第166話 VS トルディア(その2)

さて2日目です。本日の解説は……無いようですね。

なになに、毎回解説するのは大変だし、ありがた味が無くなるから、時々やるのがいいんだって。まぁ自分勝手な人ですね、分かってはいましたが。この件についての苦情や要望は受け付けていないので、他の迷惑になるのでしないでほしい、だそうです。


今日の獲物ターゲットは旧モルーマ領を支配下に置くための部隊です。この部隊、数はとっても多いです。何せ広大なモルーマ領ですからね。

ですがまだモルーマが滅びてからさして時間が建ってはいません。なのでこの部隊にしっかりとした施設などないのです。

じゃあ潰さない?訳ないじゃない。

簡易的な施設は作られているようだし、これだけの部隊を支える大量の兵站もあります。何せ現地補給が出来ないところですからね。大型の天幕も沢山ありますし輜重部隊の装備も潤沢ですね。案外おいしいかも。


いつものように空からの登場です。最近気に行っててね、ほら、天使っぽく見えるじゃない。今度真っ白な翼でも付けてみようかしら。アンタは堕天使じゃないかって?気分よくしてるんだから邪魔しないでよね。

「訳あってあなたたちを壊滅させていただきます」

おっと、いきなり撃ってきました。あれが魔導銃ですか。私には当たらないんで脅威度は0ですけど。でもああいう玩具は全て没収です。

「なんだ、銃が無くなったぞ」

「俺もだ。奴の仕業なのか」

武器、弾薬、防具、食料、工具、設備、荷車から馬まですべて回収します。

アンタの収納はどうなってるのかって?そりゃいくらでも入る収納がいくつもありますからね。

回収されていくものが次々と消えていく様子を目の当たりにして、兵士たちに動揺が広がっていきます。

「今からそこのボロ小屋潰すから、死にたくなかったら退いてな」

やっぱアンタ堕天使じゃなくって悪魔だね。いやいや避難を勧める悪魔なんていないから、私は(自称)天使です。命は大切にします。

拙いと思ったんでしょうか。全ての武器を失い成す術のない状態で、建物の中にいる方が危険と感じたのでしょう。慌てて外へ飛び出してきました。

結構いますね、5000人ぐらいいますか。まぁ何人いても関係ありません、兵隊は殺さないのですから。潰す対象は木造の建物。演出効果を高めるためにファイヤーボールをズラッと展開します。サッと手で払うといっぺんに弾けます。ファイヤーボールは次々に着弾してあっという間に全ての建物を燃やし尽くしました。

最後に水を並々と湛えた大きな水瓶を5つと塩の詰まった瓶を1つ置いてきましたよ。水と塩があればなんとかなるって言うじゃない。心優しい残酷な天使からの慈悲争いの種です。水瓶にしろ塩の瓶にしろ持っては動けませんからね。頑張って生き延びてくださいね。


明日は3日目、南西の森を開いたところにある駐屯地でも訪問しましょうか。


**********


「皇帝さん、今の気分は如何かしら」

「貴様は……」

「斬りかかってもいいですけど、無駄ですよ。銃も同じですから。それより今日の実績と明日の予告です。

もう連絡はありましたか?モルーマの方に進軍していた5000人ぐらいの部隊だったかな、全部潰しときましたんで。でもね兵隊は死んでませんから。丸腰で持ち物は何もありませんけど。でも水と塩だけは置いてきてありますから、救援に行くなら急いだ方がいいと思いますよ。

明日ですけど南西の森の中の施設を訪れたいと思います。よろしくお伝えくださいね」

「待て、貴様本当に潰しているのか」

「あれぇ?作り話だと思ってるんですかぁ?心外だなぁ。って言うかぁ、現地の情報入ってこないんですかぁ?それでよくやってられますねぇ。それだったらこうやって次の予告する意味ないじゃないですかぁ。明日から予告止めていいですかぁ?別にここに来るのは大変じゃないんですけどぉ、現地の兵隊に知らせられないんじゃしょうがないですものねぇ」

