第170話 VS トルディア(その6)
それにしても忌々しい、チャグルに送った奴らめ。
俺の顔に泥を塗りたくりやがって。
戻ってきたら公開処刑にしてくれるわ。
あいつもあいつだ、こんなところに映し出しやがって。
私がフジュの様子を映し出してるのは、皇帝の執務室と会議室。流石に食堂や寝室は気が引けたんで止めましたけど。
あの悲惨な状況はまだ続いています。向こうでやりたい放題の連中は、まさかこっちから見られてるなんて思ってないですしね。
「陛下、昨日は休めました?ほら、今日の心配をしないでいい分だけ休まったんじゃないですか?」
「貴様はどれだけ俺の事をおちょくれば気が済むんだ」
「さぁ、どれだけでしょうね。私がもういいと思えばそこで終わりです。でも私がそう思うまで続くという事です」
「っ!この悪魔が」
「神の遣いだと言ってるでしょ」
「どこの神だか知らんが、サファール様の他に神などいるものか。所詮龍神など蜥蜴に過ぎないのだからな」
「ま、いいんですけど。それより明日の話でもしましょうか」
「あれを差し出せばお前は手を引くのか」
「んー、少し前まではそうでしたけどね、あなた方の余りの態度の悪さにですね、もう私の気が済むまでやることにしたんです」
「と言うことは渡しても無駄と言うことだな」
「もちろん回収はしますよ」
「その前にあれの力でお前を吹き飛ばせばいいだけではないか」
「だから私には効かないって」
「ふんっ、はったりじゃないのか。フジュを見ただろう。一撃であのざまだ。お前が耐えられるわけがない」
「正直どうでもいいですけど。それとも試してみます?向こうの丘に設置済んでるんでしょ。帝都ごと私を撃てばいいじゃない。それでいなくなれば安いもんじゃないの」
「何故あそこにあることを……巧妙に隠してあるというのに」
「ああ、あれ隠してあったんだ。丸見えだったけど。で、明日は軍艦の泊まっている港を狙うから」
「待ってくれ、あの2つの兵器は渡すからこれ以上はやめてくれ」
「だから言ったわよね、降伏は聞かないって。今更何言ってるの」
「お前の望むものをやろう。金でも宝石でも」
「そんなもの要らないわよ」
「なら俺と手を組んでこの世界を2人のものにしよう。それならどうだ」
「馬鹿も拗らせると手におえないわね。アンタが世界征服をしたいのなら勝手にすればいい。私はあれの回収と、あれを使った罰と、神を冒涜した罰と、私を侮蔑した罰を与えるだけ。容赦はしないってことで」
「こんなことをいつまで続ける気なんだ」
「さぁね、分からないわよ。さっきも言ったでしょ、『気が済むまでやる』って。回収だけならすぐできるんだけどね。罰はいつまで続くのか。明日で終わるかも知れないし、5日で終わるかも知れないし、1年たっても終わらないかもしれない。ま、それこそ『神のみぞ知る』ってやつですね」
「これ以上続けられるとこの国が……」
「それこそ自業自得ってやつじゃないの。自分でやったことぐらい責任持ちなさいよね。アンタトップなんでしょ」
でもそろそろいいかなって思ってるのよ。軍港を3つ潰すけど、あとはあれが置いてある基地2つを潰して、回収が終わればいいかなって。どのみちこの状況じゃ他の国に侵攻するなんてできなさそうだし。あんまりやり過ぎて逆にこの国が攻められたら、それはそれで大変だからね。そろそろ潮時なのかなって。
それから3日間、3つの軍港を順番に潰してきましたよ。まるで作業のように。なので詳細は割愛ね。
「皇帝さんさぁ、私もね、そろそろ終わりにしようと思ってるんだ。その前にもう一度聞くけどさぁ、まだ神に逆らう?」
