第152話 遺跡

「これは……、遺跡」


結界を解除して入った先にあったのは、明らかに人の手によって作られた空間でした。壁には模様が彫刻されていて、床も天井もきれいです。


「詳しく調べてみないことには何とも言えませんが、ここは恐らく古代文明の遺跡ではないかと」

「だとしたら大発見ですよ。今まで古代文明の遺跡と言えばほとんどがハイデルランドで見つかってます。パルメリアでも見つかってはいますが数は少なく、そのほとんどがモルーマで見つかっているのです。モルーマの拡大政策は古代文明の遺物を使っていたとの噂もあったぐらいです。その古代文明の遺跡の一つを離島とは言えヘンネルベリ王国内で、それもほぼ完全な形で見つかったとなれば大ニュースです」

「よしっ、調査を始めるぞ」

「ちょっと待って下さい。今日のところはこれで探索を終了します」

「何故です。こんな素晴らしいものが目の前にあるというのに」

「これだけでも十分な成果なのでしょ。この遺跡は逃げないわ」

「しかし成果が。これだけのものを持ち帰れれば、私は、いえ私たちはどれだけの名声を得られるのか」

そうか、ジョンも結局はそういうのが欲しいんだ。

「でもね、もう時間もないでしょ。あの竪穴も屋根を付けたり隠蔽の結界を張ったりしなくていいの?」

「そ、それはそうですが……」

「ならあなた一人残って構いませんよ。でも次いつ来るか分かりませんけどね。じゃぁ」

「ミ、ミルランディア様、申し訳ありません。置いて行かないでください」

慌ててジョン調査員が走ってきます。



「えー、これで今回の調査を終了します。まだ2つのグループが戻ってきていませんが、予定通り明日朝出発します」

「彼らを置いていくんですか」

「出発に間に合えば連れて帰りますよ。間に合わなければ置いていくだけです。これについては事前にお話ししてありましたよね。1人の身勝手な振る舞いで全体に迷惑をかける訳にはいきませんから」

「……………」

「でもここに戻ってきた皆さんは大きな怪我もなく多分充実した調査が出来たことと思います。時間が足りないことは分かっていたことですし、まだ調査は続きますので、次の機会にまた参加をしてください。食事を用意してありますから存分に楽しんでくださいね」


全てのグループが有益なものを見つけたわけじゃありませんが、見つからなかったというのも大事な成果です。最後に私たちが見つけたようなことが奇跡なのであって、私が気に掛けなかったらジョン達もあそこでの成果はなかったわけですから。


翌朝、船団は島を出航しました。遅れていた2つのグループも1つは日付が変わる少し前に、もう1つも夜が明ける少し前に戻ってきました。疲れ果てて戻ってきたところに怒られるのですからたまったもんじゃありませんね。

私たちは船で1泊、フロンティーネで1泊して王都に戻りました。



「陛下、戻りました」

「おぉミーアか。どうだった」

「港を3か所、それに修繕のためのドックを造ってきました。調査の方はとんでもないものが見つかりましたね」

「一体何が見つかったというんだ」

「詳しくはジョン達のグループから報告があると思うのですが、古代文明の遺跡らしきものが見つかったんですよ」

「そのことを知っているのは?」

「調査団はみんな知っているんじゃないかな。自分たちの成果をわざわざ人に言う人は少ないだろうけど、ものがものですからねぇ。噂にはなっているんじゃないですか。人の口に戸は立てられませんから」

「ならカルセア島はミルランディア領に編入しよう。お前なら上手く使うだろうし、少なくとも悪事には利用しないからな」

「他のところ貴族がなんか言って来ませんか。うちにはいろんなものがありますから」

「だがな、古代文明の遺跡を他の貴族たちにやる訳にはいかないからな。それにあの島にホイホイ行けるのはミーアしかいないだろ」

「確かに私なら島に行くことに関しては問題ないと思います。船もありますし。でも……」

「王家直轄地でもミルランディア領でも大して変わらん。いいな、あの島のことは任せたぞ」

厄介事はみんなうちね。まぁうちにチョッカイ出そうにも領界の山脈と深い森、フロンティーネの城壁があるから出せないんだろうけど。

「それからキッシュのところの下の二人、サルドとクフィルをミーアのところで鍛えてやってほしいんだが」

「いいですけど、条件は変わりませんよ。貴族でなければ一般職員と同じですからね」

「それは問題ない。二人とも男爵位は持っている」

「なら後で話をしますね」


ミルランディア領の領政はヘンネルベリ王国政府の研修所なのでしょうか。ひっきりなしにそういう話が来るんですよ。陛下だけじゃなく大臣や地方の領主からも。『息子に領政とは何かを教えてやってくれ』みたいな。

