第138話 北の反乱

「陛下は?」

「研究室だと思いますが……」

「分かった、ありがとう」


(早く陛下にお知らせしなければ……)



「陛下。……陛下」

「………」

「陛下。……ミルランディア陛下」

「あぁ、私のことか。ゴメン」

「まったく……。もう一月以上たつのですからそろそろ慣れてくださいよ」

「ハイハイ」

「薬の方はどうですか?」

「まだねぇ。決め手となる組み合わせがなかなか……」

「それはそうと、お知らせしなければならないことが」

「何?」

「北部のドルソール子爵が兵を挙げたとのことです」

「兵を挙げたって、反乱ってこと?」

「そのようです」

「北部っていう事は、方面軍はどうしたの」

「申し上げにくいのですが、北部方面軍の半数以上がドルソール子爵に同調しているようで……」

「今の状況を教えて」

「はい。5日ほど前だと思いますが、ドルソール軍が王都に向けて兵を進めたと聞いています。その後、子爵と親交のある貴族が合流して、更に近隣の町や村を預かっている者たちも合流しているようです。現在その数7000、今後も増えると思われます」

「なぜ北部方面軍が同調してるの」

「ドルソール子爵は爵位こそ子爵ですが、実体としては辺境伯に近いとも言われています。ドルーチェと国境を構えていて、領軍も規模こそ子爵クラスですが、練度を考慮するとそのレベルではないものとなっています。子爵自身が軍閥で、北部軍に大きな影響力を持っているのも確かです。それゆえ地元徴兵の兵たちは子爵寄りの者が多いのかと」

「でもなぜ今……」

「推測ではありますが、陛下の就任に不満を持ったのかと。もとより北部は古い考えを持つ者が多いと言われています。女性が表舞台に立つことを良しとしない風潮です。特にドルソール子爵はその傾向が強く、公の場でも男尊女卑の発言が多い人です。それ故に一部の者からは強い支持を受け、中央からは疎まれると言った図式になっているようです。今回の挙兵は政変クーデターではなく、中央の弱体化、地方への権限の大幅な移譲が目的ではないかと。兵は進めていますが、戦闘行為は一切行っていません」

「子爵ぐらいでそんなこと出来るの?他にどこかから支援を受けているとかは?」

「支援は受けていると思いますが、具体的には……」

「ドルーチェってことはない?アズラートの時にかなり強引に引かせた経緯があるから」

「ドルーチェと言う線はないでしょう。子爵もアズラート戦での陛下の活躍は知っていると思います。ドルーチェの支援となれば目的は政変、しかし陛下を相手にしては無謀すぎることは重々承知しているはずです」

「第二、第三騎士団を出して頂戴。兵は王都に入れないこと。ドルソール子爵とは話をしますので、登城するように伝えて。第一騎士団は王城の警備を厳重にするように」


まったく面倒なことです。寄りにもよってこの病の真っただ中にです。北部はまだそんなに広がっていないのでしょうね。

それにしても国王陛下リオおじさんの予想がこうも当たるとは。恐れ入ります。



「ドルソール卿、面を上げなさい」

「これはこれはミルランディア様、ご無沙汰しております」

「ドルソール卿、陛下の御前ですぞ」

「陛下?ただの代行ではないか」

「失礼にも程があるぞ。許されるものではないからな」

「ところでドルソール卿、其方何をしに来たのですか」

「登城しろと言われたので来たのですが」

「本気でそう言っているのか」

「ええ」

「なら兵を纏めて帰りなさい。当分の間謹慎を申し渡します。追って沙汰を下しますので、大人しく待っていなさい」

「はいと言って素直に帰ると思っているのか。そもそも私はあなたがそこにいることを認めてなんかいないんですよ」

「ドルソール、不敬にも程がありますよっ!」

「ならもう一度問いましょう。其方は何をしに来たのですか」

「北部の開発支援、あと領政の裁量権の拡充、それからあなたがその座を退くこと。それを要求しに来た」

「そんなことが通るとでも思っているのですか」

「俺たちがどんなに声を挙げたって、こっちの連中は聞きゃしねぇ。だからこうやって直訴するしかねぇんだよ」

「直訴にしては大層な行列ですね、万にもなろうという兵を引き連れて。それにお願いをするのであれば言葉を選んだ方がいいのではないですか」

「とにかくさっきの条件を飲んでもらおうか。俺も覚悟を決めてここまで来てるんだ」

「それについてはあなたの要求を飲むつもりなど微塵もありませんよ。一度でも認めるとあなたたちのような輩が次々と出て来ますからね。大人しく帰って謹慎をするのであれば情状を酌量しないでもないですが、これ以上反抗的な態度をとるのであれば拘束せざるを得ませんよ。どうします?」

