第155話 モルーマの調査(前編)

「ミーア、龍神様が話があるって」

「何かしら」


急いで龍神様のところへ向かいます。流石に神様を待たせるわけにはいきませんからねぇ。


「おぉ、ミルランディアか。すまぬな、来てもらって。念話でもよかったのだが」

「神様に呼ばれた訳ですから、そういう訳にはいきませんって。ところでお話って」

「そうだな。ミルランディアに少し手伝ってもらいたくてな」

「私がお手伝いですか?」

「この間の時空の歪みのことなのだ」

「あぁサウ・スファルの」

「そちらではない。モルーマの方だ」

「モルーマの歪から生まれる裂け目って別の境と繋がってるって聞いたんだけど」

「そのようだ。私の知らない世界と繋がってるらしい」

「でも別の世界から来たものって多くがこっちの環境と合わなくて長く生きられないから心配しなくていいんじゃないの?それに歪みなら竜の力で正せるんじゃない」

「そう思ってな各地の竜に歪の解消と裂け目から出てきたものを調べるように言ったのだ。ところが調査に行ったワイバーンの群れは消息を絶つし、歪みには近づくことが出来ない」

「近づけないって結界でもあるってこと?」

「どうやら歪の周りには魔素がないようなのだ」

「魔素がないって」

「左様、竜族は魔素を使って生きておる。だから魔素のない所では生きられぬ。丁度人間が空気のない所で生きられないのと同じだな」

「魔素がどこへ行ったか分からないんですか?」

「裂け目から向こうの世界に流れ出したのかもしれぬ」

「そんなことあるんですか」

「裂け目から出てきたものは多くは環境が合わずに死滅するがまれにこの世界に居つくものもおる。この世界のいくつかの生き物はそのようにしてこの世界に来たのだ。向こうから来るということは当然こちらから出て行くこともある」

「その『向こうの世界に出ていったものが魔素』って事?」

「恐らくはな。ミルランディアも知っての通り、龍族は魔素の安定と異界からの脅威の排除が課せられた使命なのだ。だが今回ばかりは分が悪い。歪を正そうにも竜が近づけない。亜竜とは言えワイバーンの群れを倒せる力もあると思っていい。そこでミルランディアに頼みたいのだ。どうなっているのか調べてきてほしい」

「私にできるのでしょうか。確かに魔素のない所でも問題はないと思います。濃すぎる方がよっぽど危険ですから。ただ私の力では歪みを正すまでは難しいかと。サウ・スファルの歪みでさえ私でも一月はかかると言われたのです。モルーマはサウ・スファルの比ではないほどの規模ですよね」

「出来る範囲で構わない」

「じゃぁ準備してから行ってみます」


思ったより深刻な事態ですね。竜が護りきれなかったらこの世界は大混乱ですよ。人間同士の戦争の比じゃありません。


「陛下、少しの間国を離れます」

「どこへ行くのだ」

「モルーマ。正確にはモルーマ王朝のあったところですね」

「前にも言ったであろう、政治的に問題のある所へ出向くなと」

「ですが今回ばかりは行かなければならないのです。先日龍神様よりご神託が下りました。私はそれに従うのです」

「神の啓示か。と言うことはこれは伺いではなく報告と言う事なのだな」

「そうですね。私には魔法をはじめとした多くのスキルがあります。寿命が延びて簡単に死ぬことはないでしょう。これらを神様が私に下さったということは、私も覚悟を決めなければならないと思ったのです」

「分かった。だが一つだけ条件がある」

「条件……ですか?」

「無事に帰って来い」

「はいっ!」




「ねぇナビちゃん、例えばさ歪自体を亜空間に分離したらどうなんだろう」

「そんなことやったこともないし、考えた人もいないわよ。それにそんなこと出来そうな人なんて……ミーアならできるかもね」

「出来るとは思うし、多分出来る。ただ歪んだ亜空間がどうなるかが分からないの。それに裂け目についても。今ある裂け目は消えるのか。今後発生する裂け目はどこに出来るのか。もし亜空間が崩壊したらこの世界にどういう影響が出るのか。分からないことばかりだから」

「さすがにここ世界樹の記憶にも無いなぁ」

「ところでミーアは亜空間ってどうやって作ってるの?」

「どうやってって言われると説明するのは難しいな。まず魔力空間を作って、それをこの空間に固定するのよ。そこに次元要素を加えると亜空間化するの。こっちと同調させたままにすると亜空間シールドになって、そのまま空間軸だけ切り放したら亜空間を使った移動ができるの。同期を切れば独立した空間ね」

「そんなことやってたの?これじゃ誰も理解できないのは当然ね。亜空間収納も同じなの?」

「基本的にはね。次元要素を加えるときに時間要素も加えて、分離した後で亜空間の時間の流れを変える感じ。亜空間プリズンは小さな空間にこっちと同じ環境を構成して同期を切ってるの」

「あぁ、ディメンジョンホームに近いんだ」

「亜空間プリズンは中に家を建てるとかできないから。一つ一つが牢屋って感じ。雑居房も独居房も作れるから」

「ミーアの言う亜空間って言うのはなんとなくわかったわ。多分この世界の近くになるのね」

「だと思う。でも次元が違うから普通は干渉なんてしないわ」

「でもさ、今の話からすると時空の歪を亜空間で分離するのは危険ね。この世界の近くにある亜空間が崩壊した時の影響が分からないから。無いかもしれないし、凄く大きくなるかもしれないし」

「やっぱそうか。別な方法を考えないとダメね」


ワイバーンたちのこともあります。一旦様子だけでも見に行きましょうか。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る