんね、気心が知れているからね。で、そのサフィアの娘さんも私の側付きなんだけど、同じ歳位に見えるのよね、胸部装甲を除いて。あー悔しい、あんな立派なもの付けて。でもいいの、私は活動的アクティブ女性レディーなんだから、すっきりしてた方が動きやすいんだもん。あんな脂肪の塊貼り付けていて動きが鈍ったら、命とりなんだから。えっ?素直になれって?分かりました、正直に言います。もう少し大きくなりたいです。ウシみたいのは勘弁してほしいですけど、せめて手で……。って何言わせるのよっ!

サフィアは結構楽しんでるみたい、娘が二人になったって。見た感じはそうなんだけどね。でもこれだけ言っておきますよ、1人は雇い主なんですけど。

彼女の妖しい行動は全く持って鳴りを潜めてはいません。むしろより重症化しているといっても……。娘のサリーちゃんとタッグを組んでくるものだから、もうコーナーに追い詰められていますよ。



「宰相様、何かありました?」

「戻られましたか、姫様。グランフェイム様から聞きましたよ、飛行機を開発されたとか」

「ええ。今は操縦やその他の訓練をやっていますけど。軍用を含めていくつかをお譲りすると言うお話も……」

「それなんだが、最近の不作の対応などで予算の方がな……。軍の方としても配備を進めたいとの意向は強いのでいずれとは思うが、すぐという訳にはいかないのが現状である」

「私の方としてもタダであげる訳にはいかないものですから。そういう事であれば分かりました」

「兵士の訓練を先にすることは出来ないか?」

「それは構いませんよ。軍務卿と詰めておけばいいですか?」

「それでお願いする。あと軍用でないものを一つ、王家に献上されてはいただけないものだろうか」

「私も王家の1人なんですけど」

「それは重々承知いたしております。ただ大公様が大変興味をお持ちになられて……」

「リオ伯父さんが?でも陛下もなんでしょ。後でみんなで話をしましょう、その方が早いわ」

「ところであの飛行機はまだ飛ばさないのですか?」

「まだ運用は出来ないわよ。だって発着場がないもの」

「フロンティーネにはあるんですよね」

「それはね。でも1つしかないわよ」

「ならフロンティーネから飛び立って、フロンティーネに戻ってくればいいじゃないですか」

「それって意味あるの?」

「それはもう。私たち人間の大きな夢の一つに『大空を翔ぶ』と言うのがあるんですよ。あの飛行機と言うのはその夢をかなえてくれるものなのですよ。ミルランディア様は魔法で自由に飛んでいらっしゃいますから、あまり実感がないでしょうけど」

「そう言うものなのですね。商業ギルドを通じてやってみますよ。どうなるかは分かりませんけど」

「大盛況間違いありませんから。そのうち『自分の所にも飛行機の発着場を造ってくれ』という貴族が殺到しますよ」

「それなんですけど、場所の選定とかは内務、商務、財務、軍務辺りでやっていただきたいんですけど。あと工事も。全部ウチでやるとやっかみが酷いから……」

「そうですね、それはこちらでやりましょう。何か気を付けることはありますか」

「あまりたくさん造っても効率が悪くなりますから、適当に離した方がいいです。例えばクロラント近郊に造ったとしても、フロンティーネからクロラントまでは効率が悪いので運航できないと思います。その間なら乗り合いの方が便利ですから。街中も避けた方がいいですね。万が一事故が起きた時に大変なことになりますから」

「承知しました。場所の選定が終わりましたら、ミルランディア様、工事の方よろしくお願いします」

「ダメですよ。工事は冒険者ギルドや商業ギルドを通じてそちらでやってもらわないと。安全の問題がありますから、確認や検査はウチの方でやりますけど。大きな工事で沢山のお金がかかるのですから、貴族たちに搾取されないようにして多くの平民に仕事してもらった方がいいんじゃないの」

「それだと完成までの時間が……」

「確かにウチでやれば早く終わるかも知れませんけど、それだと国のお金がウチに入るだけですよ。それに今まで無かったものなんだから、遅れたってあまり影響ないんじゃないの」

「なら王室専用の発着場だけでも」

「それを含めて陛下や大公様とお話ししましょうか」




話し合いの結果、王室専用機を造ることになりました。造ると言っても内装を改装するだけだけどね。でも献上はしないことになりました。だって私も王族の1人なのですから、献上ではなく共用にしましょうってことで。

専用の発着場は騎士団の演習場の近くに造ることになりました。この工事はミルランディア・ヘンネルベリ公爵としてではなくミルランディア・ヘンネルベリ王女殿下として行うことに。王族専用の施設を貴族としての私がやると問題が起こりそうだったから、王族としてやることにしたって感じかな。領地を持ってる貴族の人たちには誘致を勧めればいいわけだし、出来るとは限らないけど。ま、そんなものに頼らないでやることやりましょうよってことで。



フロンティーネから飛び立って、フロンティーネに戻ってくる飛行機に乗る人なんているのかな……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る