第135話 奔走

「エルフィ、ウィン、王都がピンチらしいの。旅は中止よ。帰るわよ」


王都かフロンティーネか、どっちに戻るか考えたけど、フロンティーネに戻ることにしました。エルフィたちの安全を考えてもそうなるわよね。

「戻ったわよ」

「ミルランディア様、お帰りなさいませ」

「キルシュレイクとアルトーンを呼んで頂戴」

「はい」


「ミルランディア様、いつお戻りで」

「ついさっきよ。それよりジャスティンから話を聞いたんだけど、王都で病が流行ってるって?」

「そのようです。幸いと言いますか、ここは王都からかなり離れているので」

「そのことだけど、トンネルの封鎖は出来てるわね。グラハム辺境伯には私から話しをしておくから。食糧は問題ないわよね」

「大丈夫です。余裕はあります」

「なら少し持ってくわ。バオアクがマヒしているようだから、王都も物資が足りていないでしょうから。緊急用のを10セット用意しておいて。私もすぐに王都に向かうから」

「分かりました」

「こっちのことは任せたわよ」


(病人を分けないとダメね……ファシールか……)


**********


「ラファーネさん、お久しぶりです」

「あっ、ミルランディア様。何か御用でしょうか」

「ちょっと教えて欲しいんだけど、今ここってどれぐらいの人がいるの?」

「えぇと、確か……103人だったと思います」

「えっ?そんなに少なくなったの?」

「はい、交流区での出会いで、かなり出て行きましたね」

「また騙されたり酷い目にあったりなんてことないわよね」

「多分大丈夫だと思います。一度地獄を見た人たちですからね。彼女たちは強くなりましたよ」

「そう、ならいいけど。ならここってだいぶ空いてるわよね」

「そうですねぇ」

「そこで相談なんだけど、残ってる人を一時的にフロンティーネで受け入れようと思うんだけど。ダメかな」

「ファシールを閉めるっていう事ですか?」

「そうじゃないの。違う用途で使いたいのよ」

「私たちはどうなるんでしょうか」

「もちろんこのままお願いするわ。一部の人はフロンティーネで対応にあたってもらわないといけないけど」

「ここをどうするんですか」

「病気の人の療養施設にしようと思って。これだけ整っているところってこの国でここしかないから」

「病気?何かあったんですか」

「今ね、かなりの人が流行り病で苦しんでいるのよ。ただその病気が他人にうつるみたいで。病人を罹っていない人から離すのに使いたいのよ。もちろんこの騒動が終わったら元に戻すわよ」

「分かりました。で、いつですか」

「ここ2~3日で動いてもらうことになるわ。大変だけどお願いね。フロンティーネでの生活は心配しなくていいて言っておいてね」



病人の受け入れは何とかなりそうね。

じゃぁ、王都に行きますか。


**********


「マリアンナ、いる?」

「ミーア様、戻られたんですか」

「えぇ。屋敷の人で病気になった人はいる?」

「はい、仕入れの担当が1人と門番が1人です」

「今どうしてるの」

「自分の部屋で休んでいます」

「食事とかは」

「使用人が運んでいますが」

「ありがとう。門は閉じるように言って。あと、病気の2人と関わっていない人をホールに集めて。関わった人は、そうね……食堂に集めてもらえる」

「承知しました」


さて、まずは大丈夫な人たちからね。

「えぇと、ここに集まってくれた人たちは、一応今王都で流行っている病気に罹っていないと思われる人です。念のため、10日程度はこのまま王都にいますが、病気が発症しなければ一時的にフロンティーネに移ってもらいます。この病気の騒動が沈静化するまでですね。不自由かも知れませんが、部屋からは出ないようにしてください」

「あの、お仕事の方は……」

「今は仕事なんていいです。病気に罹らないことを優先してください」

「食事はどうするんですか?」

「私のスキルに【ドールマスター】というのがあって、人形を操作することが出来ます。人形は病に罹りませんから、それで用意します」


次は怪しい人たちだね。

「皆さんは、今王都で原因不明の病気が流行っていることは知っていますね。残念なことですが、この屋敷で働いている人の中からも病に罹ってしまった人がいます。ここにお集まってもらった人は、病気になった人と何らかの形でかかわった人たちです。でも勘違いしないでください。ここにいる人が必ずしも病に罹っているわけではありません。ただ、もしかしたらうつっているかもしれません。その時に他の人にうつさないようにするために、念のため10日間、各自の部屋で過ごしていただきます。食事についてはそれぞれの部屋まで持っていきます。10日間何もなければ、病には罹っていないとして一時的にフロンティーネに移ってもらいます。もし病になったとしても安心してください。私が最後まで診ます。ここでの仕事のことは心配しないで構いませんから」

不安なのも分かるけどね、ここはしっかりしておかないと。

「みんなでこの難局を乗り越えましょうね」



さて、最後はお城だね。


**********


「陛下、お身体のほうは如何ですか?」

「ミルランディアか。見ての通りだ」

陛下リオおじさんはかなり具合が悪そうです。

「今はこんな調子でな、何もできん。ルイスもグランも似たようなものだ。ヴォラントもな」

「えっ?」

事態は思ったより深刻なようです。

「そこでミーア、いやミルランディア公爵、其方に国王代行をお願いする。やってもらえるな。其方しかいないのでな」

「でも私は国王代理でもありますが」

「代理ではない、代行だ。国王の権限を全て移譲する」

「私が国王ですか?」

「そういう事だ」

「なぜ、また」

「いまヘンネルベリ王国はこの病で完全にマヒしている。何も決まらないし、何も実行できない。もしこの機に乗じて他国からの侵攻があったら、もしこの機に乗じて今の王国に対して不満を持つ貴族たちが反乱を起こしたらどうすることもできない。この国を護るためにも、ミルランディア、其方しかいないのだ。頼まれてくれるな」

「……分かりました」

「机の上に書類があるので、サインしておいてくれ」

国王の権限の一時的な移譲に関する書類のようです。

「伯爵より上の貴族と領地持ちの貴族たちには、明日このことを発表する」

「明日ですね」

「よろしく頼むぞ。あとこの書類をヴォラントの所へもっていってくれ」

「宰相様も病気なんですよね」

「そうだが、奴なら上手く割り振るだろう。城にいるものすべてが罹っているわけではないのでな」

「なら宰相様にも治療に専念してもらいたいので、宰相についても代行をお願いしたいと思います」

「誰かいるのか」

「うちのジャスティンをお願いしたいと」

「いいだろう。そのことも合わせて伝えてくれ」


「あと、ファシールで患者を受け入れられるようにするつもりです」

「ファシールでか」

「えぇ。今いる人たちはフロンティーネに移ってもらいます。ファシールだけで700世帯ぐらいは受け入れられますので。それにあそこは外部との接触がありませんから」

「それについては任せる。本当はミーアにやらせたくはなかったのだが、申し訳ないな」

「ここまできたら何とかしますよ」

「其方が病に罹るんじゃないぞ」

「分かっています」


このあと、ヴォラント宰相の所、ルイス伯父さんの所、グラン伯父さんの所にお見舞いに行きました。あと城の様子もね。


王都の屋敷に戻ると、ジャスティンが着いていました。

「ジャスティン、明日お城へ一緒に行くわよ」

「お城ですか」

「そう。貴方が宰相代行として私の補佐をしてもらうから」

「はぁ、はい」


(城の様子もそうだったけど、かなり大変そうね)


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