第142話 新生ファシール

まさかファシールが私の管理する街だったとは……


「ラファーネさん(ファシールの代官をやっている女性です)、ここのことでちょっと相談があるんだけど……」

「何か悪い知らせですか?」

「……悪い……そうかも知れないわね」

「えーっ、なら聞きたくないんですけど……」

「とにかく聞いて。ファシールは当初の目的、保護施設としての役割が終わりました。最後までいた103人はフロンティーネで生活するそうです。それでこの先のファシールのことなんですけど……」

「私たちは用済みって事ですか?」

「そんなことは言ってないわ。ただ思っていたより長くここに縛り付けちゃって、申し訳ないかなって。ほら、……こ…婚期も……」

「あれっ?ミルランディア様知りませんでした?ここにいる人たちはみんな結婚してますよ」

「えっ?いつ?」

「もうずいぶん前ですけど。結婚しているって言っても私は王都にいる法衣子爵の2番目ですけど。他の人も貴族や商会の人と結婚してますよ」

「でもここじゃ出会いなんてないんじゃないの?」

「交流区があるじゃないですか。それに私なんかは親同士が決めて、手紙を持ってきたのが夫で、交流区で初めて会ってその場で夫婦ですよ。優しくはしてもらいましたけど……。私はここでの仕事があるからそのまま独りで残りましたけど、夫も時々訪ねてきてくれますから」

「そうだったんだ。寂しかったでしょ」

「寂しさはないですね。ここでの仕事が良かったって言うのもありますし、ある意味政略結婚ですからね」

「あっ、その話じゃなかったわ。ここのことなんだけど、ここって私の領地らしいのよ。でね、保護施設としての役割が終わって、この先どうしようかなって」

「ミルランディア様はここをどうするおつもりなんですか?」

「正直悩んでいるのよね。普通の町にはできないと思うし。あなたたちのこともそうよ。長い間頑張ってくれた功労者であるあなたたちを『はい、さよなら』って訳に行かないでしょ。元の役所に戻りたいとか希望があればできる限り聞くつもりよ」

「そういう事なら、私たちはここを離れたくありません。出来るのであればこのままここで仕事を続けたいのですが。今更王都に戻ってもねぇ、居場所がある訳じゃないですし。それに家に入って妻としてなんていうのもなんだか息苦しいでしょうから」

「保護施設じゃなくなるって事は男の人も普通に入ってくるわよ」

「病人を受け入れた時にも男の人はいましたし、それに私たちは男性に嫌悪感は持っていないですから」

「……分かったわ。引き続きよろしくね。それから、これからは私に仕えるって事になるけど大丈夫?」

「それは問題ないですよ。あとで家の方には手紙を書いておきますから」

「流石にそれは……。役所の方の手続きもあるだろうし、家の方にもちゃんと説明しないといけないでしょうから、一旦王都には行くわよ」



ええ、彼女たちはみんな揃ってファシールでのお仕事を続けることになったわ。

ラファーネさんは町長として、他の人たちもそれぞれ重要なポストについてもらったわ。まぁぶっちゃけやることは前と変わらないんだけどね。

で、本題です。ファシールをどうするかと言うと、王立の研究都市にすることにしました。薬の研究とか農作物の改良とか。

今回のこともそうだったんですけど、国として基礎研究って言うか突発的な事態が起きた時の解決策を持つって事も必要じゃないかって。あっ、別にギルドがダメとか嫌いとか言ってる訳じゃないんですよ。ギルドは能力のある人をたくさん抱えているから、最重要の協力者です。でもその一方で、どうしても利益を追求する集団でもあるから、どんな事態でも利益追求が最優先になってしまうのです。仕方ないと言えば仕方ないのですが……。

ファシールで始める研究は、一に素材の研究です。一口に薬草と言っても数多くの種類があります。素材一つ一つについてどんな効力があるのか、はっきりしたことは分かっていないのです。感覚的に『この症状にはこれとこれ』的なもので、薬師や錬金術師によっていろいろと違うことが多いのです。治るのであれば否定はしませんが……。

今回の病は今までにはなかった(過去に似た例はあったが、受け継がれていなかった)ため、ギルドの製薬部門ではどうしようもなかったのです。『カネにならないことはしない』の弊害ですね。

なのでここファシールでやることは、知識の獲得と継承です。基礎的な研究を進め、何かが起きた時にはできるだけ早く対応できるようにする。その上でギルドと協力体制を取る。

国の一大事の時は国が主導権を握って対応する。それだけのことです。


農作物についても似たような感じです。ここにはギルドは絡んできませんが。

この国の領主貴族は、やれ『麦を作れ』、『芋を作れ』の連呼です。フロンティーネで領主導で農場をやった結果、麦と言っても出来るものと出来ないものがありました。作物も生きていますから、環境によっていい悪いがあるのでしょう。同じ環境でも収量の多いもの、病気や干害に強いものなどいろいろな種類があります。地域に合わせた作物を指導する、これはこの国の食糧事情を考えるととても大切なことです。麦や芋、最近フロンティーネで栽培をしているコメなど、どのように扱って加工すればよいのかを指導する。今まで農民が感覚でやって来たものを系統化できれば、素晴らしい事だと思いませんか。

今は国中で麦の芋も豆も野菜もみんな作っています、環境に関わらずに。



ラファーネさん、頑張ってね。




それにしても結婚かぁ。私の周りの人はみんなしちゃってるのよね、マリアンナもサフィアもエレンも。それにファシールのみんなもしてたなんて……

だから私がたまに帰ってもチョッカイ出さなくなったのか。それはそれで寂しい気も……しません。




私だけ行き遅れ?まだ大丈夫よね。人間の寿命が80年だとすると、私はまだ1歳と少しなんだから。

なに開き直ってるのかって?いいのよ、自分で慰めてるだけなんだから。ほっといて頂戴っ!!

でも実際問題難しいわよね、私の場合。



はぁ………





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