第168話 VS トルディア(その4)

チャングに来ました。今日はここにいるトルディア兵を地獄に案内する、違った、チャングの人を救いに来ました。でも救うつもりはないんだよね。でも地獄への案内人じゃイメージ悪すぎでしょ。街に巣食う悪を取り除く仕事人掃除のおばちゃんって感じかな。って、アンタも懲りないね。命はダイジにした方がいいよ。


仕事を始める前に街の様子でも見てきましょうか。前とそんなに変わってるとは思えませんけど。お腹空いてたってこともあるんだけど。

ヘンネルベリの街でもそうなんだけど、朝早くからやってる食堂って結構あるのよね。

職人とか冒険者とか、比較的身体張って稼ぐ人肉体労働者が多いでしょ。そういう人たちは朝食抜きって訳に行かないのよねぇ、仕事に差し障るから。かと言って自炊なんてするわけないし。後は結婚って言うか家庭の事情ね。

冒険者はまず結婚なんてしていない、男も女もね。まぁいつ死ぬか分からない仕事しているのに家庭を築くなんて無理だもんね。私が結婚できないのは冒険者に拘ってるからだって?王宮で王女様やってたら相手なんていくらでもいただろうにって?あのねぇ、私がお嫁に行けない事情ぐらいよーく知ってるでしょ。私と釣り合う男性いた?私はね、高嶺の花なのよ。……今余計なこと考えたでしょ。えっ?萎れた花に需要はないって?萎れてなんていないでしょ。見てみなさいよ、このピチピチのお肌を。トルディアが終わったらゆっくりお話ししましょうね。

つい脱線しちゃうわね、話を戻してと。職人もそう。若いころは雑用ばっかで碌に休みもないくせに給金は一人が食べてくのがやっとって感じ。これじゃ結婚は無理よね。

と言うことで朝からご飯が食べられるところは結構あるんです。


一軒の食堂が目に留まりました。メチャメチャ繁盛しているっていう訳じゃないけど寂れてる訳でもない。高級そうって感じでもない。強いて言うならなんとなくいい感じってとこかな。

なんていうのは嘘です。狙ってここに来ました。

店の中はそこそこ混んでますね。座れない訳じゃないですけど。私はテーブルに着きました、相席ですけどね。

「おはようございます、レミさん」

「あっ、おはよう。えっと……あの……この間の……」

「ミーアです」

「そうそうミーアちゃん。どうしたの?」

「これからお仕事なんでその前にご飯でも食べとこうと思って」

「お仕事?ミーアちゃん外国の冒険者だよね」

「そうなんですけど、チョッとした伝手があってね。この街なんか変わりました?」

「あまり変わってないわ。トルディアの奴らやりたい放題だし。ただ食いなんて当たり前だし、気に入らないとすぐ殴るわ女性なんて公衆の面前で嬲られるのよ」

「レミさんは大丈夫なんですか」

「私は冒険者特有の気みたいのを発してるらしいのよ。よく分かんないんだけど。高ランクの冒険者のヤバそうな感じって言うのがあるじゃない。それらしいんだけど、そのおかげで今のところは平気よ。ま、弱いものいじめだけが取り柄の腰抜けばっかってことよ。そういう意味ではミーアも大丈夫そうね。あなた私が会った冒険者の中でも別格だから。ヤバいって言うのがかわいく感じるぐらいのね」