あとうちの農業のやり方を導入するところも出てきました。まだ試験的にやっているだけだからそんなに大きくはやってないみたいですけど、一定の成果は出ているみたいです。そういうところが出始めているせいか農政課への視察や研修が多いですね。フロンティーネでの研修中にいろんな人と交流を持って、みんな仲良くしてくれればいいですけど。

フラグが立ったって?何の?教えてよ。後の楽しみだって?ちょっと何言ってるのよ。




『ここって本当に古代文明の遺跡なの?』

『間違いないわね。神罰で亡んだ名残よ』

『それにしては綺麗よね』

『魔素を魔力に変える装置、少ない魔力で強力な結界を維持する技術、状態を保存する魔法。みんな失われた技術よ』

『調査団が入ったらどうなるのかな』

『どうもならないわよ。ここの技術なんて分かる人なんていないから。それに壊したり盗んだりしたら守護者ガーディアンに襲われるわよ』

『私はどうすればいいの?』

『ここの管理者を変えることね。管理者がミーアになれば少なくともミーアは襲われないから』

『それは……』

『私が案内するわ。行きましょう。でもその前にチョッと』

ナビちゃんが何かをしたようです。急に頭の中がボワッとしたから。

『何したの?』

『ミーアが古代魔法を使えるようにしたのよ』

『古代魔法?』

『この遺跡は古代魔法による魔道具が動いているの。結界もそう。これから行く部屋も古代魔法で鍵がかけられているの。鍵を開けるのに必要なのも古代魔法。だからね』

『でもそんなことしていいの?勝手に魔法を使えるようにしちゃって』

『大丈夫よ。そのはず。いいって事になってるから。それより扉の横にある石板に手を当てて、開錠の呪文を唱えてみて』

言われた通り開錠の呪文を唱えました。カチャリと音がした後扉がスーッと開きます。

『開いた。でもさ、開錠の呪文で開いちゃうんだったら鍵かけた意味ないんじゃないの』

『そんなことないよ。だってミーアが唱えた開錠の呪文はあらゆる鍵を開ける呪文だから』

またとんでもない魔法です。盗賊さんを始め数多の裏稼業の皆さんが手にしたいものですね。絶対秘密の呪文になりました。

部屋に入ると扉が自動的に閉まり、カチャリと鍵がかかる音が聞こえました。

『閉じ込められたみたいだけど……』

『大丈夫よ。管理者がミーアになれば問題ないし、さっきと同じようにすれば扉は開くからね』

部屋の中には見たこともない機械がいっぱいあります。魔道具なのかな。一目で現代の技術ではないことが分かります。

『あの机のところにある椅子に座って。椅子の左右の肘掛けのところに水晶の珠があるからそこに手を乗せて魔力を流してみて』

言われたようにすると目の前に半透明の板のようなものが出てきました。

『下から2番目、上から3番目、一番上を選んでさっきの水晶の珠に手を当ててこの呪文を唱えて』

すると半透明の板がフワッと光り、消えていきました。

○★※▲◇◎×言語の登録を行います●◆□▽☆♣暫くお待ち下さい

………

終了しました。ミルランディア・ヘンネルベリを新しい管理者に登録しました』

『なんか終わったみたい。私が新しい管理者だって』

『これでこの遺跡はミーアのものよ。結界も自由に出入りできるようになってるはずだし、守護者ガーディアンの制御もできるはずよ。さっきの要領でやればいいはずだから。分からないことがあったら教えてくれるはずよ』

『ナビちゃん詳しいのね』

『これが私の仕事だから。世界樹の記憶にあることを利用者に伝えることだからね』

『古代魔法ってどういうものなの』

『現代の魔法の源流みたいなものね。その他には魔道具の制御みたいなこともできるわよ』

『面白そうね。やりがいがありそう』

『ところでミーア、さっきの半透明の板とか気が付かない?』

『えっ?何だろう』

『冒険者の……』

『あっ!ギルド。手を置いて魔力を流すやつとかステータスを表示するやつとか』

『そう。あれはねこの技術が元になってるの』

『じゃぁ現代でも再現できるんだ』

『無理ね。再現できるって言うか、ギルドのあの技術だって数百年前にハイデルランドで亡んだ国がなんとかあそこまでしたものだから。ギルドで使っている奴は作れてもそれを応用することは無理ね。これも失われた技術の一つだから』

『でも私ならできるんでしょ』

『そうね。だってミーアだから』



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