第159話 何度目の開発ですか

「アルトーン、いる?」

「はい、領主様」

「カルセア島に農場を作ります。500人から1000人ぐらい集めといてくれる。集合住宅を用意しておくから。あと農政局と住民局の支部を向こうに作るからその人たちも」

「また開発ですか」

「そうね。暫く向こうにいることになるわ」

「承知しました。商店はどうしますか」

「移住相談所を開いて対応するでいいでしょう。当面はミル薬局で面倒を見るわ。2か月後に移住を始めるから、それまでによろしくね」


島で生産するのは米、麦、豆、芋が主なもので、後は気候に合った果物とかですね。ゆくゆくは豚、牛、鶏、羊なんかもやりたいと思っています。肉は魔物から採れるんだけど、安定的に供給するとなると畜産も欠かせないからね。特に牛と鶏。乳と卵は沢山あった方がいいもんね、特にデザート系で。


基本的に作りはどの街もあまり変わりません。

魔物除けの塀を廻らせて監視用の砦と出入り用の門を造ります。今回は農場ですから結構広く取ります。

区画整理を行って、農場には水路の整備、住宅地には水道と下水の整備。役所を建てて官舎も合わせて作ります。道路の整備が終わればガランとはしていますがなんとなく街っぽく見えます。

何度も繰り返しやって来たためか幾分慣れた手順を淡々とこなしながら街づくりを進めていきました。


「ミルランディア様に面会したいという者が見えていますが」

「今日って面会の予定ってあったっけ?」

「いいえ。その者は以前お世話になったとかで、ジンだかジョンだかと言ってました」

「ジン?誰だろう。応じますんで通しておいてください」


「ミルランディア様、その節はいろいろとあありがとうございました」

カルセア島の調査隊にいたジョンね。思い出しました。

「でどうしたの」

「あの遺跡の本格的な調査のお願いに参りました」

「そう言う事ね。約束をしたことだからいいでしょう。でも今私は島の開発に忙しくて同行はできません。5日間の猶予を与えます。その間の成果を提示してください。成果の結果を以って調査の継続を判断します。いいですね」

「5日間ですか……。分かりました」

「準備もあるでしょうから、1週間後にポルティアに来てください」


ナビちゃんとも話したんだけど、あの遺跡については公にはしない方がいいということになったんです。流石に危なすぎる玩具は与えられないと。

通路の先のいくつかの部屋には入れるようにしておきましたけど、中はがらんどうです。調査隊がどんな成果を出してくるか見ものですね。



「ミルランディア様、これが今回の調査の成果になります」

「見せてもらうわね。………そう、ご苦労様」

「で、調査の継続については……」

「必要ありません」

「そんな。申し越し時間を頂ければ、きっと……」

「そうですね。思うような結果が出なかった人の言い訳はいつもそうです、『もう少し時間があれば……』。与えられた時間の中で結果を出す。それが仕事ではないのですか。私が貴方がたに与えた時間は5日間、その間の調査で見つかった物が4つの部屋。でもその部屋の中には何もなかった。部屋もそれ以上は見つかっていない。であればこれ以上の調査は必要ないじゃありませんか。それでは逆にお尋ねします、どれだけの時間をかければ成果が出るのですか」

「1年、いや半年で」

「その根拠は」

「……」

「そもそも1年が半年に短縮された時点でおかしいと思いませんか。しかも根拠もなしに。この報告書によれば行ける範囲は全て調査したとなっています。そんなところに半年もこもって何を調査するのですか」

「ですから別の地点での調査を」

「ジョン、あなたたち分かっているのですか。あの遺跡はあなた方が見つけた遺跡ではないのですよ。偶然私が気になったところを調べに行くのにあなたたちを連れて行った。それだけの事なんです。あなた方のあの場所の調査では、何もないとの報告だったのです。ならもう分かっていますよね、あの場所を調査して何か出てくるのですか」

「……いえ。……しかし…」

「あなた方も知っているとは思いますが、この島は私の領になりました。そして今この島は大きな農場を造りヘンネルベリ王国の食糧供給の要としての役割を始めようとしているのです。そんな時期に部外者がうろうろしているのははっきり言って迷惑なんです。調査の結果は何もないとのことであるなら、それを真摯に受け入れるべきではないのですか」

「なら私をミルランディア領の領民としてください。その上で調査、発掘の仕事を……」

「お断りします。あなたのような自分勝手な方は他に興味が移ればすぐにそちらへ行くでしょう」

「どうあっても調査の継続は認めていただけないと」

「この島の遺跡の調査はすべて完了しました。これ以上の調査は必要ありませんし、今後この島での遺跡の調査が再開されることもありません。いいですね」

「……承知しました」

「一つ忠告をしておきます、これまでの話を無視して調査・発掘を手掛けるというのであれば、不敬罪に問われることもあると覚えておいてくださいね」

「……」


実際あそこは管理者室コントロールルームともう1本通路が繋がってただけで、物置のような部屋が4つだけの場所だったんです。管理者室との扉と通路は隠蔽してあったから、何も見つからなかったというのは本当の話だったんです。

ジョン達の前で竪穴も埋めてしまいました。最後まで残念そうにしていましたけど。

今回の調査について憶測などを交えずに事実のみであれば結果の公表を許可しました。公表しなかったようですけど。堂々と成果なしを発表するのは出来なかったのかな。



その後、予定通り移住が始まりました。1000人からの移動ですからそんなにすぐには終わりませんけど。

それにしてもウチの役所の職員って優秀だね、住民の登録なんかあっという間に住んじゃってるし、畑作業も三日後には始まってるんだから。

カルセア島がヘンネルベリ最大の農産地になるのはもう少し先の話。



遺跡の件はどうしたのかって。もう終わり?

まさか。せっかく管理者にまでしてもらった大事な玩具を、そのままほったらかしにしとく訳ないじゃん。

入口には私の別荘を建ててあります。領主邸とは別ね。別荘だから。領主邸は別のところにあります、街の中にね。


ミルランディア領については領主が変わることはまずないと思いますからねぇ。よっぽどの事でない限り私ってば死ななそうだし、王族の一員ですからヘンネルベリのためにいろいろと動きますから。王国にとってもミルランディア領が大事なのはわかっているんで他に任せるようなことはないので一応は安泰でしょう。別荘にしたのは領主邸より自由がききそうだったからですけどね。



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