第143話 サウ・スファルの異変

5年たちました。


ただボーっとしていたわけじゃないですよ。やることはちゃんとやってますよ。


ミルランディア領に第3の町が出来ました。北の森の奥深くに見つかったダンジョン手前の街です。モーリンと名付けられたその町は要塞都市の様相です。魔物のホームグラウンドの森の中に作ったのですから仕方ありませんね。


ダンジョンのことはギルドに情報を公開していたのですが、ほとんど手が付けられていませんでした。ダンジョンに着くまで魔物の森を5日程かけて移動して、それからアタック。更に疲れ果てた身体に鞭打って5日かけての帰還の旅です。

初めの頃いくつかのパーティー(たしかBランクって聞いたけど)が挑戦したみたいだけど、結果は惨敗。ダンジョンの入り口さえ見ることが出来ずに帰ってきたパーティーもあったそうな。全滅したパーティーもあったりして、いつの頃からか手を出してはいけないダンジョンと言うありがたくない噂が広がったのです。


私もこの町を、領地を預かる領主ですから、そんな有望な資源を放っておけるはずがありません。有効活用するために作られたのがモーリンの町なのです。大事な資源の宝庫だしね。

3重の塀で囲まれた町にはギルドの出張所を始め宿屋、商店、食堂などが軒を連ねています。町の中央には一際堅牢で大きく、まるで砦のような町の庁舎が建っています。


この町は実はフロンティーネと繋がっているのです。モーリンを造る際に懸念されたのが『物資をどう運んで、運び出すか』なのでした。冒険者たちは歩いて来ればいいですけど、町の役人や衛兵、ギルドの職員や店の人は冒険者じゃありませんし、フロンティーネに戻ることもあります。そのたびに命懸けの旅はさせられません。

町で消費される食糧や店の商品、冒険者から買い取った品々を安全に搬入出するために造られたのが地下トンネルでした。


久しぶりの大規模土木工事ですよ。町は5つ目かな。ファシール、駐屯地と仮設の町、フロンティーネ、ポルティア、そしてモーリン。だいぶ慣れましたよ。ファシールの時のあの大変さから比べればね。トンネルも2本目とあって要領は掴んでいます。それに今回はクルマ専用です。距離はありましたけどポルティアの橋の時よりは簡単だったかな。

土木工事の依頼は受けないようにって釘を刺しておかないとね。



バイク工房で開発していた魔導バイク、エンジンを乗せたバイクのことね、あれが出来たんです。一から設計しなおしたみたい、全くの別物が出来上がっていました。注文を受けてから作っているみたいなんですけど、半年ぐらい先まで埋まっているみたいね。騎士団でも正式に採用が決まったみたいだし。

造船工房も大型の客船を造りました。中を見たらすごいのよ。上等な部屋がずらっと並んでいて、レストランも4つぐらいあったわね。それにダンスホールも。まるで海の上のパーティー会場ね。

10日ぐらいの航海をしているんだって。時々港に寄りながら。その間いくつものパーティーが開かれているみたいね。結構いいお値段なんだけど、人気があっていつも満員、予約も取れないぐらいの大人気なんだって。



それから……、キルシュレイク殿下が王都に戻ってしまいました。フロンティーネを任せていたんですけどね、まぁフィルスラード殿下が急逝しちゃいましたからね、仕方ありませんね。

その王宮ですが、リオンハイム国王陛下が退位しました。今の国王陛下はルーファイス伯父さんです。

リオおじさんの退位の理由ですけど、別に亡くなったわけじゃないですよ。今でもピンピンしています。むしろ国王の時よりも。

なんでも『国と言う権力のトップに長いこと留まると、その国がダメになる』と言って、15年から20年で次に変わることにしたんだそうです。確かにドルーチェあたりを見てるとそうですよね。

そんなに短い間隔で国王が代わったら、国王になれる人がいなくなるんじゃないかって?私はもうやらないって言ってるし、グラン伯父さんもその気はないみたいだし。ジャルは置いといて、フィルも残念なことになっちゃったし、一応次はキッシュなのかなぁ。でもね、フィルのところには男の子がいるし、キッシュの所にも男の子が3人いるから大丈夫だと思うよ。


で、私の安寧のための領主の代行なんだけど、そりゃどこぞの馬の骨ともわからん奴を使う気にはなれないので、それとなしに相談したらフローランス伯母さんの所の次男坊がどうかって事になったんです。一応王家の血筋だしね。あっ、フローランス伯母さんって、ナジャフさんの息子さんの所に嫁いだ人ね。

思ったより良かったわ、バキューラさん。バキューラって言うのが名前ね。まぁうちの領地経営は他の所と違ってかなり特殊だから初めの頃はいろいろ大変そうだったけど、そういう意味じゃアルトーンがいるからね。ぶっちゃけジャスティンとアルトーンがいれば何とかなりそうだからね、ここは。



「あのねミーア、ちょっと里に帰りたいんだけどいいかな?」

「ん?エルフィ、何かあったの?」

「里長様から連絡があったの。よく分かんないんだけど1回戻って来いって」

「分かったわ。これでエルフィとはさよなら……って訳じゃないよね」

「それはないわよ。私もそんなのやだし」

「それじゃ行ってらっしゃい。どれぐらいで帰ってくるの?」

「よくわかんないけど、多分10年かそこいらでは戻ってこれると思うんだ」

さすが長命種の竜種ですね。まぁ10000年ぐらい生きる種族ですからね、10年なんて大したことないんでしょうけど。そういう私も10年たってもあまり変わってないんでしょうけど。そんなことないわね、きっとメリハリボディになってるでしょうから。変わる訳ないじゃなかって?そこのアンタ作者、不敬罪でしょっ引くわよ。


「それなら私も何ですけど、アイン様と一緒に他の聖獣の里に行く話がありまして、一度戻りたいんですけど」

「いいわよ。でもウィンも10年ぐらいなの?」

「そんなには掛からないと思いますけど。多分4~5年じゃないですか」

そうですよね、ウィンだってアリコーン、聖獣ですからね。そういう意味じゃエルフィもウィンも私の友達って凄過ぎますね。



静かです。仲のいいお友達ってあんまりいませんからね、特に例の一件以降、意図的に避けてたところもありましたし。そういう意味ではちょっと寂しいところではあります。私と同じぐらいの貴族の女性だったら、お茶でも飲みながら早い人なら孫の話なんかしてるんでしょうね。ふんっ!いいんだもん、私にはまだまだチャンスがいっぱいあるんだから。




**********




「グランフェイム軍務大臣、お耳に入れておきたいお話が……」

(そうそう、グラン伯父さんってば軍務大臣になってます。ナジャフさんはお歳により引退だそうです)

「何だ」

「アズラートの駐留軍からの報告なのですが、サウ・スファルで魔物による被害が相次いでいるとのことです」

「スタンピードなのか?」

「詳しいことは分かりません。しかしながら王都スフィアルだけでなく地方都市にも被害が出ているとの話です」

「警戒はしておいた方がいいな。アズラート政府にはこちらから話を入れておく。東部方面軍の一部をアズラートに廻すことにしよう」

「分かりました。詳しいことが分かりましたら、また報告いたします」





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