第162話 飛行隊創設(後編)
開発と試験を繰り返しながら1年後、ついに完成しました。安定して飛ばすことが出来る飛行用の魔道具が完成したので、量産も可能になりました。
で、どれぐらい出来たのかと言うと、100人ぐらい乗れる大きいやつが2機、10人ぐらい乗れる小さいのが5機、軍に編成されるのが2種類で合わせて40機。ずいぶん頑張ったよね。
この飛行機、まっすぐ上に上がってから飛ぶこともできるんだけど、乗ってみたら乗り心地が悪いのよ。まぁいざというときにはそういう事もできるってことで、普段は飛行機が飛びたてる広いところで少しずつ離陸するようにしました。乗る人が一番だからね。
ポルティアには適当なところがなかったので、フロンティーネの壁の外、演習場の先辺りに大きな飛行機の発着場を造りましたよ。ええ、街の開発や土木工事はお任せくださいって感じですから。
本格的に飛行機を運用するのなら、王国の中にいくつかの発着場を造らないとダメね。この工事ぐらいだったら請け負ってもいいかな。
操縦士は全員領軍兵士です。適性のある者の中から希望者を募って、訓練に次ぐ訓練。今日も30人の兵士が訓練中です。
全部で50機ぐらいあるのに何で操縦士が30人しかいないのかって?
軍用の機体は20機がミルランディア領軍用、残りの20機はグラン
4機で1部隊、4部隊で飛行隊って感じで編成してみたの。それに隊長機が1機で全部で17機、予備機が3機で20機ね。隊長機だけはちょっと性能が高めです。普通のが飛行用の魔道具1つなんだけど、隊長機はちょっと小さめのやつを2つ載せてあるから性能は段違い。正に隊長機って感じの仕上がりです。ちなみに武装は積んでいません。みんな2人乗りですから魔法使いでも乗せればいいんじゃないですか。領軍もかって?飛行機に積める小型の魔導砲の開発は終わってますよ。
「グランフェイム軍務卿、お話があるのですが。お時間を頂けないでしょうか」
「おう、ミーア。なんだ畏まって」
「内々でお話したいことがありまして」
「時間ってどれぐらいかかるんだ」
「1日……ですね」
「分かった。今からでも大丈夫か?」
「えっ?伯父さん仕事は?」
「俺じゃなくてもできる仕事は無理に俺がやる必要はない。誰かできるやつがやっとけばいいんだ。そもそも俺がこんな書類仕事に向いていると思うか?こんなのはこういうのが得意な奴に任せておけばいいんだよ。それよりミーアの話は俺しかできないことなんだろ。ならやるしかないじゃないか」
デスクワークが嫌いなのも強引なのもグラン伯父さんですからね。
「おいっ!俺はちょっと席外すから、これ片付けといてくれ。今日は戻らんからな」
「「「えー――――っ!!」」」
「では行くか」
「………」
「伯父さん、見てほしいのはこれなんです」
「これは……飛翔具か」
「ええ。今は飛行機と呼んでいます。以前は私しか作れませんでしたが、この機体は工房で作った物です。実際に飛んでいるところを見てもらった方がいいですかね」
「お願いしたいな」
ミルランディア領海軍航空隊が一斉に飛び立ちます。ウチはねこの航空隊を海軍の一部として編成したのよ。ほらうちって森ばっかで飛行機飛ばしてもひたすら森しかないから。そこ行くと海はね、海賊があったり魔物が出たり、遭難したりってやることがいっぱいあるでしょ。だから。
「全部で17機か」
「ええ。先頭が隊長機で、その後ろの4機1部隊を4部隊。これがうちの領軍航空隊です」
「で話しとは。まさかこれを見せたかったっていう訳じゃないだろう」
「ええ。これと同じ編成がもう一つあります。国軍で編成するというのであれば相談に乗ろうかと」
「これを軍で運用するとなればどのようになるんだ」
「その前に一つお願いがあります。この飛行機を侵攻作戦には使って欲しくないんです。そう遠くない未来に他の国も飛行機を持つことがあると思います。その国がヘンネルベリ王国や友好国を侵略しようとした時、それらの脅威から守るために使うようにしてほしいんです」
「ミーアが他国を攻めるのを嫌がっていることは分かっている。俺が生きている間はそんなことはさせないと約束しよう」
「分かりました、それで十分です。飛行機の特徴はとにかく速い事です。地形の影響をほとんど受けませんから、ここから王都まで30分ぐらいで着きます。あと空から攻められると地上の軍隊は十分な力を出せないという事です。これはアズラート戦で実証済みです」
「いくらぐらいかかるんだ」
「そうですね、流石にタダって訳にはいきませんけど、格安で納めますよ」
「商売上手になったな。操縦士はどうするんだ」
「こちらで訓練を行いますよ。あと向こうに見える軍用機ではない飛行機が見えますよね。あれ10人乗りの飛行機なんですけど、あれも3機ぐらいお譲りしようかと」
「ありがたい話なんだが、どのように使うかだな」
「操縦士だけ軍で育てて、
「まだなんかあるんだな」
「ええ。こちらへ……」
「ずいぶんと大きいな」
「100人ぐらい乗れます。これをヘンネルベリ王国内で運用しようと考えているんです」
「乗り合いのクルマと競合しないか」
「するでしょうね。って言うか確実にしますね。その乗り合いの最大手もウチなんですけどね。でも乗り合いには途中で下りられるという利点があります。それにこの飛行機、今は2機しかないんです。2機いっぺんに運用することもあると思いますけど、基本は1機での運用ですからそんなに数が出せないんです。この飛行機1機に乗れる人の数と乗合のクルマ数台に乗れる人の数って大差ないですから、運用に掛かる費用を考えるとかなり高くなっちゃうんですよ。初めの頃は人気になると思いますけど、落ち着いて来ればそんなでもないと思いますよ」
「これも王国で……」
「いえ、これはミルランディア領の事業です。この飛行機の事業って採算が大変なんです。勝手に他の貴族とかに売れないでしょ」
「勝手に売られては困るな。そこは国の許可制にしなくては」
「なのでこの飛行機事業を続けるためにも旅客機の運用はウチでやらないとダメなんです。ウチがダメになっちゃったら国軍の飛行機も飛べなくなっちゃいますよ」
「ならその飛行機の事業自体を国で引き取ると言ったら」
「目茶苦茶高いですよ」
「お前のところは潤っているように見えるんだがな」
「陛下もそう言ってましたけど、ウチのやり方は領政府の負担がハンパじゃないんです。農場なんかは収穫がない時でも給金を払わなければいけませんから。今農場で働いている人って2500人ぐらいいるんじゃないかな。その人たち全員にですよ。更に大きな工房とその下にある小さな工房なんかも同じです。領政府が直接経営しているからみんな安心して仕事をしてくれています。だから私はその気持ちに応えるためにも稼がなきゃいけないんですよ。だから手掛けた事業は手放せないんです。手放す場合は将来にわたって得られる分をいただかないと」
「しっかりした奴だな。敵に回すと恐ろしいわ」
「陛下と同じこと言うんですね」
「ただお前の事を疎ましく思っている輩も多いからな。十分に気を付けるんだぞ」
「大っぴらには動けないでしょ。ここの立地ってトンネルにしろ山越えにしろグラハム辺境伯のところを通らなければならない。でもあそこにはアンジェリカ伯母さんがいるんですよね。それに北にしろ南にしろ魔物の棲む森が広がってますから。海からポルティアをって言ってもウチの領海軍に敵うとこってあります。私は仲良くしたいと思ってますから。でも殴られたら全力で殴り返しますよ」
「お前はそう言うやつだからな。優しいんだか容赦ないんだか分からん奴だからな」
「優しいんです」
『ミーア、異界の兵器が使われたみたい』
『……っ!』
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