第156話 モルーマの調査(後編)

「これは………」


飛翔具での移動です。ワープで移動できない所は飛翔具を使うことが多いですね。これなら天気が悪くても平気だし。

アズラート戦の後、私専用の飛翔具は弄りに弄ってあります。速度の向上は当然で、旋回性能も上がってます。飛行性能に限れば竜種よりも上回っていると思います。防御力や攻撃力は大きく劣りますけど。でも竜はやっぱりすごいです。あの図体であの飛行能力、体当たりしてもされても影響がない防御力。体当たりだけでも脅威なのに尻尾による攻撃にブレス。この地の王者と呼ばれる理由も分かります。

と言っても私の飛翔具も飛ぶだけじゃありません。光魔法を駆使した光学迷彩に光熱魔法の魔導砲を積んでいます。見えないように一気に近づいてピュンッです。

ワープが使えても飛翔具で来たことには変わらないんですけど。周りの様子を見るためにもね。ワープだと道中は分かんないから。


目の前に広がっているのは、一面瓦礫の山と化した都の後でした。建物は崩れ去り火災の後も数多く見られます。人の反応はありません。


「これ、魔物じゃないわね」

魔物の跡も見られない訳ではありませんが、この破壊の状況は魔物では説明がつきません。大きな地震が起きて全てが一瞬にして崩れ去ったというのが一番ピッタリくる感じなのですが、ドレンシアの商人は自信はなかったと言ってます。

「どうやら歪に巻き込まれたみたいね」

「どういう事?」

「丁度街のところに歪が出来たって事。いきなり空間がゆがむんだから街なんてぺしゃんこよ」

「これをスティルガノ大神様がやったの。こんなことがヘンネルベリで起こるはずだったの」

「スティルガノ様はそこまではしないと思うわ。偶然が重なった結果ね」

「それにしても……。歪の中心は宮殿のあった方か」


歪の中心は宮殿の少し先に会った何かの施設の跡辺りでした。


「やっぱり魔素少ないの?」

「そうね、普通のところの十分の一ってとこかしら」

全くない訳じゃなさそうです。

「これだと竜は近寄れないの?」

「近寄れないことはないだろうけど、大きく動きが制限されるわね。動くのも大変でしょうし、もちろんブレスなんか無理。長い時間留まっていたら動けなくなるかもしれないわね」

「じゃぁここで歪を竜が治すなんて無理って事?」

「そうね」

ここは今考えてもどうしようもなさそうです。引き続き街の探索を行います。


「これって爆発の跡みたいね」

街の中のあちこちで見られた破壊の跡です。大きな生き物によって壊された感じではなく、メテオ・フォールの魔法のような空から何か落ちてきた跡でもありません。大きな爆発がそこかしこで起こった感じなのです。

歪による破壊だけじゃないなにかも同時に起きた、そういう事ですね。


「これって、車輪の跡……。クルマ?」

この世界でクルマを実用化できてるのはウチとアズラート。ドレンシアやサウ・スファルでも少しは売ってるみたいだけど作ってる訳じゃない。モルーマやトルディアの詳しいことは分からないけど、郊外の街道の様子からするとそんなにあるとは思えない。でもここにあるのは確かに車輪の跡です。それもヘンネルベリのようなゴムではなく恐らく鉄。そして瓦礫であろうと走破出来る性能を持ったもの。

