第167話 VS トルディア(その3)

そろそろ1つぐらい回収しておいた方がいいですかね。

帝国が持ってると思われる異界の兵器、どうやら3つあるようです。手に入れた方法は別にいいです。手にして、使って、他国を破壊した。これだけで十分罪です。そのうえ神の言葉も聞かずに……。


今日はそのうちの1つが保管されている基地にします。1日目は空から、2日目も空から、3日目も空からか。じゃあ今日は正面から堂々と行きましょうか。あの兵器が置いてあるぐらいだからここの守りは厳重でしょうしね。


「お前は……止まれっ!止まれと言ってるんだっ!」

そろそろ覚えてほしいんですけどね。私は、特にこの国の中では聞き分けは悪いですよ。やめろって言われたってやめないし、もちろん止まれって言われたって止まらないわよ。私がもういいと思えばやめるし、進む必要がないと思ったら止まる。そもそも私は貴方たちが戦ってる相手よ、それが何であなたたちのいう事を聞かなきゃいけないのよ。

まぁ無視して進みますけどね。

(パンッ!パンッ!!)

いきなり発砲ですか、危ないったらありませんね。まだ周りには一般の人がいるんですよ。

(パンッ!パンッ!パンッ!!)

慌てて人々が逃げていきます。そりゃそうですよね、いきなり発砲現場に出くわしたら怖いですもんね。

「何だこいつ、化け物か」

失礼しちゃいます。あなたたちの学習能力が不足してるだけじゃないですか。あれだけ『あなたたちの攻撃は効かない』って言ってるんですから。それにしてもこの亜空間シールド、無敵すぎですね。


門の前にずらりと兵士が並んでいます、銃口をこちらに向けて。

「お出迎え、ご苦労様ね」

ニッコリとほほ笑んで中に入ります、銃弾の雨の中を。


私は事前に調べてあるここの責任者、司令官の部屋に向かいます。流石に建物の中では発砲はしてきませんね。

時折私の前に立ちはだかる猛者がいるんですけど、風の魔法を使うと素直に退いてくれるんです、壁にめり込むようにして。

そんなことを繰り返していると次第に私の邪魔をするバカどもはいなくなりますね。大分歩きやすくなりました。

「あなたがここの責任者、司令官でいいのね。お初にお目に掛かります、神の遣いです」

「なぜ神の遣いがこのようなことをする。女神サファールは慈悲に溢れた方であるぞ」

「女神サファール様については、まぁそういう事でいいでしょう。あなた方に罰を下すよう命じたのはサファール様ではありません。別の神です。私は神の命に従い、あなた方が新兵器と呼ぶものを頂きに上がりました。大人しく差し出すのであればこの基地の破壊は考えましょう」

