第148話 世界の神様

「ミルランディアを見かけなかったか」

「ミルランディア様ならばお出かけになっておりますが」

「どこへ行っているか知っているのか」

「教会に行くと言ってました」



この世界には神様がいる。って言うかいると言われている。

教会に行けば女神さまが祀られているからね。

女神さまの名は『サファール』。



「あっ、ミルランディア様、陛下が探してましたよ」

「ありがとう」


「教会に行ってたそうだな」

「えぇ、このところ色々なことがありましたから。戦争や犯罪は人が起こすことですから私たちの力で解決できます。ちゃんと後始末もできます。でも最近起こったスタンピードや流行り病、それに時空の歪み、みんな自然に起きたものだから。これ以上続いてほしくないから神様にお願いに行ってきたのよ」

「ミーアでもどうにもならないのか。全部ミーアのおかげで収まったと思うのだが」

「そんな、私を何だと思ってるんですか。結果的にそうだったとしても、ミルランディア領で起きたスタンピードはたまたま魔物が森から出てこなかったから被害が少なかっただけだし、流行り病はこの国でもたくさんの人が亡くなりました。他の国でも多くの人が亡くなってるんですよ。サウ・スファルの魔物にしてもうちから派遣した軍だって被害が出たし、サウ・スファルはメチャメチャでしょ。それにモルーマは亡んだって言うし」

「そうするとミーアはこの国の女神か」

「やめてくださいよ。私はただの人ですって。だから私にできること、せめて教会で祈りを捧げることぐらいしかできないのですから、それをやっているだけなんです」

「ミーアは優しいんだな」

「ところで暫く王都を空けたいんですけど、いいですよね」

「またどこかへ行くのか?」

「フロンティーネです。ここんとこずっと空けてましたから」

「かまわんぞ。ここのところ城の者もミーアに頼りきっているからな、私も含めてだが。締め直すにはいい機会だろう」

「フロンティーネにいるからって簡単に呼び出さないでくださいね。特別補佐の仕事は特にないって言われてたんですから」

「あぁ、善処するよ。ついでと言っちゃなんだが、できたらカルセア島の様子も見てはくれないか」

全然わかってくれてはいませんでした。



カルセア島はサウ・スファルが一連の魔物騒動でヘンネルベリに払い下げた島です。広さは王都の1.5倍ぐらいあるんですけど、とにかく遠くてね。船で3~4日かかるんですよ。船と言っても私の所で造ってるのじゃないわよ。うちの船なら2日ぐらいかな。急げば1日で着けるぐらい。そんなちょっと便の悪い島なんで何か悪い事の拠点にされないように今は直轄地になってるんです。

で、リオおじさん陛下は『そこの面倒も見ろ』と暗に言ってるわけですよ。私ならすぐに行けちゃいますからね。


ポルティアの造船工房も大きくなって、最初からあった大型船のドックの他に中型船2隻のドックを持つまでになったんです。王国から注文されていた軍艦の2番艦も納めましたし、豪華な客船も造りました。この豪華客船は引き合いが多くてね。運航にお金がかかるにしてもそれ以上に儲かるかね。港を持っていない領主さんも欲しがるわけですよ、金を生む木だから。

中型の軍艦も4隻領軍に配備しました。何かと言うとすぐにエヴァ級を出すものねぇってことで。中型と言っても大きさは100メートルぐらい、こっちでいう大型船と同じぐらいね。それでいて魔導エンジンはエヴァ級より少し小さいぐらいで、船自体は軽くなっているからかなり速くなったのよ。カルセア島まで1日って言うのはこれで行けばって事。

貨物船や客船もいくつか造りましたね。でもそんなに鉄をどうしたのかって?


それがね、見つけたというか手に入ったんですよ、鉱山が。私的には分かってたんだけど、たまたま見つけたフリしてね。

ポルティアの沖合に良質の鉱山の島があったんです。沖合ったって帆船だと7~10日もかかるようなところで、どこの国の領地になっていない島です。

船の技術もあまり進んでいないから、こういった島が結構あるんですよ。それに海にはクラーケンを始めいろいろな魔物もいるので、それなりの船でないと遠出は出来ないし。その点エヴァ号だと心配はありません。

なので開拓と称して船を出してこの島と鉱山をゲットしたって訳。おかげで鉄をはじめとした金属不足に悩まされることも無くなりましたとさ。




「サファール様は私たちを救ってはくれないのかな?」

『サファールなんて神様、この世界にはいないよ』

突然の場美ちゃんからの爆弾発言です。

「えっ?ナビちゃん、どういう事?」

『だからそのままよ。ミーアたちがお祈りをしているサファールって神様はいないの』

「でも教会に行けば女神さまが優しく見守ってくれているよ」

『あれは教会が造った神様だから』

「じゃぁこの世界に神様はいないの?」

『いるよ。ミーアも知ってる龍神様は神様の1柱だよ』

「じゃぁサファール様って何なの?」

『今から500年ぐらい前だったかな、ハイデルランドにあった国が亡んだの。この間起きたのと同じ時空の歪みでね。その国はこの世界の覇権を握ろうとの勢いがあったんだけど、その国が亡んだってことで人々が不安になってね。その不安を取り除くために教会は新たな女神サファール様が降臨したと言って人々の心を落ち着かせたのよ』

「……そ、そんな」

『勝手に神と言う存在を創造したということは問題があったかもしれなかったけど、この世界の神々はそれについて何もしなかったし、結果的に人も落ち着いたからね。ただ教会だけはそうじゃなかった。人々の救済のためと言う目的でサファール様と言う女神さまを造ってしまった。終わったから御役目御免という訳にもいかないでしょ。だって人々はサファール様を信仰しているんだから。退けなくなった教会は女神サファールを祀ったわ。それが今に続いている。そういうことよ』

「じゃぁそれまでの教会は何を祀っていたの?」

『神話の神様ね。あとは龍神様が顕現した処なんかは龍神様を祀っているところもあるわ』

「あの龍神様ってこっちに来ることあったんだ」

『龍神様はここんとこ来てはないわよ。最後に来たのは15000年ぐらい前かな。でもね、魔素に異常があれば竜はそれを正しにやってくるの。その竜を龍神様として祀るのはある事よね』

「なら龍神様にお祈りをすればいいってこと?」

『龍神様は魔素と外からの脅威しか見てないわよ。大神様がその役割を龍に与えたの。魔素に鋭く強大な力を持つ龍がその役目を果たすようにと。だから龍たちはそれしかやらないわ』

「じゃぁその大神様は?」

『大神様については私もよくわからないの。『世界の創造主』って言われる神様らしいんだけど、この世界樹の記憶に何も残っていないのよ。きっと創造主って言うぐらいだからこの世界樹の記憶を作った神様だろうし、であればここにないのも分かるような感じがするわ』

「龍神様に聞いてみればなんかわかるのかな」

『そうかも知れないわね』



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