「我らにとって神とは女神サファール様のみ。貴様が何者で、何故に神の遣いを名乗るかは分からぬが、サファール様に逆らうことなどありえぬ」
女神サファールの真実を知ったらどうなるんだろうね。
「1つ覚えておくことね、この世界の神は一柱ではないということを。女神サファールがその一柱かもしれないけど、この世界はあなたが想像するよりはるかに大きくて複雑よ」
「それでどうするんだ」
「そうね、残りの2つを返してもらったら終わりにしてもいいわ。明日は大砲じゃない方ね。あなた
「勝手にしろ。そしてとっとと失せろ」
「無駄に抵抗したり立てこもったりしないでくれると助かるんだけどね」
帝国が集めた異界の兵器は3種類。一つは速射砲。これは回収済みね。威力は落ちるけど連射がきくタイプ。威力が落ちるって言ってもこの世界では破格よ。
もう一つがフジュの街を壊滅させた大砲。威力がメチャメチャ高くて一撃で街が吹き飛ぶ。ただし次を撃つまでに時間がかかる、2日か3日ぐらい。
そして最後がお化けムカデみたいなやつ。とにかく大きいの。脚みたいのが沢山あって、どんなとこにでも入って行って破壊の限りを尽くすの。遠くから砲撃を撃ちこむんじゃなくって、中に潜り込んで破壊するタイプね。明日はこれを回収する予定です。
あれだけ言ったのにやっぱりいましたよ、兵士さんたち。
「私が何をしに来たか分かってるわよね」
「分かってるさ。だからこそ通すわけにはいかない」
「私の事聞いてないの?それとも彼らが不甲斐ないだけで、自分たちなら私の事を倒せるとでも思ってるの?」
「そのようなことはどうでもいいことだ。我々は今朝、この基地と新兵器を死守せよとの命が下った。それに従うのみ」
今朝って事は、私が警告した後ってことね。この基地なら帝都から3時間もあれば着くからね。
「仕方ないですね。自主的に武装を解除して、投降してください。30分の時間を与えます」
「言いたいことはそれだけか。撃ち方、始めっ!」
(ダダダダッ!ダダダダッ!ダダダダッ!)
まったく、学習能力がないというかなんというか……
気にはならないんだけど……、悪戯心が……
素早く人形と入れ替わり、上空から眺めることにします。
(チッ!)
頬を掠った銃弾の跡から血が流れ
「見ろっ!奴が血を流している。当たるぞ。一気に畳み込むぞ」
(ダダダダッ!ダダダダッ!ダダダダッ!)
肩を撃ち抜かれ、脚にも銃弾を受けます。立ち止まり、膝を着きます。執拗に浴びせられる銃弾に防御の姿勢を取りながらも、激しさを増す攻撃の前にやがて力尽きます。
「やったぞっ!ついに奴を倒したぞ」
「「「うぉぉぉぉーーーーー!!!!!!」」」
ちなみに人形劇です。脚本、演出、出演ミーアの人形劇団の公演でした。
でもアズラート戦の囮作戦の時以降、私の代わりの人形を作ることが増えたわよね。確かに前にもドレスの試着とかで造ったことはあったけど、自分がやられる様子をリアルに再現する人形劇って言うのはやっぱりねぇ。
(パンッ!)
破裂音と共に人形を消しました。別に人形を爆発させたわけじゃないから。いくら私でも自分そっくりな人形を爆発させるなんてできませんって。
「神に牙を剥き、剰え遣いの者に凶弾を浴びせる。この愚行の責任、キッチリと取っていただきます」
「な、何だ、あれは……さっき倒したはずでは……」
「……パラライズミスト」
「うっ!、体が動かんぞ」
後はいつも通りね。とりあえず武器は没収して、例の兵器を引っ張り出して目の前で消しました。
「ミーアっ!何か変っ!」
「何っ?」
「いいから、とにかく気を付けろって。精霊たちが…」
精霊からの危険信号。……って。………まずいっ!
