第154話 精霊神との邂逅

あれからだいぶ時間がたったのですが、未だ混乱は収まりません。

だいぶ時間がたったといっても2~3日よ。いくら万の単位で寿命があったって2年も3年も悩んでなんかいられないから。


それにしても仕事が手に着かない。やらなきゃいけないことは山ほどある。時間がないということはない。むしろ時間は余るほどある、私限定だけど。急ぎの仕事もそれなりにある。でもみんな何でそんなにアクセクいしてるんだろう。ゆとりがないのか、生き急ぎ過ぎるのか。

「領主様、お疲れですか?」

「バキューラ、疲れてはいないと思うんだけど、ちょっとノらないのよ。今日は上がるわね。急ぎの決済はバキューラの方で処理しておいて。報告は後でいいから」

「領主もいろいろとあるのでしょうけど、一度吐き出してしまうと楽になることもありますよ。領主は見た目はとても若いですけど私なんかとあまり変わらないのですから、私でよければ聞きますよ」

「失礼しちゃうわね、アナタよりだいぶ若いわよ。それにいつまで領主って呼ぶの。名前でいいって言っているのに」

「領主は領主ですよ。特に仕事の時は。それに母からもきつく言われてますから、仕事の場とそうでないときのけじめはしっかりつけるようにと」

フローランス伯母さん厳しい女性ひとだからな。

「そうだったわね。じゃ、後よろしく」



今どこにいるのかと言うと、ニールの別荘です。ここに来るのなんて大したことないからね。扉をくぐればすぐだから。

何故ニールかって?他じゃどこにいても普段の延長って感じになっちゃうからね。ここは仕事を忘れるために買ったとこだから。


「貴方がミルランディアさんね。初めましてになるわね」

突然目の前に女性が現れたんです。そりゃ私だってビックリしますって。

「えっ?」

「私はエリー。精霊よ」

「精霊って見えないんじゃないの。それに本とかだとちっちゃくてホワホワッとした感じなんですけど」

「そんな感じのもいるわ。むしろ私みたいの方が少ないからね」

『ミーア、この人精霊の王様。そして神様だよ』

『ナビちゃんそれって』

「あら、世界樹の妖精さん、バラしちゃダメじゃない。楽しみが減っちゃったじゃないの」

『バレてるし……』

「改めて、ミルランディアさん初めまして。精霊の王、そして神の一柱精霊神のエリーです」

「ご丁寧に。ミルランディア・ヘンネルベリです。人間です、一応」

「貴女のことはよく知ってますよ、長い間見てきましたから」

「そうですか。それで神様が私にって、何か」

「神様なんて他人行儀な呼び方はよしてくださいよ。エリーでいいですから」

「流石にそれは……」

「エリーですよ」

「……エリー…様」

「エリーです」

ええい、もうどうとでもなれって言うんです。神様がそう言うんだから仕方ありません。

「エリーさん」

「………」

「これ以上は許してください」

「ま、仕方ないか。これからはそれでね」

「エリーさんが私のところに来たって、私なにかしました?」

「ううん、少しお話したいなって。貴女ドラーガから話は聞いた?」

「ドラーガって誰です?」

「古龍よ。龍の神様」

「龍神様ってドラーガ様って言うんですか。知りませんでした」

「今までなんて呼んでたの?」

「古龍様とか龍神様とか」

「じゃぁ私も?」

「そうですね。エリーさんとお呼びしますけど、普通なら精霊神様とかじゃないですか」

「私の前でそんな呼び方したらダメだからね。分かった、ミルランディアさん」

「なら私のこともミーアって呼んで下さいよ」

「そうね。いいわ、ミーア。これでいいわね」

「はい。で、お話って」

「いろいろあるんだけどミーアに精霊のこと知ってもらいたくって」

「精霊のことですか」

「そう。ミーアは精霊がどういうものか分かる?」

「本にはこの世界の自然を司る存在だと」

「精霊が何をしてるか知ってる?」

「森とか山とか海、川、大地を見てるんじゃ」

「それも一つだけどもっと大事なことがあるの。精霊はね魔法を司っているの」

「魔法ですか?ファイヤーボールやウィンドカッターみたいな」

「そうよ。ヒールもワープもみんなそう。ほら魔法で4つの基本属性って言うでしょ」

「火と水と風と土ですよね」

「そう。その4種類って精霊がとても多いのよ。精霊が手伝うことで魔法が使えるのよ」

「でも普通の人はいろいろな魔法は使えないですよね」

「そうね。普通はひと一人に精霊は1体か2体。しかもその精霊が使える魔法も決まってるの。だから火の玉ファイヤーボールは出せても火の矢ファイヤーアローは出せなかったりするの」

