第140話 終息

「それから………」


「分かってる、フィル王子のことだろ」

「ええ……もっと早く完成させていれば……」

「仕方あるまい。熱が出て2時間後には急変、1時間後に亡くなるとは誰も思ってはいない」

「急変するケースの報告はあったんです、少しでしたけど。若い人が多かったようですけど」

「おちついたら葬儀を行おう、二人分のな」

「お二人?」

「ミーアは知らないのか?アルベルト前国王も亡くなったんだ」

「それは知りませんでした」



ようやく治療が終わりました。とりあえず王都だけだけどね。

薬の完成から約半年。いろいろ揉めましたよ、主に貴族関係で。

王都には貴族街と呼ばれる地区がありますが、そこに屋敷を構えているのは伯爵家以上の上級貴族。多くの下級貴族は各所に屋敷を構えています。流石にスラム地区にはありませんけど。

治療は予定通り王都の各地区にある教会で行いました。1週間7日のうち6日を平民、1日を貴族にして。

「何故平民が貴族より多くの日にちが割り当てられているんだ。私たちがいるから平民共は生活ができるのであろう」

私たち貴族は平民の人たちが納めた税で暮らしているんですよね。それに平民の人たちって貴族の人たちの100倍もいるんですよ。まったく自己中もいい加減にしてくださいね。

まぁそういう人には教会で薬を売ってることを教えましたよ。銅貨10枚で治療を受けるか、金貨1枚で薬を買うか、考え方次第ですけどね。


生産者ギルドと幾つかの商会から問い合わせはありました。

「薬の生産なら生産者ギルドの製薬部門でお引き受けしますが」

「出来るんですか?ギルドで、管理を。高価な素材をかなり使いますけど、いくらで売ろうとしているのか知りませんけど。ギルドで作られたもので問題が起きても、こっちは知りませんよ。いいですか、王宮の製薬部門で作った薬で教会は銅貨10枚で治療するんです。平民の人たちは教会での順番待ちですよ。薬を販売しても買うのは貴族とか裕福な人だけですよ。そんな人達を相手に売った薬に問題があったら、ギルドは大丈夫なんですか?」

「……そ、それは……。なら教会で使う分の生産を……」

「いくらで卸してくださいます?ユニコーンの角や魔茸などはどうするんですか?他にも多くの種類の薬草が必要ですけど」

「……。でも王宮はそれなりに作ってるんですよね」

「王宮では利益は要りませんからね。それでも1人分作るのに金貨1枚弱はかかっていますよ。早急に静めないといけないので教会でタダ同然で治しているだけです」

「なら一人分銀貨50枚で納めますから」

「品質の保証はしていただけるんですよね。不良品が出たらギルドが全責任を負ってくれると」

「全責任……、そ、それは……」

「ギルドが検査の方法の詳細と補償に関する誓約書を出すのなら、薬の製法について公開しましょう」

「分かりました。持ち帰って検討します」


「ミルランディア陛下、私の所にも薬を卸していただけないでしょうか」

「「「私の所にも…」」」

「ちょっと待ってください。あの薬は卸すつもりはないんです」

「ならなぜ教会で売ってるんです?」

「教会は基本的には治療です。治療ですから薬は教会で飲んでもらっています。治療の一環ですから薬代は貰っていません。そのように通達しましたので。ただそうしても薬を持ち帰りたいという人も中にはいます。これは治療には当たりませんので薬代を頂いています。それだけのことです」

「なら私どもの所にも卸してくれてもいいじゃないですか」

「だから言ってるでしょ。薬はのためのものですって。あなた達がちゃんと治療をしてくれるんですか?治療をするということは病気の人たちが押し寄せて来るんですよ」

「「「………」」」

「治療をするというならお渡ししますよ。ただし薬は一人分金貨1枚、1000人分のうち50人分だけ販売を許可します。売るときも金貨1枚以上の値段を付けてはいけません。売るときは1人に付き3人分まで。どこの誰を治療して、どこの誰に売ったのか記録を出してもらいます。その上で治療を行った分の補填を行います。虚偽の報告をしたら……分かりますね。それでもいいというのならお渡ししますけど、皆さんどうします?」

「「「………」」」

「教会はこれをきちんとやっていますよ。教会でもできることですから、あなた方でもできるはずです。やりたい方は申し出てください」

「これじゃぁちっとも儲かんないじゃないか」

「儲かる?何を言ってるんです、儲かる訳ないじゃないですか。国だってですよ。それでもやらなければいけないんです、この国のために。そんな覚悟さえしないままここに来たんですか、あなた方は」

「「「………」」」

「よく分かりました。あなた方のことは覚えておきますので。このヘンネルベリ王国の一大事に儲けに走った商人として」

「「「申し訳ありませんでした」」」



その後間もなく(といっても1年以上かかったけど)国中に薬がいきわたり、この病との戦いは収束を迎えました。

1年が間もなくって思えるのって、やっぱ寿命が延びたせいなのかなぁ。


「陛下、病との戦いを終わらせることが出来ました」

「ミーア、ご苦労だったな。ようやく我々はこの戦いに勝つことが出来たのか」

「勝ったとは言えないと思います。多くの人たちが亡くなっていますので」

「それもそうだな。見えない敵との戦い、勝ったと言っても賠償が取れるわけでもない」

「でも教会が協力してくれたおかげで混乱も少なく済みました」

「ミーアの手腕が優れていたということだな」

「そんなことはないと思いますけど。周りのみんなが支えてくれたおかげです。これで代行返上で構いませんよね?」

「そのことなんだが、正式に国王に就いてみないか。私も近くで見てはいたが、ミーアの手腕、知識、統率力は素晴らしいものがある。それをここで手放すのは惜しくてな」

「い・や・で・す」

「どうしてもか?」

「前にも言ったじゃないですか。私は他の人たちと違って寿命がとても長くなっています。今回は2年ぐらいと短かったからよかったですけど、正式に国王となればもっと長い間ですよね。50年たっても姿が変わらず、100年たっても元気なままだとしたら、この国の人たちはどう思うでしょう。そのうち私を化け物扱いしますよ。そんな未来が分かっているのに、国王になるはずがないじゃないですか」

「そうだな。ミーアよ、いやミルランディア国王代行よ、大変な職務を勤め上げ、ご苦労であった。只今を以って国王代行の職を解くこととする」

「承知いたしました。今までいろいろとありがとうございました」

「おいおい、どこかへ行ってしまう訳じゃないだろうな」

「へっ?行きませんよ。自分の領地に戻るだけですよ。そのうち旅にはいくかもしれませんけど」

「まぁそれぐらいならな。代行ではなくなったが代理ではあるからな」

「ここのところ放っておいたフロンティーネを見ないといけないですし、ファシールのこともありますから」



一月後、アルベルト前国王とフィルスラード殿下の国葬が執り行われました。多くの犠牲者の代表として。



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