第158話 雑談(フラグ付き?)

**********(side トルディア帝国)


「これが報告にあった物か」

「はい。どうやら兵器らしいとのことです」

「これが……」

「全部で3つ見つかっております」

「見落としはないか」

「虱潰しに探しましたが、これ以上はないようです。モルーマとの国境近くで見つかった物ですから、国境付近は特に重点的に調べました」

「直せるのか」

「直してみせます」

「期待しているぞ。調査、研究の方も進めておけ。モノによっては量産をするぞ」

「はいっ!」


**********


「不作、なんですか?」

「ああ、全国的に収穫量が悪いらしい。特に北の方がな。飢えで死者が出るほどではなさそうだがな」

「それで安定のために王国政府が食料の調達をしてるんですね」

「と言っても調達先は限られているからな。政府もあまり金がある訳ではない。商会に借りを作る訳にもいかないのでな」

「アルトーンに聞いてみてください。私がいなくたって大丈夫ですって。領政のことはアルトーンが分かってるし、決済はバキューラがいるから問題ないし」

「任せっきりで不正でもおきたらどうするんだ」

「ウチは王国一貴族に厳しく平民に優しいとこよ。ばれたら職を失うどころじゃないから。どんなに巧妙に隠したって隠しきれるもんじゃないから」


「で、モルーマはどうだったんだ」

「会議で報告しなくっていいの?」

「内容次第だ」

「モルーマの都は全滅。人の気配もないし建物は全て崩れ去ってたわ。地方の街も概ね似たようなものね。小さな村はひっそりと暮らしているところもあったわ。国としては亡んだでいいと思うわ」

「原因は分かったのか」

「サウ・スファルで魔物の異常発生があったでしょ。あれと似た感じ。でも規模が全然違うし、サウ・スファルではハイデルランドの魔物が溢れてきたけど、モルーマでは異界と繋がったみたいで、それの影響もあって亡んだって言う所かな」

「収まったのか」

「一応はね。竜たちが歪を治してくれたから。脅威になりそうなものはみんな取り除いたんで、これ以上は何も起きないと思うわ。ただ広大な空白地が生まれたわけだから、それこそトルディア帝国辺りが動くでしょうね」

「止めることは」

「無理ね。そもそも国境も接していないんだからウチは何もできないわ。それに拡大路線、覇権を握らんとするトルディア帝国でしょ。戦わずして得られる土地なんて見過ごすわけないじゃないの」

「と言うことは静観だな。あとミーアがらみだと……カルセア島はどうしてる」


「まだ手付かずですね。リゾートはやるとしても最後ですね。それよりあの島結構な広さがあるんで、大規模な農場を作ろうかと考えているんです。このところ魔物や病気、天候などで不作が結構あるじゃないですか。多分不作ってヘンネルベリだけじゃないですよね。周辺の国も似たような感じだと思うんです。ヘンネルベリはミルランディア領があるから何とか持っていますけど、他の国は結構追い込まれていると思うんです。政情不安から来るので怖いのは戦争。せっかくこの周辺は落ち着いてきたのに、また戦争はゴメンですから。ヘンネルベリが経済力でこの地域を纏められるように、農業力でも力を持っておきたいと思うんです」

「そのための農場か」

「カルセア島でフロンティーネと同じ規模の農場が出来たら、この国で必要な農作物の1.5倍はミルランディア領で賄えると思います。もちろん他の貴族領でも農作物の生産は続けるのですから十分に他国に売れるだけの作物があるという事です」

「そういう事なら是非進めてくれ。人はどうするんだ」

「フロンティーネから移しますよ。そうでなくても人が入ってきてるみたいですから」

「ミルランディア領では食べるものに苦労しないという噂話が平民の間でも広がっているからな。これからは人も増えていくだろう」

「領民を餓えさせないためにこっちも必死ですよ。でもウチの人が増えるってことは減ってるところもあるっていう事ですよね。大丈夫なんでしょうか」

「それは領主が考えることだ」


「あとは新しいエネルギーの研究をしたいと思ってます」

「新しいエネルギーとは?」

「まだ具体的には見えてないんですけどね。今エネルギーと言えば魔石じゃないですか。クルマも魔道具もみんな魔石で動いてます。でも魔石は魔物からしか採れません。大きな魔石はとても高いでしょ」

