第147話 時空の歪(後編)

「……と言うことは、この魔物の異常発生は自然に起きているというのか」

「そうです。サウ・スファルの魔物は時空の歪みの影響でハイデルランドと繋がったみたいなの。そこから溢れてるって事らしいわ」

「で、止めるには沢山の魔法使いが必要と言う事か」

「あとそれを護る護衛もね」

「放っておいても2年から10年ぐらい我慢すれば収まるのか……。うむ……。ところでミルランディア、この情報はどこから?」

「えぇと……(『ナビちゃん、これ言ってもいいのかなぁ』)」

『平気よ。あまりやり過ぎるとミーアが大変になるだけだけどね』

『じゃぁなんとなく暈して説明しておくね』

「それはですね、私と一緒にいるエルフィと言う白い竜がいるじゃないですか。彼女の里で龍神様とお会いしたことがあるんです。そのときに龍神様が知識の泉みたいなのを授けてくれたんですよ。それを使っていろいろと調べてみたんです」

「そ…そうなのか。だが今更だな。ミルランディアだからな」

「それはどういう意味で」

「そのままだよ。だがこれで一つ分かったことがある。ヘンネルベリがサウ・スファルに出来ることは限られたということだ」

「それは……」

「この情報は渡すが、後は向こうの国内の問題なのだ。人為的に引き起こされた魔物の異常発生ならその元を絶つ協力はできるが、自然災害だからな。避難民の保護ぐらいならできるが、これ以上の軍の派兵は難しい。何年か前にミルランディア領でもスタンピードが起きたであろう」

「でも今回はそれとは違うと」

「あの時の原因は……」

「魔素の流れの異常でした」

「今回の時空の歪みも自然災害と言う意味では同じなのだよ。これ以上サウ・スファルに協力したとして、サウ・スファルは返せるのか?こちらにも犠牲が出る以上、タダでという訳にはいかない。それは分かるな」

「……ええ」


やっぱり納得いきません。分かってはいるんですよ、私一人がどんなに頑張ったって多勢に無勢だってことぐらい。でも陛下は国まで見捨てるつもりなのです。他の国より自分の国の兵士の方が大事なのも分かります。これでも領主やってますから。優先すべきは自分の足元だってことぐらい。私が出て行くことでの向こうの上層部の思いも分からないではありません。

ウチで起きたスタンピードの時は竜の力を借りられましたけど、今回はそういう訳にも行かなさそうです。竜の大群が来たとなれば別な意味での災害だからね。ウチの時はダンジョンの中だったけど、今度は国中のいろんなところだからね。

(……ん。ドラゴンの力で歪を治せないのかなぁ)

『ナビちゃん、ナビちゃん。時空の歪を正す魔力ってドラゴンの魔力じゃダメ?』

『大丈夫よ』

『ありがとう。これで何とかなるかも』


「陛下、サウ・スファルを救う方法がありました」

「どんな方法だ」

「私の所で起きたスタンピードと同じようにドラゴンの力を借ります。ドラゴンの力で、正確には魔力で歪を消します」

「ヘンネルベリ主導でそれをやるのか。向こうがどう言うか」

「向こうに決めてもらえばいいじゃないですか。こちらの持つ情報と対応策、こちらが求める対価に想定されることを全て説明して、向こうに判断してもらうのです。どのみち後一月ぐらいで派遣軍も撤退なんでしょ」

「そうだな。結果として国が滅んだとしても、それは向こうの判断によるものだからな」

「亡んでほしくはありませんけど」

「使節団を組んでサウ・スファルに向かってくれ」



**********



やはりと言うか、予想通りサウ・スファルはヘンネルベリ主導の作戦に難色を示してきました。それに対価についても。

ただ実質有効な解決策がドラゴンの協力を得る以外にありません。それに少なくとも2年、長ければ10年もこの状況を続けられないことも分かっています。

「ヘンネルベリの庇護を受けるぐらいなら戦って散った方がいい」という人もいたみたいです。アズラートの時の思いがある人なんでしょうね。でも国王はヘンネルベリに助けを求めました。


「ミルランディア、サウ・スファルを助けるぞ。ドラゴンのことは任せたぞ」


久しぶりにエルフィに会えるわね。



**********



「長老様、こんにちわ」

「ミーアか、いいところに来た。少しゆっくりしていくといい」

「そうしたいのは山々なんですけど、チョットお願いがあって」

「どうしたのだ」

「また皆さんの力を借りたくて」

「スタンピードか?魔素の流れの乱れはないようだが」

「時空の歪によるスタンピードが起きたんです。それを収めるのに皆さんのお力をお借りしたくて」

「時空の歪みか。厄介なことが起きたのだな」

「大変なんですか?」

「歪みを治すことは大したことはない。問題は異世界から来たものだ。場合によってはこの世界に大きな影響が出るかもしれないのだ」

「でも世界樹の記憶の話では特に問題ないって」

「この世界の魔物のいくつかは異世界から来たものと言われている。時空の歪を使ってな。今までは何とかバランスを保っておったが、この先の保証など何一つない」

「何かするんですか?」

「精霊たち次第だ。場合によっては我々も動くことになる」

「そうですか。で、お願い、聞いてもらえます?」

「歪を治すことなど2~3日で終わるだろう。ファルゴでも連れて行くがよい」

「ファルゴって……あぁブラちゃんね。彼だけで大丈夫なの?」

「問題あるまい。ファルゴ、こっちへ来い」

「長老様、何ですか。ってミーアじゃないか」

「ブラちゃんも元気そうね」

「あぁ。でなんですか」

「時空の歪ができたそうだ。ちょっと行って直してこい」

「わかった。ミーアといけばいいんだな」

「よろしくね」



いやぁドラゴンって凄いや。2日よ、たった2日で直しちゃったの。ブラちゃんだけだったから大した騒ぎにもならなかったし。

「ブラちゃんって見かけによらず凄いのね」

「そこは見かけ通りって言ってくれよ」

「でもホントに2日で終わるなんて思わなかったよ。私がやったら一月はかかるって言われてたんだから」

「まぁ俺たちドラゴン族は魔素をそのまま扱えるからな。魔素なんてそこら中にいくらでもあるし、俺たちにとっちゃ簡単なことよ。少しは見直したか?ファルゴって呼んでもいいんだぜ」

「いや、ブラちゃんはブラちゃんだから。ところでエルフィって何で戻ったの?長老様に戻って来いって言われたって聞いてるんだけど」

「知らないのか。エルフィの100歳の誕生祭だ。100歳の祝いは盛大だからな」

「そうか。それで里を訪ねた時にゆっくりしてけって言われたのね」



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