「………わかった、退こう。ただ北部は本当に困窮しているんだ。それだけは何とかしてくれ」

「リオンハイム陛下には伝えておきます。だけどすぐには動けませんよ。リオンハイム陛下も病床に臥せっていますし、今はとにかくこの病を収めることが最優先ですから。ただ北部とてヘンネルベリ、王国には変わりありません。地域の発展が王国の発展であることに違いありませんから、北部を見捨てるようなことはしません。これは約束しましょう」



とりあえず帰ってはくれました。特に騒乱があったわけじゃないし、兵士は王都に入っていないし、それよりなにより病のせいで外にいる人も少なかったので、大事にはならなかったけど。表面上は……


「陛下、具合のほうは如何ですか」

「ミーアか。変わらんな。そんなことよりミーアは私の所に来て大丈夫なのか?うつりはしないのか?」

「大丈夫みたいですよ。私の毒無効スキルと竜の血が護ってくれているみたいです。

先ほど北部のドルソール卿が訪ねてきました。訪ねたというより兵を挙げて王都に行軍してきたんですけど……」

「なんだと!ドルソールの奴が謀反を起こしたのか」

「戦闘は行われませんでしたし、兵も王都へは入れてませんから混乱はしなかったんですけど」

「で、奴はどうした」

「お引き取り願いました。戻って謹慎するように言ってあります」

「捕まえなかったのか」

「ここで今回の首謀者であるドルソール卿が戻らなかったら、王都の外で待機している10000近くの兵が何をしでかすか分かりませんでしたので。今は彼の事で時間を割くことが出来ませんから」

「奴はなんと」

「記録を残してありますので、ご覧いただきますか?」

「見よう」


………


「……あの不届きものめ、打ち首にしてやろうか」

「ちょっと待ってください。せっかく大事にしないようにしたのに」

「そうだな。だがミーアに対するあの態度は許せん。然るべき処罰をしなければならないし、厳正に対処して無駄な騒乱の目を潰さねばならないからな」

「処罰の内容は陛下がお決め下さい。それを伝えるときには私が陛下と私の連名で行いたいと思います」

「なら処罰はこうだ。今回の挙兵に関わったドルソール以下それぞれの家の者は、当主の隠居。更に首謀者であるドルーチェは納税の額を向こう4年間5割増し、他の家の者は2年間5割増し。ただし領民への増税は一切禁止。こんなところでどうだ」

「同調した北部方面軍の兵はどうします」

「1年間の3割減俸、配置換えと言ったところであろう」

「分かりました。それで書類の方を作成しておきますので、後で確認とサインをお願いします」

「ミーアのサインだけでもいいのだが」

「いえ、ここは陛下のサインもあった方が効果的です」

「で、いつ通達するのか」

「軍の方はすぐに行います。ナジャフ軍務卿は?」

「奴は元気だ」

「配置換えの案が決まり次第発令します。貴族家の方は暫くは問題ないでしょう。不満はあるかとは思いますが、立て続けに次をやったら、それこそお家取潰しになりかねませんし。それぐらいの判断はできると思いますよ。半年ぐらいは手が付けられないと思いますから。薬の開発で手一杯なもので」

「ミーアに任せるが、薬の開発はミーアでないと出来ないのか?」

「私一人でやってる訳じゃありませんよ。医者や薬師、錬金術師など総勢40人ぐらいでやってます」

「ミーアには負担をかけてしまっているが、頼れるものが其方しかいないのでな。よろしく頼むぞ」

「分かりました」



一応決着だね。ドルソール卿を始め同調した貴族家の皆さんは、高い授業料を払ったって事で。



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