第139話 薬の開発
「これでどうかな」
「陛下、出来たのですか」
「ここでは陛下って呼ぶなって言ってるでしょ。一応出来たかなって感じだけど」
「なら早く量産を」
「まだよ。確かにこれなら毒は消せたわ。でもまだうつす元の方は効かないから」
「でもその薬で患者の容体は治るんでしょ」
「一時的にはね。でも元を治していないからまたすぐに具合は悪くなるわよ。それに……」
「でも苦しんでいる人もいるのですから、薬を与えるべきでは」
「まだね薬にはなっていないのよ。毒を消せるだけ。今のまま投与したら体にどんな影響が出るか分からないんだから」
「じゃぁまだなんですか」
「投与の試験は始めるわよ。でもどう効くかまだ分からないから慎重にやらないと。何回も与えていいのか、量は、他に影響が出ないか。人に使う前にやることはたくさんあるわよ」
「「「はいっ!」」」
薬の研究を始めて一月半、ようやく少し形になってきました。この間にも多くの人が病に罹り、そして多くの命が消えていきました。開発チームの焦りも分からないではないですが、ここで間違えると取り返しのつかないことになりかねません。120年前の薬は治ったのが6割、具合が悪くなったのが3割でした。そんな出来では危なくて使えません。せめて具合が悪くなる人が1000人に1人ぐらいにならないと。
更に開発を進めた結果、血液中に含まれていた毒を消す薬が一応完成しました。
「ミーア様、やりましたね」
「ええ。でもこれからよ。まだこの薬が本当に人に効くかは分からないんだから。これから大掛かりな試験を始めるわよ。ファシールで治療を始めます」
「ここまで出来たんだから、もういいんじゃないですか」
「人で試してみてそれで大丈夫ならたくさん作るわよ。でもね、もし具合が悪くなる人が多かったらどうするの」
「それは運が悪かったとしか……」
「それがあなたの奥さんや子供、親でもそう思える?」
「……それは……」
「完全な薬なんてないわよ。ポーションだって使い方を誤れば治りは悪くなるし後に遺ることもあるわ。でもポーションはみんな飲む。何故だか分かる」
「みんなが飲んでいて、問題ないから……」
「そう。だからこの薬もポーションほどではなくても、飲んでも問題ない程度にはしないといけないのよ。ファシールにいる人たちは薬の試験をすることを知っているし、協力してくれる人たちよ。危ない事も知らせてあるわ。だからまずはファシールで実績を作るのよ」
「はい」
ファシールには様々な症状の人が集められています。子供から年寄りまで年齢もさまざま、症状も軽い人から重い人まで。もちろん男性も女性も区別なく。
様々なケースで試せた結果、多くの知見を得ることが出来ました。
「出来ましたね」
「ええ」
「では早くこれを量産して、病気の人たちに」
「まだよ」
「でも出来たじゃないですか」
「じゃぁこの薬を王都で広めたらどうなると思う?」
「具合の悪い人が治って、王都に活気が……あっ!」
「そうよ。この薬は熱や呼吸の症状を治すだけ。この病気の根本は治せないの。でもこの薬で治った人は病気が治ったと思うわよね。そんな人が王都中に広がったら、まだ病気に罹っていない人たちに広まるのよ。そうなったら余計に手が付けられなくなるわ」
「そうですね。うつす元と一緒に治さなければダメなんですね」
「それだけじゃないわ。この薬をどうやって配るのか。この薬で一儲けしようとする人も出て来るわ。平人を下に見る貴族なんかは優先しろだとか言い出すでしょうし。まぁこれは私の仕事なんだけどね」
「わかりました、私たちはもう一つの方も進めます」
「よろしくね。成果がでたら教えて頂戴」
「はいっ」
その後、開発メンバーの努力の甲斐が実り治療薬が完成しました。半年かかりましたけど。
私の【創薬】のスキルでどうにかならなかったのかって?ならないんですね、こういう未知の病気には。スキルでできる薬って傷薬や一般的な毒消しや麻痺消しみたいなものだから。
時間はかかったけど、これでこの国に薬を作る方法が出来たのは一つの成果ね。
「皆さん、長い間ご苦労さま」
「ホントに嬉しいです」
「皆さんのおかげで薬が出来ました。ただこれで私たちの仕事が終わったわけではありません」
「「「………?」」」
「これからこの薬を量産しなければなりません」
「生産ギルドには協力をお願いしないんですか?」
「この騒動が完全に収まるまでは、ギルドを通じた生産は行いません。そもそも魔茸やユニコーンの角はどうするんですか?」
「それはここが提供元となれば…」
「ここにいる皆さんは一生懸命やってくれました。でも生産者ギルドだとどうですかね。あちらは利益優先です。いくらレシピを公開しても高価な素材を使って安く卸すことが出来るとは思えません。高価になるか必要な素材を使わずに作るか」
「「「………」」」
「ユニコーンの角を買ったとしてもこの薬に使わないかもしれません。角はそれだけ希少性の高い素材ですからね」
「なら作られた薬の検査をすれば……」
「誰がするんですか?どうやって?薬は作れましたが、他で作られた薬の検査は今は出来ませんよね」
「そうですね」
「ミルランディア様、この薬はいくらで売るんですか?」
「今考えているのは銅貨10枚です」
「銅貨10枚?そんなに安く……」
「流石にタダって訳にはいきませんからねぇ。それぐらいがいいところではないかと」
「その値段だと大量に仕入れられて高値で転売とかあるのでは」
「店売りはしませんよ。教会に来てもらってその場で飲んでもらいます。ところで皆さんはこの薬をいくらぐらいと考えてます?」
「……銀貨…80枚…ぐらい?」
「流石に銀貨80枚は高いと思いますけど…」
「そんなことないですよ。それでも安いと思いますよ。材料費だけでもそれぐらいはかかっていますから。金貨1枚でもいいぐらいです」
「それはあんまりですね。じゃぁ銀貨80枚で売ってみましょうか」
「どこの商会に卸すんですか?」
「商会じゃありません、ミル薬局です」
「「「……なるほど」」」
「あっ、やっぱ止め」
「どうしてです?」
「ミルで売ると他の商会が五月蠅く言ってくるわ、自分の所にも卸せって。ミルを私がやってるっていうのはみんな知っているから、自分だけ儲けてとか言い出すでしょ」
「でも利益なんか…」
「同じよ。なんだかんだ言って自分の所にも卸させようとするから」
「それじゃぁ販売はしないんですか?」
「そうねぇ……教会に任せちゃいましょうか、手間賃って事で」
「でもいいわね」
「さぁ、とにかく量産しないと。まずは1万人分。100万人分は作るからね」
「「「はいっ!」」」
教会で金貨1枚で売ることにしました。順番を待てない貴族たちがこぞって買いに来るでしょう。これまでも教会の人たちには地域をいろいろと見てもらっていたからね。それに応えるという意味でもいいかなって。
「リオおじさん、ようやく薬が出来ました」
「そうか。よくやってくれた」
陛下に薬を渡しました。
「10日ぐらいは安静にしていてくださいね」
「わかった」
「それから………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます