第160話 魔素魔力変換器

「ミルランディアは歪から出てきた機械兵器や古代遺跡の遺物をどうするつもりなのだ。ずっと封印しておくつもりなのか」

「いいえ、使えそうな技術は少しずつではありますけど広げていくつもりです。直接武器や兵器になるようなものは広めませんけど。平和って言うか生活を豊かにするようなものから徐々にって感じですかね。生活を豊かにするものも使い方によっては兵器になってしまうのは仕方ありませんけど」

「いいのか?ミルランディアが広めたものが争いに使われるのだぞ」

「仕方ないじゃないですか。クルマだって魔導バイクだって生活は豊かになりましたよ。でもこれを軍が採用しています。馬車より早く多くの兵站や兵士を運ぶことが出来るようになりました。基地の間の情報の伝達も通信の魔道具を使えばあっと言う間です。便利なものって誰がどのように使っても便利ですから。使う人が間違えないようにすればいいと思うんです」

「それであればスティルガノ様も気にはしないだろう」

「そのスティルガノ様なんですけど、教会でそれとなく聞いてみたんですけど誰も知らないみたいです。神と言えば女神サファールと後は龍神様ぐらいですね。でもそんなことでスティルガノ様は大丈夫なんでしょうか」

「もはやスティルガノ様はこの世界の民のことなど考えてはいないからな。穏やかにしていればよし、欲に塗れ度が過ぎたところは罰を与える。すでに人間への興味を失っているので、今更神として祀られなくてもなんとも思わないそうだ」

「悲しいですね。せめて私だけでもスティルガノ様に祈りを捧げようと思います」

「それがいいだろう。スティルガノ様もミルランディアの事は気に掛けているみたいだしな」

「それはどういう意味で?いつか潰すためですか?」

「そうではない。ミルランディアには干渉しないと言ってたからな。竜と精霊のいとし子、面白い存在ではあるからな」

「まぁこれからも龍神様にはいろいろと相談に乗ってもらう予定ですから」

「そういえばミルランディアは精霊神の事をエリーと呼んでいるそうだな」

「精霊神様にそう呼べと言われたものですから」

「ならこれからは私のこともドラーガと呼ぶように。家族なのだからな」

「ドラーガ……様……は?」

「家族の間で様を付けて呼ぶのか」

「ええい、わかったわ。じゃぁ私の事もミルランディアじゃなくってミーアって呼んでね、ドラーガ」

「ミーア、だな」

「ところで相談なんだけど、遺跡で使われていた魔素を魔力に変換する技術と、少ない魔力で効率的に動かす技術、機械兵器で使われていた魔素をエネルギーに変換する技術を実用化したいと思うんだけど、どうでしょう」

「エネルギーの分野か。生活を豊かにするためには欠かせないが軍事転用もしやすい分野だな。それらでどうするつもりなのだ」

「夜の街に灯りをつけたいんです。大きな街でも夜になると大通りでさえ薄暗いところがまだまだあります。薄暗いと犯罪も起きやすいので、少しでもそういう所が減ればと。後は飛翔具、あれを実用化したいと思っているんです」

「あれは元から兵器ではなかったか」

「兵器から始まったんですけど、移動の速度と言う点では比べようがないんです。兵器であってもこの地域の安定の為であれば必要ですし。まだ実用化できるって決まったわけじゃないですけどね。魔法の効率化の技術次第ですし、私しかできないのであれば止めますよ。やり方が分かって今の技術でできるのであれば私的にはそれが一つの基準です」

「今の技術でできる、か」

「古代の技術や異界の技術は今のここの技術にないものが多いです。訳も分からずに使うのはよくありませんが、たとえその一端でも理解したうえで再現できるのであれば、その技術力は認めてあげたいんです」

「この世界の安定と発展か。好きにやればよい」

「ありがとう、ドラーガ」



魔素を魔力に変換する技術、確かに魅力的な技術ではあるんだけど、これってほぼ無限に魔力を使えるってことよね。魔力が枯渇したところでは竜は活動が出来ないって言ってた。人間は?分からないなぁ。

『龍が活動できないほど魔素が少なくなったところだと人間は生きてられないよ』

『えっ?私大丈夫だったよ』

『だってミーアだもん』

『もしかしてドラーガったら、そのことを知ってて行かせたのかな』

『恐らくそうね』

『まったく』


いろいろ調べた(いっぱい実験もしたからね)ところ、普段の状態を100とした時、魔素の濃度が90ぐらいになると体に異変が現れるようでした。頭痛、めまい、吐き気、気怠くなったりとかです。更に85ぐらいになると動くことも困難になりました。結構普通に生活できる幅って少ないんですね。多くてもダメなのはスタンピードの時に経験してましたから。

と言うことは、私はモルーマに行ったときって、あそこ10ぐらいだったよね。私じゃなかったら確実に死んでるじゃん。って言うかあそこに生存者がいなかった理由ってこのこともあったのかも。


いろいろ分かったことだしそろそろ魔道具の作成に移りますか。安全策を2つ付けることにしました。一つは魔素の濃度によるもの。98を下回ったら変換できなくします。もう一つは時間当たりの変換量の制限。これを上限200にします。規格外の化け物からすれば微々たるものだけど、魔法騎士団に入れるぐらいの魔力だからね。ねぇちょっと、アンタ私の事どう見てるの!

あとここ大事なとこね、魔力って人や魔物のような生き物の体の中と魔石にしか貯められないのよ。しかも人の体に魔力を補充するための方法は自然回復とマナポーションによる回復だけ。マナポーションを作るのに魔力の貯まった魔石を使うこともあるけどあまり一般的じゃない。つまり何が言いたいのかと言うと、この魔力変換器を作っても貯められるのは魔石だけで、人の魔力回復には直接使えないってこと。しかも魔石の大きさによって貯められる魔力の量も異なる。スライムの魔石で5~8、クラーケンクラスで800~1000ぐらい。オークぐらいだと100も行かないわね。つまり変換した魔力を貯めておく魔石が足りないから、せっかく変換した魔力も放出するしかない。放出された魔力は魔素に戻っちゃうから環境に影響はない。


これが思いのほか苦労したんですよ。何がって言うと、これ魔道具じゃないですか。魔道具だから動かすためには魔力が必要ですよね。初めの頃は魔道具が変換して作り出す魔力より魔道具を動かすのに使う魔力の方が多かったりして、せっかく作った魔力がそこにあるのに使えないって言うジレンマ。ホントぶん投げたくなったわよ。

魔素をエネルギーに変換していた異界の技術は今の時点では使えませんでした。魔素を制限なく取り込むなんてことしたら大参事間違いなしだからね。

遺物を調べていったらあれ変換した魔力をそのまま使ってたのよ。やりようがあるって分かっただけで大収穫だったわ。でもね、魔法陣を改良してみたんだけどどうしてもできなかったの。でもそこは天才ぶっ壊れの私、魔法陣を2つ用意すればいいじゃないかって。

後はトントンだったわね。変換器は10台作ったわ。フロンティーネに2台、ポルティアに3台、カルセアに2台、王宮に3台って感じかな。ポルティアは船の運用が多いから魔石の需要が多いんですよ。王宮の3台のうち1つか2つは魔導騎士団で使うんだろうな。


もちろん生活のためのものも作りましたよ。一つは夜の道を照らす灯り。灯りを点けるだけなら魔力なんてほとんど使いませんから問題ありません。たとえ街中に1000台の灯りを点けたとしてもね。

もう一つは低温冷凍保管庫。これはどちらかと言うと富裕層向けだね。今ヘンネルベリ王国では道路の整備が進んで、流通革命が起きているんですよ。採れたての野菜や魚がその日のうちに王国中にいきわたる。新鮮な魚や肉、野菜が食べられるようになるんだよ。美味しく食べたいと思うじゃん。傷みやすい食材もこの保管庫に入れておけば長持ちするとあって、大好評ですね。あとは荷物を運ぶ車用のやつね。鮮度を落とさずに運べるようになっったって。


低温冷凍保管庫をどこで売ったかって?そんなのもちろん『ミル薬局』よ。売り出しのその日から大ヒット、生産なんて追いつきませんって。そんなてんやわんやの中駆けつけてくれたのが魔導ギルドでした。早い話儲かりそうだからうちらにも作らせろって事なんだけど。肝となる部分(魔力変換と冷風発生の部分)はウチで作って封印して渡すということで、ギルドでの生産も始まるみたいです。頑張ってね。ってウチの工房にもハッパかけとかないと。


「陛下、魔力変換器ってどうです?」

「便利なものだな。今までは魔力のあるものが交代で魔石に魔力を込めていたが、それをあの魔道具がやってくれるのだからな」

「仕事取っちゃいました?」

「王宮の中だけだから問題ない。魔力を込める仕事より大切なことが王宮の中には山のようにあるからな」

「ならよかったです。それを仕事にしていた人がいたら悪いことしたかなって思ったんで」

「灯りの魔道具も設置を始めたところだが、衛兵たちの評判は上々だ。通りが明るくなれば夜の犯罪も減っていくだろうからな」

「そこのところを何とかしたくて今回の魔道具を作ったようなもんですからね」

「あの低温冷凍保管庫もなのか?」

「灯りもそうなんですけど、今回の魔道具って動かすための魔石を使っていないんですよ。ここだけの話なんですけどこの辺りに沢山ある魔素を使って動かしているんです。でもこの魔素を一度にたくさん使い過ぎると人の体に影響が出ることが分かっていて、問題のない範囲いうことでこれらの魔道具なんです」

「魔石を使わずに動くということは、ずっと使えるのか?」

「5年から10年で壊れると思います。魔石を使うより複雑ですから。それに魔力に変換するところの部品の消耗が結構あるんですよ。今より何十倍も高くなっていいというのであれば、高価な素材をふんだんに使って50年ぐらい持つようにできるかもしれませんが、あまり意味ないですよね」

「そうだな」

「灯りですけど、10万個は無償で提供しますね。それ以降の追加分と壊れた時の交換用、他の街に設置するものについては予算を組んでお願いします」

「またミーアのところが儲かるのか」

「ウチは収入はかなりありますけど、支出もすごいんで他人が言うほど裕福って訳じゃないですよ。領民に支払う給金が凄いことになってるんで」



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