第144話 支援要請
「先ほどサウ・スファル王国より救援の要請があった」
「救援ですか?何があったんです」
ここは王宮の会議室、今は閣議の真っ最中です。私ですか?出席してますよ、まだ特別補佐ですから。若い姿のまんまね。見た目はピチピチの二十歳(ちょっと鯖読んだかな)、中身は40ですから。ここの人たちには生還の奇跡で見た目が変わらなくなったって説明してあります。真実なんかどうせわからないんだから、それっぽいことでいいのよね。
「詳しいことは軍務大臣、お願いする」
「はい。サウ・スファルのいくつかの街、というかサウ・スファルの広い範囲で魔物の異常発生が起こっている。それによりスフィアルを始め各地の街が大きな被害を受けているとのことである。アズラートの駐留軍には警戒を強めるように指示を出している。駐留軍からの報告によれば、魔物の発生はサウ・スファル国内に留まっているようである」
「スタンピードではないのか?」
「広い範囲で同時に起こるとは考えにくい。10年ほど前わが国でも発生したが、他の地域で発生したとは聞いていない。更にサウ・スファルで発生している場所の近くにはダンジョンがない所もあるという」
「救援の内容は?」
「それはこちらから。食糧を中心とした支援物資、避難民の保護、軍の派遣です」
「軍の派遣?どういう事だ。魔物案件なら冒険者ギルドの案件ではないのか」
「既に冒険者には対応に当たらせているようなのですが、数が多く手が回らないところがあるそうなのです。当然サウ・スファル軍も動いてはいますがそれでも足らないそうです」
「我が国が軍を派遣したとして、それを覇権主義の復活ととられないだろうか」
「それは問題ないと思いますが。緊急事態ですし、救援要請による派遣ですから」
「それで我が国としてはどこまで対応するかなのだが……」
「「「……………」」」
「あまりサウ・スファル国内で大きく動くことは避けた方がいいでしょうね。国境付近の魔物の脅威の少ないところに避難民を集める施設を造って、そこでの食料供給と軍による警備。あとは調査目的で中隊規模の派遣と言う所ではないでしょうか」
「ミルランディア国王代理から一つ出たが、他は何かあるか」
「あちらさんからの要請なんだからもっと大規模に派遣してもいいんじゃないか。たとえば東部方面軍を派遣したところで文句は言われまい。その上でサウ・スファルを我が国の傘下に収めてしまうというのはどうだろう」
「覇権主義と非難されかねませんぞ」
「どのみちサウ・スファルは大混乱だ。魔物を退けたとしても産業も経済も軍も当分の間ガタガタだ。ドルーチェ辺りが首を突っ込んでくる前に手を打っといた方がいいんじゃないか」
「でもそれだと我が国の軍にも相応の被害が出るのではありませんか?」
「ある程度は仕方ないだろう。それにこれは向こうの国での作戦だ。ミルランディア様が向こうで活躍する方が拙いのだ。ヘンネルベリの王族が出張ってきて大きな成果を上げたとなれば、あっちの国はどう思う。少なくとも向こうの民はこう思うのだろうな、『サウ・スファルよりヘンネルベリの方がいい』と。そうなればサウ・スファルのヘンネルベリに対する感情は悪くなるだけだ。ミルランディア様には申し訳ないが、ここは軍で対応するしかないと思うが」
「私が冒険者として対応するのは」
「それもダメだ。この件に関してミルランディアを冒険者とすることは何があってもない」
「私自身が傷つくことがないとしてもですか」
「そうだ。ミルランディアがミーアとして冒険者活動をしていることは皆が知っている。それはサウ・スファル、ドルーチェ、ドレンシアでもな。もし王族の冒険者が来たら、どういう対応になるか分かるか?後方の安全なところでお飾りにしておくか、潰すかのどちらかであろう。あちらさんだって国内を引っ掻き回されたくはないからな」
「私はそんなことはしませんよ」
「ミルランディアがするかしないかではないのだよ。あちらさんの考えなのだ。あちらさんからすれば王族の冒険者など邪魔でしかないのだよ」
「そう…なのですか。少しでも救えるものがあるのかと……」
「確かに姫様はお強いですが、そのお考え方は些かどうかと。どんなにお強い力をお持ちでも、所詮お一人の力でできることなど僅かです。今は姫様お一人よりB級の冒険者100人の方がずっと有効なのです。我が国、ヘンネルベリとして救うのは、サウ・スファルの民ではなくサウ・スファル王国なのです」
「分かりました」
「サウ・スファルの避難民施設はアズラート側に造ることで調整する。警備は駐留軍を充てる。東部方面軍は派遣の準備を進めておくように。国王代理としてサウ・スファルとアズラートの対応をお願いしたい」
「「「「「承知しました」」」」」
「ミーア、お前の気持ちは分からないではないが、ここは我慢してくれ」
「分かってますよ。伯父さんの足を引っ張るようなことはしませんから」
「サウ・スファルとアズラートは頼んだぞ」
「分かりました。10人ぐらいで行ってこようと思います。……あと……」
「ん?どうした」
「例えばの話ですよ。災害クラスの魔物がいたら片付けてしまっても構いませんよね」
「止めておいた方が無難だろう。討伐中であればどんなに被害があろうとも手を出してはならん」
「全滅しそうでもですか?」
「ミーア、ミーアの力は強大であるが故に畏怖の対象にもなるのだ。良かれと思ったことが災いを引き起こすこともあるのだよ」
「分かっているつもりではあるんですけど……」
「ヘンネルベリとしては最大限の協力をするのだ。それで理解してくれ」
「………えぇ」
アズラートでもサウ・スファルの異変については知っていました。食糧援助と冒険者の派遣の要請があったそうです。
避難民の収容施設については了承してくれました。人道支援という名目がありますからね。まぁ管理をヘンネルベリで全て行うと言ったらアズラートの方からも一緒にと言うことになったので、共同運営と言う形になりましたけど。
サウ・スファルの方もこちら側の提案をほぼそのままに受け入れるとのことです。軍の作戦範囲については実務者同士で調整するとのことなので詳しいことは知りませんが。
気になる話を耳にしました。討伐が完了したところに一夜にして魔物の群れができていたり、新種の魔物が目撃されたりとか。
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