第146話 時空の歪(前編)

「陛下っ!たった今大きな知らせが届きました」

「一体何事だ」

「モルーマ王朝が亡んだとのことです」

「モルーマが?」


モルーマ王朝と言うのはこの世界にある国の一つです。

この世界には大きな大陸が2つあります。ヘンネルベリがある大陸はパルメリアと呼んでいます。

パルメリアには人間が治める国が数多くあって各地で争い事が絶えません。ヘンネルベリ周辺もその例から外れてはいなかったんだけど、最近は静かですね。

ヘンネルベリは一番の大国という訳ではありません、まぁ上位10ぐらいには入るでしょうけど。北にはトルディア帝国、東にはモルーマ王朝と言う巨大国家がありますけど、幸いなことにヘンネルベリからは遠く離れているんで接点は余りありませんけど。

トルディアとモルーマは世界の覇権を争っている国です。その一方が突然亡んだ。


「トルディアとは戦争状態だったのか?」

「いいえ。何度目かの休戦中です」

「ところでその情報源はどこなんだ」

「ドレンシアの商人です。その商人は地方の都市に滞在していたとのことですが、都にいた商人が大慌てで逃げてきたとのことなのです。その商人が言うには、『一夜にして都が瓦礫の山と化した』とのことです」

「大地震でも起きたのか」

「地震ではないようです。夜中に叫び声が絶え間なく続いていたのと、崩れ去った建物には爪痕のような傷や雷に打たれたような跡があったようです。火災もあちこちで起きていたようですが、同時に洪水も発生したようだったとの話も」

「不可解なことはあるが……。ただそれだけでは都の機能が停止しただけではないのか。国が滅んだと言えるのか」

「モルーマの都が崩壊したのは2カ月前です。その後地方の都市や港、鉱山などが次々と潰れて行ったそうです。王族を始め王朝の主だったところも亡くなったか行方が分からないといった状況だそうです」

「国としての体を保っていないという事か」

「ええ」

「トルディアの動きは」

「目立った動きは見せていません。得体のしれないことが起きてますので慎重になっているのでしょう」

「ヘンネルベリとしてはこの件に積極的に介入することはないが、西側諸国の一員としてトルディアには安定を乱すような行動を慎むようくぎを刺しておいた方がいいだろうな」

「ドレンシア、アズラート、ドルーチェ、サウ・スファルと調整に入ります」

「よろしく頼む」

「でもなんか繋がりがあるのでしょうか。モルーマの都が崩壊したのが2カ月前、時期を同じくしてサウ・スファルに魔物が異常発生した」

「この世界に何が起きているんだ」



**********



サウ・スファルでの調査活動は続けています。魔物との戦いは一進一退が続いています。殲滅した後にもいつの間にか魔物が発生していますし、その発生の仕組みさえ未だにわかっていないのですから。


『これは?召喚魔法?』

魔道具の記録を調べていたところ、奇妙な現象を記録していたものが見つかりました。そこに記録されていたものは、一瞬光が放たれたのちに空間が白くなりそこから魔物がぞろぞろと出てくる様子でした。

『でも召喚魔法なら陣が必要なはず。あれだけ大規模な召喚なら尚更。でも陣が発動した形跡はなかった。となれば空間魔法のゲートか。でも誰が?』

魔物が湧いて出てくる仕組みはなんとなくわかりましたが、誰が何のためにやっているのかが分かりません。


こんな時はナビちゃんに聞いてみるのが一番です。でも今正に起こっているものは分かんないって言ってたからなぁ、どうだろう。

『ナビちゃん、ミーアだよ』

『あっ、ミーア。今日は何?』

『サウ・スファルで起きてる魔物の異常発生なんだけど……大丈夫?』

『平気よ』

『よかった。これを見てほしいんだけど、見れる?』

『見られるし、それが何か知りたいんでしょ』

『知ってるの?』

『何度も起きているからね。それ、魔法なんかじゃないよ。それって時空の裂け目なの』

『時空の裂け目?なにそれ』

『別の世界と繋がっているの。別の世界と言ってもこの世界の別の場所の時もあるし、全然違う世界と繋がるときもあるわ』

『誰がやってるの?』

『誰って、別にこの世界の人とかがやってる訳じゃないわよ。神様がやってる訳でもないし。自然に開くっていうのが一番ピッタリくるかな』

『誰かがやってる訳じゃなくって自然に起きるもの。どうすれば終わらせられるの?』

『そのまんまにしておけばそのうち終わるんだけどね』

『そのうちって?』

『早ければ2~3年、長くても10年ぐらいじゃない』

『そんなに待てないよ。サウ・スファルが亡んじゃうじゃない』

『それはそれで仕方ないんじゃない』

『何とかならないの?』

『出来ないこともないんだけどねぇ。時空の裂け目って言うのは元があるの。時空の歪がね。そこに魔力を注げば歪が解消されるわ』

『分かったわ、ありがとう』

『ちょっと待って。魔力を注ぐって言っても、ミーアが全力で毎日注ぎ続けて一月近くはかかるわよ』

『……そんなに……』

『その方法で止めた時は、魔法使い500人ぐらいで昼も夜も絶え間なく交代で注ぎ続けて、半年ぐらいかかったのかな』

『そんなの止められないのと一緒じゃないの』

『まぁ頑張って被害を抑えるしかないわね』

『ところでその歪って言うのはどこにあるか分かる?』

『王都の近くの森の中ね。でも気を付けて、歪の近くは裂け目もできやすいから魔物も多いわよ』

『この話、教えてもいい?』

「いいわよ。分かってないんでしょ』

『そうなのよ。それで困っててね。ありがとね』

『あっ、ちょっと待ってよ。もう一か所歪が起きているんだけど、そっちはいいの?』

『もう一つ?』

『だいぶ離れたところだけど大きなひずみが現れたの。こっちはその影響って感じね』

『それってこの大陸の東側?』

『そう。あそこが繋がったのはこの世界じゃない別の世界ね。ちなみにこっちはこの世界の別の大陸の森よ』

『別の大陸ってハイデルランド?』

『そうよ。この世界の魔物だから何とかできるんじゃないかな』


ハイデルランド、この世界最大の大陸。大陸のほとんどを砂漠と森林、山岳地と氷で覆われていて、人間が住むには少しばかり厳しいところですね。古代文明が栄えた地とも言われていて、その名残といえるような遺跡があると伝えられています。かつては人間の国もありましたが、亡んだとの記録があります。現在は新たな国として復興しているとのことで、僅かではありますけれど交易も行っているようです。獣や魔獣が数多くいて、それらを狩って生活をしている亜人と呼ばれる者たち、エルフや獣人たちも暮らしています。別の名を『暗黒大陸』と言われています。


『モルーマ王朝が滅んだのもそれって事?』

『そうね。しかも異世界の魔物だったから』

『その魔物は今はそうなってるの?』

『ほとんど死んじゃったんじゃないかなぁ。異世界の魔物は大概環境が合わなくって死んじゃうからね。まぁ極稀に順応するものがいるけどね』

『じゃぁ特には気にしなくていいの?』

『そんなことないわよ。異世界からどんな魔物が来るかわかんないし、歪はまだ正されていないからいつ裂け目が開くか分からないから』

『分かった。とても参考になったわ』



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