「それってどういう意味?」

「いい意味よ。讃えてるってことかな」

「トルディアの人ってけっこういるの?」

「奥のテーブルの3人、奴らはそうよ」

顔なんかは向けませんよ。マルチさんでの確認です。

なるほど、雑魚ですね。盗賊団でいえば下っ端は卒業した感じかな。下の上、よくて中の下ね。

「兵隊らしいんだけど、やることなんてないから街に来て好き放題やってるのよ。奴隷商人とかもいるみたい」

雑魚がこっちに来ますね。

「よぅ姉ちゃんたち、俺たちと遊ぼうぜ。楽しませてやっからよ」

「そうね。私も仕事の前に腹ごなしをしときたかったのよ。何をしてくれるのかな。よかったらお友達も一緒にどうぞ」

「ミーア、アンタそんなに煽って大丈夫なの?」

「盗賊の下っ端程度、100人や200人問題ないって」

「………」

「じゃぁ広場にでも行きましょうか。マスター、ご馳走様。美味しかったわ。これ騒ぎになった分込みでここにいる人全員分ね」


私とレミさんはナンパ野郎どもを引き連れて広場に向かいます。なぜかぞろぞろと沢山の人も付いてきていますが。

「レミさんなら自分の身は守れるわよね。別に倒さなくてもいいから」

「何するつもりなの?」

「だから腹ごなしよ。いつもの鍛錬の相手をしてもらうだけ(嘘です。鍛錬なんてしていません)」

「はぁ……」


広場に着くころにはギャラリーもかなりの数になっています。このまま始めると危ないですからね。ギャラリーとの間に結界付きの柵を設置しました。

「飛び入り参加OKですよ」

「結構肝座ってんじゃねぇか。こんなところで嬲られるなんてな」

「私に勝てたら好きにしていいわ。傷一つ付けられないでしょうし、指一本触れることもできないでしょうけど。全力でかかってらっしゃい、弱者と強者の違いって言うのを見せてあげるから。腹ごなし程度にはなることを期待してるわ」

「おのれ……」

衣装も変えて準備OKです。どんなカッコしてるのかって?やっぱり気になる?上はへそ出しのタンクトップ、下はホットパンツ。可愛らしい靴を合わせてね。煽情的だけど動きやすいやつよ。まんま娼婦じゃないかって?娼婦の定番と言えば薄手だけど濃い目のロングのワンピースにかかとの高い靴。バッチリとお化粧を決めてるんじゃない。私だってわかっているんです、つや・あでやかさに欠けることぐらいは。

でもそんなカッコで怪我しないかって?心配してくれるのね。でもね、どうせ何一つ当たらないんだから関係ないのよ。油断でも慢心でもないわ、ちゃんと亜空間シールドは張るから。

手にしてるのは短い杖ワンド。いつものオリハルコンのスタッフじゃないわよ。あんなのでひっぱたいたら死んじゃうかもしれないでしょ。

「レミ、準備はいい?」

「私はいいけど、ミーアはそのカッコでやるの?」

「そうよ。煽った方が面白そうじゃない」

「煽ったって……煽り過ぎよ。結構な数になっちゃってるわよ」

「レミも分かってるんじゃないの。ゴブリンの集落の殲滅の方が大変なことぐらい」

「そうね。私は貴方に負けてたのかもしれないわ」

「怪我しないでよ。死ななきゃ治せるけど、怪我したレミを見るのは嫌だからね」

「私もそこまで弱くはないわよ」

「お客さんも待ってることだし、行きましょうか」


一方的と言えば一方的。女の子2人に迫る屈強な男性陣、その数20以上。この状況、どう見ても2人組の女の子私たちが勝つシチュエーションじゃないですか。どんな小説や漫画を読んだってそうですから。

はぁ。

最初は魔法使ったんですよ。最初の一撃だけ。威力を押さえたブラストウィンド爆風で薙いだんですけど、それだけでみんな立ち上がれなくなっちゃって。ギャラリーはもっとやれって煩いし。偉そうにしていたやつらが手も足も出せずに転がってるんだから、憂さも晴らしたいんだろうけどね。でもこれじゃレミも何もしてないし、私だって消化不良よ。魔法を撃つのはやめて慣れない近接戦闘に切り替えます。指一本触れさせないって言ったけど、私がパンチを当てるのはありだから。

一撃必殺。殺しちゃいないんだけど、腕を振る度に動けなくなる男どもが増えていきます。

「ねぇレミ、満足した?」

「私まだ何もしてないんだけど」

「もうチョット楽しもうと思うんだけど」

「どうするつもり?」

「あいつら全員回復させようと思うんだ。そうすれば何度でも遊べるじゃん」

「そうね。まだ腹ごなしも済んでないもんね」


これを見ていた人が言うには、『まるで地獄を見ているようだった』だそうです。チッ、チッ、チッ、地獄には回復なんてしてくれる優しい天使なんていませんから。


何度か繰り返して腹ごなしも済んだかなって頃になると、あれだけ威勢の良かった連中が涙を流して土下座して許してくださいと叫んでいます。心がポッキリと折れてしまったようです。