「これ、兵器じゃないの?」

「トルディアにはこんな兵器ないよ。どちらかと言うとあそこの軍備って偏ってるからね。魔導銃の開発は凄いんだけど、馬車に荷車だし」

「魔導銃って何?」

「小さな魔力で弾を飛ばす武器だよ。魔導砲を小さくした感じって言えば分かるかな」

「それを兵隊が持ってるってこと?」

「そうね。他にもクロスボウや魔法銃なんかもあるわ」

「クロスボウは分かる、使ってたから。魔法銃と魔導銃ってどう違うの?」

「魔法銃は魔法が撃てる銃。魔導銃から打ち出されるのは弾。属性を乗せることもできるけどね」

「なるほど。で、この車輪の跡はトルディアのものではないと」

「だと思うわよ。ついでに言うとモルーマのものでもないわ」

「じゃぁどこの?」

「それを調べるのがミーアの役目じゃなかったっけ」

「それはそうだけど……」


幾つかの車輪の跡は見つかりましたが、他にはこれと言った目ぼしいものは見つかりませんでした。

「一旦帰りますか」

「どうやって帰るの?」

「トルディアの様子を見てから帰ろうと思ってるわ」

偵察をしながらの飛行ですから、光学迷彩モードを有効にしています。この辺りで人に見られることなんかないんでしょうけど。

「ミーアっ!避けてっ!」

ナビちゃんの声に合わせて機体を旋回させます。すぐ横を何かが通過していきました。

地上の様子を見るのに気を取られ過ぎていたようです。こんな時こそマルチさんを使うべきでした。

「さっきのは何?」

「分かんないけど、撃ってきたみたい」

「光学迷彩使ってたんだよ。普通じゃ見えないのに」

「でも明らかに狙ってたからね」

「探しますか」


もう一度さっきのあたりを飛びます。もう一度撃ってきてくれれば場所が分かりますからね。

「ミーア、来たよ」

「分かってるって」

撃ってきたところも大体わかりました。後は地上から探すだけです。

ところが見つかりません、魔力で探索しても生き物で探索しても。

「どうして?」

「もしかして機械が勝手に動いているんじゃないの?」

「そうか、機械ね。魔力も使わないで生き物でもない。なるほど。機械で動くやつ……と。

うゎ!随分あるのね」

この近くだけでも7つ、いや8つありますね。マルチさんで確認していくと……、ありました。大きいのやら小さいのやら。

「あれって死なないんだよね」

「命はありませんからね。壊すか止めるかしないとダメでしょうね」

「壊すのはもったいないな。この世界にはない技術だから回収して調べたいからね」

「ヘンネルベリで使うの?」

「まさか。無駄に強い力は周りから恐れられて攻撃の対象にされちゃうんだから。でもこの技術はまだこの世界には早いわよね。全部回収して時期が来るまで封印しないとダメね」

「全部封印するんだ」

「武器の部分はね。私は戦争のない平和な世界を望んでいるんだから。でも使えそうな部分は取り出して使うかも。龍神様と相談しながらだけど。回収始めるけど、ナビちゃん手伝ってくれるよね」

「もちろん」

「あの機械を止めたいんだけどどこを止めればいいか知りたいのよ。上手く言えないんだけどクルマでいうと魔導エンジンを止めればクルマは止まるよね。でも魔導エンジンは壊したくない。だから魔導エンジンを動かすための魔力を止めればいい。クルマでいうと魔力を供給しているのは魔石だから、魔石を外しちゃえばクルマは止まるの。あの機械も多分同じ感じだと思うの。動かすために何かの力を使っているはず。その力の流れが分かれば、って言うか見えればそこを外してあれを止める。だからその力を貸してくれない」

「貸しはしないわ。私は貴方にそれを使うための力を授けるわ」

「でもそんなことたら神様たちが……」

「いいミーア、もうあなたは特別なのよ。あなたの持つ能力はこの世界の人たちとは違うの。スティルガノ様はミーアのことを危険視してたけど龍神様や精霊神様の力添えで静観するようになってくれた。スティルガノ様はミーアに期待をし始めているのよ。この時空の歪による一連の出来事は、この世界の存亡にかかわる事態なの。竜がやれないことをミーアがやるのに力の出し惜しみはしないわ。【透視】【空間認識】【高速思考】【探求】をあげる」

「4つも!これならわかるってこと?」

「そうね。【透視】は中の様子を見ることが出来る力ね。お風呂は覗いちゃダメよ。【空間認識】いろいろな方向からものを把握する力ね。例えば透視で見たものを頭の中で組み立てたとするでしょ。それをグルグル回したり、寄ったり引いたり、外から中から調べるわよね。それを助ける力よ。【高速思考】はそのままね。特に空間認識の力を使っていろいろと調べて行くと、とにかく情報が多いから、それを素早く処理するための力なの。多重思考にも対応してるから考える速さはメチャメチャ上がると思うわ。ただその分とても疲れるけどね。頭が疲れるから、そういう時は甘いものがいいみたいよ。【探求】は気になったところ、調べたいところがどういうものかを教えてくれるものよ。魔力の流れを知りたいとするとそれが分かるとか。理解できた?」

「そんないっぺんには無理だって。やってみるしかないか」

「そうね、それが早いと思うわ」

「ではまず、お風呂はどこかな……」

「ミーア……」

「冗談だって。まずはあれね。透視で中の仕組みを見て、頭の中で組み立てるのよね。その前に多重思考に高速思考を組み合わせて同期しておいて……」

凄いです。頭の中に機械の兵器が出来上がりました。とても精密に出来ています。調べることはもちろん、動かすこともできます。もちろん攻撃なんかできませんけど、実体がありませんから。

どれぐらい時間がたったのかわかりませんが、アレの止め方は分かったと思います。動き自体を止めるのはもちろん、攻撃とかの命令も止められそうです。

「どれぐらいたった?」

「えっ?2~3分だよ」

「それしかたっていないの?3~4時間調べてたと思ったんだけど」

「高速思考ね。どれぐらいにして使ったの?」

「多重処理を10個同期させて、それぞれを10倍の高速処理をかけたんだけど」

「何そんな無茶してるの。ミーア頭大丈夫?」

「失礼しちゃうわね。大丈夫よ」

「そうじゃなくって、記憶が曖昧なところとかない?」

「そういう事ね。てっきり『バカじゃないの』って言われたと思って。記憶とかは大丈夫みたい」

「普通は最大でも10倍ぐらいで使うものなのよ。それをねミーアは10の多重処理に10倍、つまりは100倍で使ったわけだから。さっき頭が疲れるって言ったでしょ。多重処理も高速思考もミーアの頭は一つしかないんだから」

そういえば経験あるな、マルチさんを全力展開した時に頭が重くなったこと。それと同じなのね。

「これからは気を付けるから。それはそうとあの機械兵器多分止められる。1つしか調べられなかったけど基本的な仕組みは多分同じだから」


次々と強制的に停止させて、亜空間収納に放り込んでいきます。この辺りは一通り片付いたでしょうか。気が付けば30近くの機械兵器が収納に入っていました。




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