「ふざけるな。あれは我が国、皇帝陛下のものだ。貴様に渡す理由などない。貴様とて命は惜しかろう。このまま戻るというのであれば見過ごしてやってもいいが」

「交渉決裂ってことでいいですかね。他の皆さんもそれでいいですか。今なら考え直してもいいですよ」

私ってやっぱり天使ね、こんなに慈悲深いんだから。

「何を言ってる。これ以上ここに留まると言うなら命はないぞ」


私はサッと手を払います。それだけで部屋の中のものが一瞬で消えました。机や椅子と言った調度品から皆さんが携帯している武器、仕事の書類なんかも持ってっちゃったか。

どうやってるのかって?簡単なことよ。部屋全体を亜空間に重ねてそれを収納の空間と繋げとくでしょ。それで回収するものを纏めてポイッと。

「な、何をした」

「私の銃が……」

「俺のも…」

そりゃ驚きますよね。気付かないうちに無くなっちゃうんですから。

「銃ってこれですかね。なんか面白そうですね。これは……魔弾が発射されるみたいですね」

「よせっ、危ないからこっちに向けるんじゃない」

さんざん人に向けて撃ってたくせに自分の方に向いた途端あれはないですよね。自分がされて嫌な事は他人にはしない、それ大切ですよ。試験に出るかもしれませんからね。

「なるほど、ここをこうして、これを引くと弾が出るのね。って(バンッ!)」

発射された弾はさっきから喚いていた男の首の横3センチのところを通り抜けて壁に当たりました。

外したわけじゃありませんよ。私が外す訳ないじゃないですか、精密射撃のスキル持ちですよ。ちゃんと狙ったんです、そこを通すように。暴発を装って。

「んー、これは危ないですね。こんな危ないものは一刻も早く集めるしかないですね」

調度品のなくなったがらんとした部屋の中に、どこからともなく銃がパラパラと落ちてきて小さな山を作っています。

さっきの男ですか?ええ、腰を抜かしてへたり込んでいますよ、水たまりを作りながらね。

「ずいぶんと沢山ありましたね。これは私の方で預かっておきますね、返しませんけど」

指をパチンと鳴らすと同時に山のように積みあがった銃が消えました。演出って大事よね。絶対に起こりえないことを目の前でやる、それだけで恐怖にもなるんだから。


「ではその他の武器も集めちゃいましょうかね」

片っ端っから集めて積み上げてから没収。これを繰り返します。

何でそんなまどろっこしい事をするのかって?心を折るためですよ。何もできないまま武器を取り上げられ、防具を剥ぎ取られ、大事なものを次々と奪われていく。何もできない、ただ見てるだけ、力の及ばない状況で。

すっかり目が変わりましたね、敵を見る目から恐怖に怯える目に。

そういえば表が騒がしくなってきたみたいです。そろそろ河岸を変えますか。


表は大混乱みたいですね。いろいろ無くなってますから分からなくもないですけど。

建物の中にいた人?私の跡をぞろぞろと付いてきましたよ、覇気もなく死んだような眼をしたまま。

私が目指しているのはもちろん異界の兵器がある兵器庫です。ん?動かす準備をしてますか?

私はダミーと素早く入れ替わって兵器庫に向かいます。ダミーってお人形さんね。今の私のコピーだから気づく人なんていません。

姿を消して武器庫に入ると技師らしき人が数人、稼働準備を始めていました。これは街を吹き飛ばすほどの威力はないものの、それなりの出力で連射のきくタイプですね。さんざん回収してきましたからその辺は熟知しています。ついでに止め方もね。

近づいて稼働途中の兵器の動作を止めます。技師たちが慌てていますがもうどうしようもありません。動力源取っちゃったからね。


兵器庫も対象のところには直接向かわず、遠くから順番です。

あの部屋にいた幹部以外の兵士たちにも無力感を与えるためです。

兵器庫の扉を開け、中のものが次々と消えていく。その様子を見て怒りに震える者、恐怖に怯える者、無力感に苛まれる者、様々です。時折私の前に立ちはだかるものがいます。勇者ですか。吹き飛ばされる未来しかないんですけど。

「隊長、新兵器ですが突然止まってしまいまして……」

「それも……まさか……この者が……。敵に回してはいけない者だったのではないか……」


いよいよ本日のメインディッシュです。さぁ行きましょうか。

本命の武器庫の前に来ました。扉をあけ放ちました、もちろん自動で開いたように見せてね。中のものを次々と没収します。最後に残された例の兵器を外へ引きずり出します。

「これはあなたたちが手にしてはならないものです。幾度となく警告したにもかかわらずあなたたちはそれを無視し続けました。それがこの惨状を引き起こした、分かりますね。これは返していただきます。よろしいですね」

異界の兵器の一つを無事回収しました。

「うぉぉぉぉぉーーーーー!!!」

ウォークライですか、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんね。


メインディッシュが終わってもまだ続きますよ、最後のデザート施設崩壊まで。ま、デザートの前にやることやっちゃいましょ。最後の仕上げ、取りこぼしの無いようにね。

今日のデザートもファイヤーボールのグラビティ添えです。1日目にやったやつだから解説は要りませんね。


以上で本日のコースは終了です。


**********


「今日はあの兵器の一つを返してもらったから。それにしても今日は近かったのに何で応援に来なかったの?」

「貴様、分かっているくせに……」

「そうだったわね。結界が張ってあったから入れなかったのね。あれぐらいの結界だったら壊して入ってくるのかと思ったんだけどね」

「………」

「それから一つ朗報です。明後日の帝都の目標はこの宮殿じゃありません。別のところが目標になりますから宮殿に警備を割かなくても大丈夫ですよ。それから明日はチャグルの駐留軍の所に行ってこようと思いますので、ヨロシクね」


**********


「ミーアよ、少しやり過ぎではないのか」

「嫌ですね、ドラーガ様。あの程度でやり過ぎだなんて。私はねアズラートの時に5万の兵を殺しているんですよ。でもトルディアではまだ一人の兵も殺してはいないんです。これのどこがやり過ぎなんですか?」

「そう言われればそうなのだが、所業がな……」

「そんな、人を傷つけることなく没収だけしているんですよ。これを所業と言われても……」

「でもミーアちゃん、楽しんでるわよね」

「はいっ!」




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