『時間停止(『一夜明けて』を見てね)』をかけます。止められる時間は僅か数分。この間にやらなきゃいけないことは、この基地全体を亜空間シールドで護る事。皇帝の奴、私をここに足止めしておいて味方の兵士を巻き込んでまであれを使う気ね。
基地と兵士を亜空間シールドで囲んだ直後、時間停止の魔法が解かれました。
(ドッ、ゴーーーーーンっ!!!)
(ビリッ!ビリッ!ビリッ!)
「な、何が起きたというんだ」
「教えてあげますね。皇帝がチャグルで使った例の兵器でここを撃ったんです。私を狙うために、あなたたちがいることを知っていながらね。で、それを私が防いだってこと」
「陛下が……私たちを……」
「命は助けたからね」
回収作業の続きを終わらせて、皇帝の所に行かないとね。文句って言うか、引っ叩いてやらないと気が済まないや。
「ちょっとアンタ、何やってくれたの(パシンッ!)」
「あの話はホントだったのか」
「とりあえず教えといてあげるわ、あの基地にいた兵隊さんたち、みんな無事だから」
「それもお前が」
「当たり前でしょ。こんなこと他に出来る人がいると思って」
「……そうか」
「何で味方の兵士まで巻き込むようなことしたの」
「あれだけでもあればな、俺の望みは1歩も、いや10歩も100歩も先に進むのだ。それを邪魔する奴、お前を殺すことが出来るのであればあの程度の損失など安いもの。ま、すべて失敗に終わったがな」
「私が何で兵士を殺さなかったか分かってるの。武器防具を取り上げ施設を破壊したのはあなたがフジュでやったことへの罰。兵器の回収は最初から決まっていたこと。でもね、あの兵器を使うのではなく、トルディアで、自分たちの力で開発されたものであったなら見逃してあげたわ。あれはここに在ってはいけない物、この世界の理を著しく乱すものなの。でもねあれを使えるようにまでした努力とその知識、これはこの世界が発展していくためには必要なものなの。だから人は残したの、試練は与えたけど。初めから言ってるでしょ、『アナタが世界征服を目論もうが関係ない。やりたければ勝手にどうぞ』って」
「………」
「私がこれで止めるって言ったのも、これ以上この国の軍を疲弊させると、外国からの攻めに太刀打ちできなくなりそうだったから。別にこの国に潰れてほしい訳じゃないから。無駄な争いを引き起こさなければいいだけ。
初めの所は西の国を侵略するための軍だったから潰したわ。
森の軍もそう、南の国を攻める拠点だと思ったから。実際にはあそこはとんでもないところだったけど。
モルーマへの侵攻軍は領土的な野心を持つなとの警告。
チャングは一方的な侵略とあそこで行われていた暴力を鎮めるため。
帝都の門はこの国の人に今起きてることを知らせるため。
軍港は新たな侵略をさせないため。
そして3つの兵器の回収。
トルディアの国軍は大きなダメージを負ってはいるけど、防衛が出来ないほどではないはず。それに門の修復、港の修復には時間もお金もかかるから、他国への軍事行動など行うとすれば無謀な賭けになります。少し考えればそのようなことは出来ませんよね」
「………」
「初めに言いましたよね、『あの兵器を手放せ』と。あなたはその言葉を聞かず、神の言葉も聞かなかった。それだけではありません、神を愚弄し冒涜した。もう分かってるわよね、あなたの間違いが」
「………」
「予定を変更します。今から最後の一つを回収に向かいます。そこへあなたを連行します。そこで武装解除と投降を
「わ、分かった……」
最後の一つは無駄な抵抗もなく、スムースに行われました。
「最後に一つ。あなた達はいい技術を持っています。争いではなく民のために使うことを望みます。あなたは自分の軍が優れていると思っているようですが、この程度の力、打ち破ることなど容易いほどの力を持つところもこの世界にはありますよ。
それでは。もう2度と会う事もないと思いますが」
やり過ぎてしまった……………かも。
でも後悔はしない。私はミーアだから。
長い人生後悔ばっかしてたら、先に進めないもんね。
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