第136話 女王ミルランディア

「今、この国は病と闘っている。西から広まったこの災難は、今や王都で猛威を振るっている。私を始め多くのものが病と闘っているところである。この国難に於いて幸いなことにミルランディア王女については無事であり、政務についても不安がない。この国が、ヘンネルベリ王国が元のようになるまでの間、ミルランディア王女に国王の権限を移すこととした。只今を以ってミルランディア女王とする」

「ミルランディアです。この状況を克服するには皆さんの協力が欠かせません。一刻も早くこの状況を改善するために施策を次々と打ち出しますが、私を信じてついてきてください」



「ミーア、頼んだぞ」

「はい。まずはこの王都を鎮めることから始めます。伯父様たちはとにかく部屋から出ないでくださいね」


お城のことは昨日指示しておいたから大丈夫だと思うの。

それよりこの病気の事ね。何とかしないとさらに広がりそうだし……



「ナビちゃん、ナビちゃん」

「あっ、ミーアだ。どうしたの?」

「ちょっと教えて欲しいんだけど、今この国で流行っている病気についてなんだけど」

「それかぁ、ちょっと分かんないのよね」

「えっ!なんで?」

「ほら、私って【世界樹の】じゃない。今までに起きたことは分かるんだけど、今現在起こっていることはまだ記憶されないのよ」

「それならこういうのだったらどう?『今までにこの病気と同じか、似たようなものってあった?』」

「それなら調べられると思うよ。ちょっと待っててね」


………


………


………


(お、遅い……いつもならすぐ答えが出るのに……)


………


「おまたせ」

「うん、待った。ずいぶんと時間かかったんじゃない?」

「調べるって言ってもね、結構大変なのよ。それでね、似たようなことがあったわよ」

「ほんと!ねぇ詳しく教えて」

「そう急かさないの。えぇと一つ断っておくけど、あくまで『』だからね。120年ぐらい前に流行った病気で、高熱が出たり息がしにくくなったりって感じで、まぁ今のと似てるわね。あと人から人にうつるのも」

「そうねぇ。でも120年も前の事か。おじいさまに聞いても分からなさそうね。で、その時はどうなったの?」

「かなりの人が死んだわよ。特に小さい子供とお年寄り。スラムや貧しい農村なんかはかなりの人が死んだわ。でもね、貴族や騎士、兵隊や上級の冒険者なんかは死者は少なかったみたい」

「それってどういうことなのかなぁ」

「体が弱い人、弱ってる人は病気に罹ると死ぬ可能性が高かったけど、逆に丈夫な人、鍛えてる人、貴族みたいにちゃんと食べられる人なんかは平気って事かな」

「じゃぁ今回も同じようだとすると、危ないのは農村とスラムって事ね」

「多分ね」

「農村がやられると、王国の食糧事情が悪くなるか。スラムで死者が増えると別の病気が怖いわね。ねぇ、前の時はどうやって鎮めたの」

「静かに寝ていて治ったって言う人もいたわ。でもそういう人たちはだいたい2~3カ月は寝てたみたいだけど。その間に具合が悪くなれば死んじゃうからね。あとは薬ね」

「薬?」

「うん。病気で体力が落ちてきた人にポーションとマナポーションを飲ませると、少し体力が戻るみたいね。片一方じゃダメで、必ず両方飲まないとダメみたいよ。あと、頻繁に飲んでると効き目が薄くなるみたい」

「ポーションはいいとしてもマナポーションは高くつくわね。でもそれじゃ治んないんじゃないの」

「あと薬もできたわ。でもね、その薬で治るのも半分ちょっとかな。10人に薬を与えて治るのが6人ぐらい。残り4人のうち3人は余計に具合が悪くなったの」

「そんなの危なくって飲めないじゃないの」

「うん。でもそれしかなくって、薬を薄めて使ったりして何とか治したって感じみたい。結局その病気が完全に収まるまで7年ぐらいかかったみたい」

「7年かぁ。その後しばらくは厳しかったでしょうね。農村がダメージを受けていたんでは。そう、薬よ。薬の作り方を教えて」

「ちょっと待って、その時の病気と今の病気は違うよ。その時の薬で今の病気に効くかどうかは分からないんだから」

「でも、今はそれをきっかけにするしかないでしょ。早く薬を作って治さないと」

「分かったわ。えぇと材料なんだけど、薬草が7種類に毒消し草が5種類、麻痺消し草が4種類に麻痺草が2種類」

「ちょっと待って、麻痺消し草と麻痺草がいるの」

「そうなってるわ。麻痺草の効果を打ち消さない麻痺消し草が要るんじゃないのかな。他には角兎の角とジャイアントベアの肝臓、ジャイアントキラービーの蜜、それに魔茸ね」

「魔茸……魔茸って、あの……」

「そうよ。魔薬の原料になるあのキノコよ。そしてミーアが考えている通り、120年前に魔茸を栽培していたのはカルシュクのあたりよ」

「やっぱり」

「でもね、当時は魔茸を使った魔薬はなかったわ。あれが出来たのはその後の話」

「…そ、そうなのね……」

「………」

「あと、角兎の角だったっけ。あれって効果あるの?」

「全くない訳じゃないみたいよ。まぁ気休め程度なんだけどね。本当はユニコーンの角のはずなんだけど、当時も今もユニコーンの角なんて手に入らないじゃない。ミーアじゃあるまいし。だから僅かな希望に賭けたらしいわ」

「じゃぁやっぱりユニコーンの角のほうがいいんだ」

「そりゃね。なんせ聖獣と呼ばれるぐらいだしね」


「で、これからどうするの?」

「先ずは国王女王としてこの病気に関して決まりを作って施行するわ。食糧の確保も急務だし、病人を集めないといけないしね。あとは薬の開発も進めないとね。材料がかなり細かいし、それに何と言ってもこの病気のための薬じゃないから改良も必要になるからね」

「病人を集めるの?どうして?」

「他の人にうつさないためかな。あとは病気と治療の研究をするため。薬を作っても試さなきゃいけないし、そのためにも集めておいた方が都合が良いのよ」

「ふーん」

「これから2~3カ月が勝負ね。1年ぐらいで何とかなればいいんだけど……」



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