「貴様、何の目的で」

「だから言ってるじゃないですか。あなた達は神に喧嘩を吹っ掛けたんです。言うなれば神とトルディアの戦争ですよ。まぁ直接神様が大暴れするなんてできませんから、こうやって私が遣わされてるんですけどね。だから私は神の代理、分かった?」

「なら今ここで貴様を討てば」

「それ無理だから。明日は向こうに行ってくるから。あともう暫くは、って言っても2~3日はって事だけど、帝都の中の施設の訪問はしないでおいてあげるから。そうだな、3日は約束しましょう。それまでは遠くの施設の慰問にでも行きますんで。じゃぁね」

バンバン撃ってきましたよ。当たる訳ないんで気にしないでお話ししましたけどね。


**********


「ここが今日の聖地戦場なのね」

森の中の一角が綺麗に整備されて、高い塀で囲まれた軍用地。兵の中の訓練場では兵士たちの訓練が行われています。

でも何か気になるんですよね。国境の山まではまだだいぶ離れているし、近くに街もない。まるで流刑地。

流刑地?そうか、気になっていたのはカルシュクとなんか似ていたから。と言うことは連中ここでもやってるのか。


カルシュク。私にとって悲しい事件のあった場所。私の事をパーティーから放り出した張本人が殺された所。悪魔の薬、禁忌の薬、魔薬を闇で精製していた所。

ここも同じ匂いがする。間違いないと思う。連中ここでもやっ精製してる。


魔薬の原料で周囲を探してみると、出てくること出てくること。森の中に大小いくつもの畑らしきものがあります。きっとそこで栽培しているんですね。とりあえず片っ端から潰しますか。

ほんとに不味いものは回収したんですけど、これどうしましょう。後で焼却処分ですかね。畑はメチャメチャに荒らして大きめの石をゴロゴロと混ぜておきました。そんな石を混ぜたら環境に影響が出るって。この石は自然の石ですよ、トンネル工事の時に出た大量の土砂の一部ですから。それにこれぐらいなら影響ないんじゃないかなぁ、ね、精霊さん。………。大丈夫だって。


最後の畑に手を付ける前にあそこの兵士さんたちにお知らせしといた方がいいかなって思って、狼煙って言うか煙を上げてみました。たき火しただけなんだけど。

「何だあの煙は。畑の方じゃないのか」

「急いで見に行くぞ」

出てきましたね。5人ですか。戻って証言してもらいましょうかね。

「誰だお前は。こんなところで何をしている」

「旅の者なんですけど、一休みさせてもらってるんです。兵隊さんたちはどうしたんですか」

「煙が見えたからな。森が燃えると大変なことになるから見に来たんだ」

「ご苦労様です。あと、これ、魔薬の草ですよね。いいんですか、こんなとこで育てていて。ギルドに報告しないといけないやつですよね」

「お前、知ってるんだな」

「私そろそろ行きますんで」

「待て、どうやらお前を生かしておく訳にはいかなくなったようだ。悪いが死んでもらうぞ」

「はいどうぞ、なんていう訳ないじゃないですか。とりあえずこの草は危ないんで預かっておきますね。あとこの畑もこうやって使えなくしておきますから」

石を混ぜて上からギュッと固めます。そんなことしたら草も生えないんじゃないかって?植物の力はすごいんですよ。これぐらい植物にとって邪魔されたうちに入んないんだから。

「死にやがれっ!」

剣による攻撃も銃撃も一切効きませんから、好きにしてくださいって感じなんですけど。

「もしかして襲ってくるって事は兵隊のカッコをした盗賊さんたちですか。魔薬の証拠のために集めただけなのに襲ってくるなんて。本物の兵隊さんだったらそんな事しませんよね」

「おちょくりやがって」

「近くに軍の施設があったと思ったから助けてもらわなきゃ」

森の中を走り抜けます、もちろん身体強化をかけてね。あっと言う間に兵士たちを撒きました。後はいつも通り、の前に彼らが戻ってきて色々報告するのを待たないとね。


「なんだと。畑を潰した女がこっちに向かったって。そんな奴来てないぞ」

いい感じで慌ただしくなってきましたね。そろそろ第3幕の開演です。

「人間の皮を被った悪魔ども。お前たちのやっていることなど全て御見通しなんだよ」

凄んでるんですけど、見た目二十歳の小娘アラフォーおばさんなんですよね。

……。言いたいことは山ほどあるけど、後で纏めて言うから首洗って待ってなさいよ。逃げるんじゃないわよ!