折れてしまったようですじゃないでしょ。粉々に粉砕したのは貴女ミーアですよ。


「そろそろいいかな」

「ええ。いい運動になったわ」

「こいつらこのままにしておいたら、周りの人たちに嬲り殺しにされるわよね。それはちょっと良くないんで私の方で預かっちゃうね」

はい、この連中は纏めてプリズン行きです。ギャラリーには何が起きたか理解できなかったようですけど。


「ねえミーア、あなたの仕事っていったい……」

ですけど」


朝の遊戯も終わったので、そろそろ始めますか。

本日のプランの紹介です。って今日はやるんか。


ここチャングで昨日までのように全部没収して建物を潰して回るなんてことは出来ません。チャグルの人たちも生活してますからね。

そこでまずここチャングの中にいるトルディア人を集めます。その上で没収するものは没収します。今回は建物は潰しません。元々この国の建物ですからね。

どうやってトルディア人とチャグル人、その他の人たちを区別するのか。ここが今日のポイントです。

なんて仰々しく言ってはみるのですが、探索で『トルディア人』ってやると分かるんですよ。

えっ?なんでそれでわかるのかって?

そうよね、言われてみると変よね。エルフを探すって言うんなら魔力の質とかで分かるんだろうけど、トルディア人も普通の人間だしね。えぇと解説のナルシャンファルビさん、よろしくお願いします。

「はいはーい、解説のナルシャンファルビです。通称ナビちゃんです、ヨロシクね。

トルディア人の見分け方ですけど、世界樹の記憶を使いまーす。最初にこの街にいる人の事を世界樹に取り込んでもらいます。そうするとその人の帰属って言うのが分かるんです。帰属がトルディアの人をピックアップすれば、もうお分かりですね」

だそうです。私が大事に育てた探索ですけど、いつの間にかこんなことになってたみたいです。


集めたトルディア人ですけど、チャングに纏めておいておくんじゃ意味がありませんので、フジュの街の跡に移します。トルディアが破壊した街ですから丁度いいでしょう。

そこに置き去りにしてもいいのですが、今回は少し違ったアプローチをしてみようと思います。今までは建物を壊すだけでしたけど、今回は簡単なものを作ってみようと思います。簡単な壁だけですけどね。そこそこの高さ10メートルぐらいの壁で十分でしょう。門なんて作りませんよ、壁だけで十分です。水と食料は置いてきますよ。他の所と違って食糧調達のために狩りに行くことが出来ませんからね。潤沢って訳にはいきませんけど。

壁の材料はいくらでもありますから。なんせ瓦礫の山なもんで。


それでは本日のゲームの始まりです。実況はございません。気が向いたら途中経過だけ入れますね。


トルディア人の集まっている施設を探します。普通の人は仕事を始めてる時間ですけど、連中遊んでるようなものだからね。動き出すのが早い訳ありません。まさかこの街で真面目に仕事なんかしないだろうし。

この広い街の中に、広いって言ってもフロンティーネの街と同じぐらいね、5つ、もう少しあるわね7つ、8つぐらいかしらトルディア人が集まってる所があります。接収して使ってるんでしょうね。まずはそこから順番に回るとしましょうか。

やることはいつも通り何で細かいことは割愛しますが、まぁせっせせっせと集めまして、人はプリズン送りと。

一通り回った後は街中に出ている輩の回収です。


只今の時刻は3時です。そういえばお腹空いたわよね。お昼まだだもんね。

トルディアはチャグルを奴隷国にしましたが、人の生活はそんなに変わるものじゃないみたいです。そもそも奴隷国って何?