「でも私はいろいろな系統の魔法をいろんな種類使えるんだけど」

「それが今日の話の本題なの。精霊にはいろいろな種類がいるわ。あなたの言った系統ってやつね。それぞれの中に大きな力を持っている子もいるわ。そういう子たちが特に気に入った人に祝福をすることがあるの。祝福された人はその魔法をみんな使えるようになるのよ。魔力の範囲の中だけどね」

「じゃあ私もそうだったんですね」

「ミーアの場合は特に数多くの上位精霊が祝福を行ったわ」

「でもそのおかげで随分と助けられました」

「そう。そのことを私が知った時には大変なことになっていたの、精霊的にね」

「精霊的?」

「うん。ところで精霊ってどうやって生まれるか知ってる?世界樹に聞いちゃダメよ」

「分かんないです」

「ヒトや獣の心から生まれるの。特に純粋な心を持つものを好むわ。そういう心の持ち主には精霊は祝福を行う。もう分かるわよね、貴女は精霊に選ばれた特別な人だったの」

「私が特別?よくわからないですけど」

「精霊的にって意味でね。数多くの祝福を受けたミーア、と言うかミーアの心は精霊の世界でも大きな影響を持つようになったの。私が恐れたのはミーアの心が邪な方へ行ってしまう事。邪な心から生まれる精霊は邪精霊になるの。ミーアの澄んだ清らかな心は上位の精霊を生むことが出来るの。そんな心が邪な方へ行ってしまったら……私はとても焦ったわ」

「私はそんな風にはならないですよ」

「ううん、邪精霊は知らないうちに心を蝕んでいくわ。急に人が変わる事ってあるでしょ。あれは邪精霊によるところがあるの。あなたの心から邪精霊が生まれることだけは避けたかった。だから貴方の心に邪精霊が取りつかないように少しだけ手を加えたのよ」

「そうだったんですか?何も変わったことはなかったみたいですけど」

「もうずいぶん前の話よ。ミーアが仲の良かった冒険者たちから離れたあたりのことだから」

(『金色の月光』から追放されたあたりのことか。)

「うーん、記憶にないな」

「分からないはずよ。誰にも気づかれなかったから、ただ一人を除いてね」

「その一人って龍神様が言ってた大神様ですか」

「そう、あの方だけは知っていたの。話が逸れっちゃったわね。あなたの心に手を加えてしまった私は、そのお詫びと言うか代償に私の加護を与えたのよ」

「えっ!私に精霊神様、違った、エリーさんの加護があるの?」

「ええ。それも最大級のね。ミーアの魔力が普通じゃないことは知っているわよね」

「はい。尽きることのない魔力ですよね」

「それが私の加護の一つ。全ての系統の魔法が使えることもそう」

「だから空間魔法とか時間魔法が急に使えるようになったんですね」

「そんな嬉しそうな顔して納得してるみたいだけど、私は貴方の心を弄ってしまったのよ」

「でも仕方なかったんでしょ。ならしょうがないじゃないですか。私は今の今まで知らなかったことですし、魔法にはいろいろと助けてもらいましたから」

「でもそのせいでミーアは狙われたのよ」

「狙われたって誰にです?」

「スティルガノ様です。ミーアの魔法についての強い力、尽きない魔力と強力な呪文、それに龍に与えられた時間。この力を恐れたスティルガノ様はミーアのことを消そうとしたの。魔素の暴走によるスタンピードと流行り病でね。でも時空の歪みの時はヘンネルベリではなくモルーマにしたみたいだけど」

「じゃあこの先も大神様に狙われ続けるってこと?」

「それはないわ。ドラーガがスティルガノ様と約束をしたみたいだから」

「それは龍神様が言ってました。私を守るからって」

「私もミーアのことを守るからね。私だけじゃない、全ての精霊が協力するわ。ミーアは私の家族だから」

(あれっ?どこかで聞いた覚えが……)



『ナビちゃん、知ってたわね』

『………はい』

『知ってても教えられないことだったんだろうけど』

『神様のことだったから』

『だからナビちゃんの態度が変わったのね』

『お察しの通りです』

『ところでナビちゃんは実体化できないの?』

『出来ますよ。ほら』

目の前に手のひらに乗るぐらいの羽の生えた小さな人、妖精が現れました。

「はじめまして、ナルシャンファルビです」

「よろしくね、ナビちゃん」



それにしても龍神様に精霊神様かぁ。私は私だけど他の人には言えないことがまた増えたわね。

あっ、スティルガノ大神様、私はですよ。世界征服なんかしようとしませんし、神様を冒涜なんてしませんから。神様のお手伝いでも何でもしますから苛めないでくださいね。



アッ、ヤバい。何でもするって言っちゃった。そこだけ取り消しといてね。



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