ちなみに天使の羽は着けていません。忘れちゃっただけなんですけど、今日はちょっと怒り具合がハンパなかったんで。


「今日は容赦しないから。アンタたち死ぬかもしれないけど私の知ったことじゃないから。まずはアンタたちのもの根こそぎ頂くから覚悟しな」

これじゃどっちが盗賊だか分かりませんね。

正に根こそぎです。この基地にある物全て。もちろん薬も。材料から精製に使う道具から完成品に至るまで全て。もちろん兵站も。食糧から何から何まで全て、すっからかんです。でも怒りはまだ静まりません。ディートを殺した魔薬。魔薬に手を出した連中。ついには身ぐるみまで全部剥いでしまいました。下着だけは残したよ、見たくないから。

「死にたくなかったら訓練場で神に祈ってな。皇帝が喧嘩を売った神にね。今日は虫の居所が悪いからどうなるかわかんないからね」

下着1枚で必死に神に祈りを捧げる兵士たち。私がその神の鉄槌を下しに来たんだけどね。

兵舎を亜空間で囲って、ギュッと潰します。丈夫に作られたはずの兵舎が脆く崩れ去っていきます。次々と建物が崩れ、瓦礫の山だけが残ります。最後の建物が崩れ去った後には、立派な塀に囲まれただたっぴろい荒野に、みすぼらしい姿の兵隊が佇んでいただけでした。ファイヤーボールを使わなかったのは森の中だから。森に火が移ると大変なことになるからね。

「ふーっ、少しは怒りも収まってきたかしら。そういえばあの塀も邪魔ね。あれの処分が終わったら帰りましょうか。今日は皇帝を問い詰めなきゃいけないようだし」

全ての塀が崩れ去ると、森との間に遮るものが何もなくなりました。

「じゃあね、せいぜい生き足掻くんだね。魔法が使えれば何とかなるんじゃないの」

魔法が使えれば、です。だって神様の方は副官が精霊神様のエリーさんだからね。


**********


「チョイと皇帝さん、アンタ今日私が行ったところで何やってたか分かってるわね」

「ふんっ、何のことだか」

「これね、あそこで見つけたものなんだ。アンタだったら分かってるはずだよ。そうねぇそこのオヤジ、こっちいらっしゃい。そうだよ、そこの禿げたオヤジ、アンタの事だよ」

キョロキョロしています。まさか自分が呼ばれるなんて思ってなかったみたいです。

「早くこっちに来て、これ飲みな」

「止めろ、飲むんじゃねぇ。飲んだら死ぬぞ」

「なんだアンタ、これが何だかわかってんじゃん」

「当たり前だろ。俺が指示して作らせてるんだからな、魔薬を」

「徹底的に潰してきたから。周りの畑もね。兵隊は殺しちゃいないけど、丸腰、下着1枚であの森でどうするんでしょうね。

宣言します。3日後、私はここに来ます。帝都の中のどこかの施設を潰しにね。首を洗って待ってらっしゃい」


**********


ミーアさん、アナタ人格変わってませんか?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


忘れてた。

そういえば最近、私の扱い酷くない?

私ってさ、ほら華奢ペッタンコ可憐豪快繊細大雑把なんだから、もっと大事に適当な扱ってよ扱いでいいのよ


そういう所だって言ってるの、マジで怒るよ(プンプン)。



ペッタンコじゃないもん。ちゃんとあるもん。

(推定でB、もう少しでCと言う所でしょうか。そういう意味では成長してますね。そういえば身体つきも女性っぽくなってきてるんですね)

だから、個人情報だって言ってるでしょ!



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