なので市場も開いているし屋台もやっています。いい香りを漂わせながらね。買い食いにはもってこいです。


それでは続いて後半戦、行ってみよう。


フジュの街での壁建設です。別に町全体を壁で囲む訳じゃないので簡単ですよ。広さ的には闘技場ぐらいかな。6000人ぐらい集めたからね。

今まではあまり気にしていなかったんですけど、1割ぐらいは女性がいるのね。まぁ女性だからって言って赦すわけじゃないんだけど。

壁で囲まれた真ん中に水瓶と食料、焼き固めた黒パンに干し肉、塩を置いておきます。我慢すれば二日は持つんじゃないかな。上手くすれば五日ぐらいは何とかなるわね。


全員の身ぐるみを引っぺがして壁の中に開放です。壁の中に開放って言うのも変なんですけど、プリズンから出られただけでもね。身ぐるみを剥いだって言ってもそこはほら天使のような私のやる事ですから、下着ぐらいは残しますよ。女性も下着姿なのかって?そりゃそうですよ、差別はいけません。


そろそろ例の口上でも述べて終わりにしましょうか。

「大人しく聞きなさい。ここはあなた達の皇帝によって破壊された街です。その皇帝があろうことか神に牙を剥きました。私は神の遣いです。皇帝に罰を与えるために来ました。あなた方はトルディアの軍人、そしてその虎の威を借る卑しい狐どもです。皇帝と共に罰を受けるためにここに集められました。

そこに水と食料を置いておきました。同じトルディア人同士仲良く分け合えば2~3日分にはなるでしょう。

今日この後皇帝にこのことを話してきますので、早ければ数日のうちに助けが来ることでしょう、国があなた方を見捨てなければの話ですけど。

それまで仲良くしていてくださいね」


あとは簡単にレミさんにも話しておこうかな。

「……………と言うことで、そんな感じだから」

「はぁ。アナタって人は……いったい……。まぁいいや、とにかくありがと。後は私たちがやることだから」

「あまり調子に乗ると神様が怒るからね。それにまたすぐトルディアの人たちが来るわよ」

「ええ。出来るだけのことはしますから」

「じゃぁ頑張ってね」


さて、仲良くやってるかな。

ってなにこれ。怪我して動けなくなってる人が沢山いるし、女の人は犯されてるし。なんでこうなってるの。

「アンタら何やってんのよ。それでも誇り高いトルディアの軍人なの。これじゃ見捨てられても仕方ないわね。皇帝には見たまんま伝えるから。今回だけはその怪我治してあげるけど、もう知らないからね」


**********


「やぁこんばんわ、気分はどうかな」

「いい訳なかろう」

「あまりイライラしてると禿げるよ。予告通りチャングの掃除してきたから。ゴミはね、フジュにゴミ箱作って入れてあるから。一応食いもん置いてきたけど、どうなるかわかんないから。助けに行くんなら早い方がいいよ。ただあいつらホントにクズだね。仲良くしろって言ってんのに同郷の仲間を傷つけるわ、女と見りゃ犯すわ。そんな奴らだけど助けるのも見殺しにするのもアンタの心一つって事。まぁ同朋を見殺しにする鬼畜な皇帝様じゃないんだろうけど」

「………」

「それから明日はいよいよ帝都の番ね。でも安心して帝都がいきなり廃墟になるなんてことはないから。ここにはたくさんの人が暮らしているからね。神はねそういう人にまで罰は与えないから。

毎日いろんなところへ飛び回ってたからちょっと疲れてるのよね。明日は出来るだけ早く終わらせたいから、どこを破壊するか教えてあげるね。明日は帝都の正門を綺麗に壊しちゃいます」

「ちょっと待て、あそこは軍の施設ではないぞ」

「そうかしら。あそこはこの帝都を守る最大の砦。帝都からすれば中にある基地より何倍も重要な施設なんじゃないの」

「あれはこの街の民を守るための……」

「『民を守る』ねぇ。アンタの口からそんな言葉が出て来るなんて思わなかったわ。

でも明日の目標帝都の正門は変わらないから。始めるのは13時からね。それまでに大事なものは持ち出しておいてね。私が没収したものは返さないからね。

あと、人は近づけさせないでおいてね。籠城とか無駄だからね。もし人がいたら、その人たち纏めて全員フジュのゴミ箱に棄てに行くから、そのつもりでいて。いいわね」




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