第141話 閣議
「皆が一同に集まるのも久方ぶりだな」
「そうですな。ここにいるものの中にも半数以上が療養を余儀なくされていたからな」
「皆も知っているとは思うが、今こうしてこの国があるのもミルランディアのおかげというものだ。改めてここにいるものの代表として感謝する」
「ど、どうも。ありがとうございます」
「国内の様子はどうだ」
「バオアク周辺は復興にまだ時間がかかるものと思います。特にバオアクの北部に広がる農地がかなりの痛手を負っています。多くの農民が病に倒れたため、畑が荒れ果ててしまっています。畑の復興まで3年、元の収穫量に戻るまで5年はかかるでしょう」
「商売の方はどうだ」
「農作物は先ほどの報告によりほぼ停滞です。ドレンシア連合国との交易ですが、まだ連合国の方がそれどころではないようです。国全体がまだ病気を克服できていないようです」
「そうか。ミルランディア、薬はまだできるか?」
「半年あれば100万人分ぐらいなら」
「準備だけしておいてくれ。クロラントはどうだ」
「バオアクよりはましといった感じです。バオアクもそうですが、やはり商業都市は人も多いので被害もそれなりには。ただ周辺の街の被害がそれほどでもなかったのが救いかと。ニールについてはほぼ復興が終わっています。他の中規模も街、キラフとかベルンハルドはほぼ元通りですね。と言っても西側の街は被害が大きいという事には変わりありませんが」
「フロンティーネはどうなんだ」
「被害は殆どありませんでしたね。もともとグラハム卿との間のトンネルしか道がないので、バオアクで病気が流行り出して王都に広がり始めたと聞いた時にすぐに封鎖しましたんで入れずに済みました。でもこれはフロンティーネだったからだと思います。ミルランディア領は食糧の自給が出来ているので、全ての領民が食べていくことは出来るんです。それでも少しは罹った人がいましたけど、特に問題はありませんでしたね」
「食料と言えば、収穫の見通しはどうなっている」
「バオアク周辺の農地がダメですので、かなり悪くなるかと。周辺の町や村もバオアクの食糧に依存していますから、不作で手に入らなくなれば離れる者も増えるかと。そうなればなおさら復興が遠のきます」
「ミルランディア、お前のところはどうなんだ」
「備蓄分を確保しないで国内に廻せば、食糧の大規模な不足は起きないと思います。ただその状況下で不測の事態が起きた場合には……」
「今は備蓄している分は残っているのか?」
「ありませんね。全部支援で出してしまいましたから」
「5年か……。もたせられるか?」
「何年か前から南方産のコメと言うのを始めています。手間はかかりますが麦よりも収量が多いので、併せて使っていけば……」
「コメってあの家畜の餌のか?」
「えぇ。それを改良したものです。フロンティーネでは出回っているので私も食べていますが、とてもおいしいですよ」
「信じられないが状況が状況だ。コメも流通させよう。他に何かあるか?」
「陛下、恐れながら申し上げます。王国の資金のことなのですが……」
「資金がどうしたのだ」
「このところの緊急の援助などで大幅に減っています。さらにこの先の税収の落ち込みも予想されます。このままでは……」
「仕方あるまい、増税するしかないだろう。陛下、ご決断を」
「財務大臣よ、この状況で増税を行ったらどうなる?」
「貧しい農民などは畑を棄て食料を求めて街に集まるでしょう。と言っても仕事がある訳ではないので、スラム化が進むのは必至かと。貧しい農村だと村ごと棄てるところも出かねません。そうなると盗賊共のアジトとして使われる可能性も」
「農民が街に集まってくるのなら、そいつらを使って道路の整備でもやらせればいいじゃないか」
「そのための金がないと言ってるのではないですか」
「それはそうだが……」
「生活に必要のないものに税金をかけては」
「例えばどういうものだ」
「宝石とかクルマとかドレスとか」
「ク、クルマもですか?」
「ミルランディア様には申し訳ないが、生活に必要という訳ではないだろう。以前は馬車しかなかったわけだし。それに今あるものはそのままなのだから、大きな混乱は生まないと思うぞ。新たに購入する時に払うものだ。売ってはいけないと言ってる訳じゃない」
「………」
「資産に応じて税を納めるというのはどうでしょう」
「貯め込んでいるところから取るという事か」
「そんな感じです。先ほどの贅沢品にかける税もそうですが、裕福な商会や貴族などの反発も予想されます。慎重に仕組みを作る必要があるかと」
「財務大臣を中心に内務、農政、商務、経済の各大臣と共に案を作るように」
「「「「「承知しました」」」」」
「周辺国の様子はどうだ」
「病気でやられたのが、ドレンシア連合国とサウ・スファルですね。特にドレンシアは先ほどの報告の通りです。アズラートとドルーチェはそんなに大きな被害はないようです」
「ミルランディア、ドレンシアに行ってきてくれないか。薬の提供を考えていると。無論無償ではないがな」
「分かりました。バオアク復興のためにもドレンシアには頑張ってもらわないといけませんからね」
「そういう事だ。サウ・スファルについては向こうから話があった時に対応すればよい。他には何かあるか」
「あのぅ、ちょっといいでしょうか……」
「どうした、ミルランディア」
「ファシールのことなんですけど……」
「ファシール……病人の受け入れをしたところか」
「ええ。元々保護施設として造ったところですけど、もう施設としての役割は終わりました。今回の病人の受け入れに際して残っていた人を一時的にフロンティーネに移ってもらったのですが、その人たちがフロンティーネに残るということになったのです。なのでファシールに残る人がいなくなったということで、この先どうしたらいいかと思いまして皆様のご意見をお聞きしたいのですが……」
「「「(…………??)」」」
「どうかしました?」
「なぜミルランディア様がそのようなことを……仰っている意味が分からないのですが」
「だから、ファシールをこの先どうすればいいのかと言うことをですね……」
「この先も何も、ファシールはミルランディア様の領地ではないですか」
「えっ?違い……ます……よね……?」
「ファシールはミルランディア様の領地だろ」
「そうだよな」
「皆さんそう言う認識なんですか?そもそも東部にあるミルランディア領からかなり離れていますけど」
「もともと誰の管理地でもない森を開いて作った町だろ。であるから作った人、ミルランディア様の領地と言う事であろう」
「ファシールの代官を始め、あそこで働いている人たちは中央の役所の人たちですよね」
「保護施設の時はな、目的があれだったのでな。この先どうするのかわからんが、そのまま使ってもいいし、もちろんミルランディアに仕えるという形でな。ファシールは好きにしていいぞ」
「はぁ……考えてみますけど、何かいい案があったらお願いしますね」
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