「それはな。高いレベルの魔物からしか採れないからな」

「高いのは冒険者が命懸けで採ってくるからです。やっとの思いで採れた貴重な魔石、その魔石にどんな値段を付けてでも手に入れたい貴族たち。値段が吊り上がるのは当然です」

「クルマには結構大きな魔石が使われているようだが」

「動力用の魔石ですよね。ホントはあんなに大きくなくてもいいんですけど、魔石にたまっている魔力の量がクルマの動ける範囲になるんで、あの大きさにしたんです」

「簡単に用意できるものではないと思うのだが」

「あれの原料ってクズ魔石ですから。クズ魔石って言うかスライムの魔石なんです。ウチにスライムの研究所があるでしょ。研究所で使うのはスライムの外側だけで、魔石は使わないからどんどんたまるんです。スライムの魔石って小さくて使い道がないんでゴミ扱いなんです。それを何とか使えないかなって思って試して、特別な炉と錬金術で作れるようになったんです。ただ本物の魔石と比べると貯められる魔力の量は多少少ないんですけど」

「そう言う大事なことは教えてもらわないと困るのだが」

「あれ、スラ研の成果なんですけど。それにその技術って世界の常識を変えるぐらいのものでしょ、値段なんか付けられないし世界中の国から狙われますよ。スラ研でも魔石の合成が出来る人は2人だけ。炉の設計は秘匿されてます。術師だけでは作れないし炉も作れない。つまりはフロンティーネでしか作れないんです、難攻不落のね。公にしなかったのはヘンネルベリを巻き込みたくなかったからです」

「だがな……」

「では陛下はその魔石をどうするつもりなんですか」

「人の手で作り出せるのであれば安く届けられるではないか」

「そうでしょうね。大きくて安い魔石が溢れれば魔石の価値は暴落しますよ。一部の収集家を除いて天然ものの大きな魔石以外は取引されなくなります。それで稼いできた冒険者は?そんな魔石の流通を歓迎する人ばかりじゃありませんよ。そういう人からは術師は狙われるわけですよ。今まで平穏に仕事をしていた人たちが。知らない方が幸せと言うことも沢山あるんですよ」

「………」

「公にするつもりはありません。圧力をかけてくるのであればクルマの動力用の魔石は外すしかないでしょうね。今で回っている分も順次回収です」

「脅すのか」

「余計な欲を出さなければ今のままですよ」

「敵なのか味方なのか分からないな」

「穏やかな発展を望んでいるんです」

「穏やかねぇ」

「間違っても軍を動かす何てことはしないでくださいね。私は今の状態がいいと思っているのですから」

「ミルランディアとミルランディア領軍を相手にはできないよ。味方にいればこれほど心強いものはないが、敵に回すとこれほど恐ろしく厄介なものもないからな。それに軍の半分はミルランディア側につくだろうしな」

「魔石の事は聞かなかったことにしてください」

「……あぁ」


「他にはヘンネルベリを中心にして周りの国との連携をもっと強くしたいなって」

「支配下に置くというのか」

「まさか。それぞれの国は国としてちゃんとやってもらうわよ。その上でなんていうかなぁ、もっと交流を活発にして仲良くなっておきたいのよ。初めは多少強引でも仕方ないと思ってる。でも交流が深まれば商人をはじめとしてその国の民の考えは次第に変わっていくと思うわ。そうなれば政府も認めない訳にはいかなくなる。ほらうちがアズラートに対してやったじゃない、後ろ盾になることで都合のいい友好国にするって。あそこまで露骨にはやらないけどヘンネルベリがなければ困るってなってもらえば、ある意味平定よね。そのためにもヘンネルベリとドレンシア、ヘンネルベリとアズラート、アズラートとサウ・スファル、アズラートとドルーチェ、ヘンネルベリから北周りでドルーチェに繋げて、ヘンネルベリを中心とした一つの大きな国家群を作るの。トルディア帝国が台頭してきて脅威となった時に、それぞれでは対抗できなくても力を合わせれば対抗できるようになるかもしれない。と言うより力を合わせて対抗できるようにしなきゃならない。この地域の安定のためにね」

「ヘンネルベリ経済圏か。悪くないな」

「欲を出さなければですよ」



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